注目論文:GLP-1受容体作動薬は肺癌の予後を改善する可能性

呼吸器内科
糖尿病や肥満の治療薬として広く使用されているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が、過体重・肥満の非小細胞肺癌(NSCLC)患者の予後を改善する可能性を示した興味深い後ろ向きコホート研究です。術後患者では無再発生存期間の延長、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中の患者では全生存期間と無増悪生存期間の延長と関連していました。肥満が肺癌治療に与える影響は知られていますが、本研究はGLP-1RAによる代謝改善が腫瘍微小環境の免疫変調を介して抗腫瘍効果を高める可能性を示唆しており、今後の展開が期待されます。ただし、ICI群のGLP-1RA使用者が10名と非常に少ないため、結果の解釈には慎重さが必要です。
Glucagon-like peptide-1 receptor agonism improves lung cancer outcomes and tumor growth control
グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬は肺癌の転帰と腫瘍増殖制御を改善する
Pachimatla AG, Fitzgerald B, Ogidigo J, 他
JCI Insight. 2025 Aug 26:e195484.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40857107/
背景:
グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、血糖コントロールや減量のために広く使用され、代謝のいくつかの主要な調節因子を変化させる薬剤であり、その使用者において複数のがんの発生率が低下するという新たなエビデンスが示されている。我々は、過体重および肥満の非小細胞肺癌(NSCLC)患者における転帰との関連を調査し、マウスモデルからその機序的洞察を得ることを目的とした。

研究デザイン:
過体重および肥満のNSCLC患者からなる2つの臨床コホート(外科的切除を受けた患者群:n=1,177、うちGLP-1RA使用者71名、および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)投与を受けた患者群:n=300、うちGLP-1RA使用者10名)について、関連する共変量で傾向スコアマッチングを行い、臨床転帰を分析した。

結果:
肺葉切除後、GLP-1RAの使用は過体重および肥満患者における無再発生存期間の延長と関連していた(ハザード比[HR]=0.41 [95%信頼区間(CI)=0.16-1.04], p=0.026)。GLP-1RA治療は、肥満マウスでは腫瘍量を減少させたが、標準体重マウスでは減少しなかった。また、肥満マウスの腫瘍において、がんの進行と抗腫瘍免疫に重要な白血球集団の頻度と表現型、および遺伝子発現パターンを変化させた。進行NSCLC患者において、GLP-1RAと免疫療法の併用は、全生存期間(HR=0.41 [0.16-1.01], p=0.027)および無増悪生存期間(HR=0.31, [0.10-0.94], p=0.019)の改善と関連していた。

結論:
我々のコホートにおいて、GLP-1RAは肺癌特異的な臨床転帰を向上させ、免疫療法の有効性を増強した。前臨床エビデンスは、この効果が肥満に限定され、腫瘍微小環境の免疫変調によって媒介されることを示唆した。