注目論文:免疫不全患者における高用量インフルエンザワクチンの有効性と安全性

呼吸器内科
免疫不全患者へのインフルエンザワクチン接種において、標準用量で十分な免疫応答が得られるかは長年の臨床的課題でした。この系統的レビューとメタアナリシスは、16のランダム化比較試験(RCT)を統合し、高用量ワクチンが標準用量に比べて全ての株で優れた免疫原性を示すことを明らかにしました。安全性プロファイルも同等(注射部位痛は高用量で多い)であり、臨床現場でのワクチン選択に重要な示唆を与えます。ただし、論文でも指摘されている通り、評価項目は免疫原性が中心であり、実際の感染予防効果(clinical effectiveness)に関するデータはまだ不十分です。今後の大規模RCTで臨床的有効性が示されれば、特定の免疫不全集団への高用量ワクチン推奨がさらに強固なものとなるでしょう。
High-dose versus standard-dose influenza vaccine for immunocompromised patients: A systematic review and meta-analysis of randomised clinical trials
免疫不全患者に対する高用量インフルエンザワクチンと標準用量インフルエンザワクチンの比較:ランダム化臨床試験の系統的レビューとメタアナリシス
Rivera-Izquierdo M, Verdejo-Iáñez A, Morales-Portillo A, 他
J Infect. 2025 Jun 23;91(2):106538.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40562238/
背景:
免疫不全患者は重症インフルエンザの高いリスクを呈し、ワクチン接種に対する反応も低い傾向があります。

研究デザイン:
2024年3月までMedline、Web of Science、Scopus、ClinicalTrials.govで制限を設けずに検索を実施しました。免疫不全患者における高用量と標準用量のインフルエンザワクチンの免疫原性または安全性を報告したランダム化臨床試験(RCT)を対象としました。プロトコルは事前に登録され(PROSPERO ID: CRD42023466202)、ランダム効果モデルを用いてメタアナリシスを行いました。異質性はI²統計量で評価し、サブグループ解析、ファンネルプロットおよびEgger's testによる出版バイアスの評価も行いました。

結果:
16のRCTから得られた21の解析が含まれました。免疫原性に関して(1862人の患者を含む)、高用量インフルエンザワクチンは、すべての株に対して標準用量よりも高い血球凝集抑制法の幾何平均抗体価と高いセロコンバージョン率を示しました(H1N1: RR=1.30, 95%CI: 1.04-1.57; H3N2: RR=1.22, 95%CI: 1.03-1.41; B型: RR=1.39, 95%CI: 1.15-1.63)。これらの結果は、方法論的質が高い研究やサンプルサイズが大きい研究でより顕著でした。安全性に関して(1403人の患者を含む)、報告された有害事象に差はありませんでしたが、疼痛は高用量ワクチン群でより多く認められました(RR=1.29, 95%CI: 1.04-1.54)。高用量ワクチン群は臨床的アウトカムの頻度が低い傾向にありましたが、臨床的有効性を分析した研究が少数であったため、データは決定的ではありませんでした。

結論:
高用量インフルエンザワクチンは、標準用量ワクチンと比較して高い免疫原性と同等の安全性を示し、免疫不全患者への推奨が考慮されるべきです。特定の免疫不全集団への推奨を行うためには、臨床的有効性を分析する、より大規模な将来のRCTが必要です。