注目論文:進行非小細胞肺癌の化学免疫療法における腸内細菌叢の役割:JCOG2007付随研究

呼吸器内科
進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対する化学免疫療法において、腸内細菌叢が治療効果や有害事象の予測マーカーになり得ることを示した本邦からの重要な報告です。これは大規模な第III相臨床試験(JCOG2007)に付随した研究であり、エビデンスの質は高いと言えます。特にFusicatenibacterやButyricicoccusといった特定の細菌が多いと予後が良好で、重篤な有害事象も少ない傾向が示されました。さらに、この関連はニボルマブとイピリムマブの併用療法でより顕著であり、将来的には腸内細菌叢のプロファイルが、個々の患者に最適なレジメンを選択する上での一助となる可能性を秘めています。個別化医療の実現に向けた大きな一歩です。
Gut Microbiota in Advanced NSCLC Receiving Chemoimmunotherapy: An Ancillary Biomarker Study From the Phase III Trial JCOG2007 (NIPPON)
進行非小細胞肺癌における化学免疫療法と腸内細菌叢:第III相臨床試験JCOG2007(NIPPON)からの付随的バイオマーカー研究
Hakozaki T, Tanaka K, Shiraishi Y, et al.
J Thorac Oncol. 2025 Jul;20(7):912-927.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40058642/
背景:
免疫療法は非小細胞肺癌(NSCLC)の治療を大きく変えましたが、治療選択のための信頼できるバイオマーカーは依然として不足しています。腸内細菌叢は潜在的なバイオマーカーとして浮上していますが、NSCLCに対する化学免疫療法におけるその役割は不明です。

研究デザイン:
第III相試験(JCOG2007, NIPPON)では、ドライバー遺伝子変異のない未治療の進行NSCLC患者を対象に、ペムブロリズマブ+プラチナ併用化学療法(PC)と、ニボルマブおよびイピリムマブ+プラチナ併用化学療法(NIC)を比較しました。付随的バイオマーカー研究として、登録された295名のうちベースラインの糞便検体が得られた270名の患者について腸内細菌叢の組成を分析しました。多様性および菌種の存在量の差を分析するために16SリボソームDNAシークエンシングを行いました。

結果:
全コホート(n = 270)のベータ多様性解析により、全生存期間(OS)が12ヶ月または18ヶ月を超えるかで定義された集団間で、微生物の構成が明確に異なることが明らかになりました。その後の線形判別分析効果量解析により、OSが長い患者で豊富に存在するFusicatenibacter属、Butyricicoccus属、Blautia属といった特定の細菌属が同定されました。有害事象(AEs)に関しては、低い微生物アルファ多様性と特定の菌種の存在が、重篤な(グレード4以上)AEのリスク上昇と関連していました。さらに、Fusicatenibacter属やButyricicoccus属を含む良好とされる菌属は、重篤なAEのリスク低下と関連していました。最後に、レジメン特異的解析により、Fusicatenibacter属とButyricicoccus属の存在量が多いことは、CP群と比較してNIC群において良好なOSと関連していることが示されました(OSのハザード比はそれぞれ0.56と0.52)。逆に、Prevotellaceae NK3B31 groupの存在量が多いことは、NIC群において高い死亡リスクと関連していました(OSのハザード比 = 2.33)。

結論:
腸内細菌叢は、進行NSCLCにおける化学免疫療法のバイオマーカーとして機能する可能性があります。微生物の多様性および特定の細菌属の違いは、予後および重篤な有害事象と関連しており、レジメン特異的な効果を持つ可能性が示唆されました。これらの知見は、初回治療戦略を最適化するために、腸内細菌叢のプロファイリングを臨床診療に統合することを支持するものです。