注目論文:肺炎球菌ワクチンは心血管イベントを予防するか?初のRCTの結果

呼吸器内科
肺炎球菌感染と動脈硬化の関連が示唆され、ワクチンによる心血管イベント予防効果が期待されていました。この仮説を検証する初のランダム化比較試験(RCT)がJAMA Cardiology誌に掲載されました。心血管疾患のリスク因子を持つ55〜60歳の成人を対象に、23価肺炎球菌多糖体ワクチン(PPV23)とプラセボを比較しています。結果は、主要評価項目(急性冠症候群、虚血性脳卒中)の発生率に有意差なしというネガティブなものでした。ただし、著者らも指摘するように、イベント発生率が想定より低く、研究が検出力不足(underpowered)であった点は重要な限界です。現時点でPPV23を心血管予防目的に推奨はできませんが、この一報で結論付けるのは早計かもしれません。
Prevention of Adverse Cardiovascular Events Using the 23-Valent Pneumococcal Polysaccharide Vaccine: A Randomized Clinical Trial
23価肺炎球菌多糖体ワクチンを用いた心血管有害事象の予防:ランダム化臨床試験
Hure A, Peel R, D'Este C, et al.
JAMA Cardiol. 2025 Sep 17:e253043.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40960793/
重要性:
動物実験やヒトの観察研究のメタアナリシスでは、肺炎球菌多糖体ワクチン(PPV)がアテローム性動脈硬化に対して保護的に作用する可能性が示唆されていますが、著者らの知る限り、ランダム化臨床試験は実施されていません。

目的:
肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)が、リスクが高い人々において、致死的および非致死的な急性冠症候群および虚血性脳卒中の複合主要評価項目を減少させるかどうかを、接種後平均7年間の追跡で明らかにすること。

研究デザイン、設定、参加者:
オーストラリアの6施設で実施された二重盲検プラセボ対照並行群間ランダム化臨床試験です。参加者は、2016年から2017年のベースライン時点で55歳から60歳の地域在住成人で、心血管疾患(CVD)のリスク因子(肥満、高血圧、または高コレステロール血症)を2つ以上有するが、CVDイベントの既往や早期の肺炎球菌ワクチン接種の適応がない者としました。データは2023年2月から2024年12月にかけて、性別と施設で層別化した競合リスク比例ハザード回帰モデルを用いて解析されました。

介入:
参加者は23価肺炎球菌多糖体ワクチン(PPV23)またはプラセボ(生理食塩水)のいずれかを接種されました。

主要評価項目と測定:
主要評価項目は、致死的および非致死的な心筋梗塞または虚血性脳卒中の複合であり、国際疾病分類第10版オーストラリア修正版(ICD-10-AM)コードを用いて、救急部門、入院患者、および死亡データ収集からの電子カルテを通じて確認されました。

結果:
合計4725人の参加者(平均[SD]年齢、58.0[1.7]歳;男性2433人[52%])が本研究に含まれました。主要評価項目に有意差は認められませんでした(PPV23実薬群で2366人中58イベントに対し、対照群で2357人中64イベント、ハザード比0.90;95%CI 0.63-1.28;P = .57)。同様に、探索的評価項目である全死因死亡、全原因での病院受診、およびCVD関連の病院での処置においても有意差はありませんでした。これらの結果は、予想よりも低いイベント発生率により検出力が低くなったことによって限定的に解釈されるべきです。

結論と関連性:
このランダム化臨床試験の結果、PPV23は致死的および非致死的な急性冠症候群および虚血性脳卒中の発生率を減少しませんでしたが、研究は検出力不足でした。