注目論文:成人RSウイルス入院の発生率と症例定義の重要性

呼吸器内科
高齢者におけるRSウイルス(RSV)感染症の負荷は、これまで過小評価されてきました。本研究はスペインでの10年間にわたる大規模な前向き監視研究であり、その臨床的意義は非常に大きいです。特に、60歳以上の成人で平均約1000人に1人がRSVで入院するという結果は、この疾患が稀ではないことを示しています。さらに重要なのは、症例定義によって発生率の推定値が最大40%も変動するという点です。インフルエンザ様症状(ILI)のみを対象にすると、実際の負荷を見逃す可能性があり、これは今後のサーベイランスやワクチン効果を評価する上で極めて重要な視点です。本邦でもRSVワクチンの導入が始まった今、正確な疾病負荷の把握が急務と言えます。
Ten-Year Surveillance of Respiratory Syncytial Virus Hospitalizations in Adults: Incidence Rates and Case Definition Implications
成人におけるRSウイルスによる入院の10年間のサーベイランス:発生率と症例定義の意義
Urchueguía-Fornes A, Muñoz-Quiles C, Mira-Iglesias A, López-Lacort M, Mengual-Chuliá B, López-Labrador FX, Díez-Domingo J, Orrico-Sánchez A.
J Infect Dis. 2025 Jun 2;231(5):e830-e839.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39907319/
背景:
高齢者におけるRSウイルス(RSV)の影響は十分に認識されておらず、入院発生率に関する限られた既存の研究では大きなばらつきが見られます。本研究は、60歳以上の成人におけるRSVによる入院の季節性発生率(IRs)を推定し、異なる症例定義がこれらの推定値にどのように影響するかを評価することを目的としています。

研究デザイン:
10シーズン(2010-2011年から2019-2020年)にわたり、4-10の病院(シーズンによる)で積極的モニタリングを伴う前向き多施設共同観察研究が実施され、地域総人口(約500万人)の21%-46%をカバーしました。10万人年あたりのRSV入院発生率と95%信頼区間をポアソン法で算出し、年齢層(60歳以上、70歳以上、80歳以上)、RSVシーズン、性別、および全研究期間で層別化しました。インフルエンザ様疾患(ILI)と、ILIと広範な重症急性呼吸器感染症(SARI)を組み合わせた定義(ILI/SARI)の2つの症例定義を比較しました。

結果:
60歳以上の入院患者40,600人が対象となりました。RSV入院発生率は10万人年あたり21から402の範囲であり、シーズン、年齢層、症例定義によって変動しました。最も高い発生率は80歳以上の群で観察されました。ILIの症例定義は、ILI/SARIの症例定義と比較して、RSVによる入院を13%-40%過小評価していました。

結論:
平均して、60歳以上の成人約1000人に1人がRSVが原因で入院しています。重症RSV感染のリスクは年齢とともに増加し、シーズン間で大きく異なります。これらの結果は、新たに利用可能となったRSVワクチンの潜在的な影響を推定するための鍵となります。