注目論文:成人RSV感染症の脅威とワクチンによる予防の重要性

呼吸器内科
RSV(呼吸器合胞体ウイルス)は小児の疾患というイメージが根強いですが、その認識を根本から改めるべき時期に来ています。本総説で引用されている2019年のデータでは、70歳以上の成人におけるRSV関連死亡率が5歳未満の小児を上回ったとされており、これは臨床家にとって衝撃的な事実です。特異的な治療薬が存在しない現在、高齢者や基礎疾患を有する成人にとってRSVはインフルエンザと同様か、それ以上に危険な存在と言えます。近年、日本でも成人向けのワクチンが複数承認されました。我々臨床医は、この「新しい」脅威に対する武器として、ワクチン接種を積極的に検討・推奨していく責務があると考えます。ただ、日本においては疫学データが乏しく、まずは国内の疫学データの収集が必要です。
Respiratory syncytial virus (RSV) infections in adults: Current trends and recommendations for prevention - a global challenge from a local perspective
成人におけるRSウイルス(RSV)感染症:現在の動向と予防のための推奨事項 - 地域的視点から見た世界的な課題
Tanriover MD, Azap A, Cakir Edis E, Ozger HS, Pullukcu H, Sonmezer MC, Dursun OU, Merter S, Sayiner A.
Hum Vaccin Immunother. 2025 Dec;21(1):2514357.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40530658/
要約:
RSウイルス(RSV)は下気道感染症(LRTI)の主要な原因であり、特に小児と高齢者にとって大きな健康上の脅威です。疫学データによると、2019年には70歳以上の成人におけるRSV関連の世界の死亡率が、5歳未満の小児の死亡率を上回りました。効果的な介入により5歳未満の小児におけるRSV関連死は経時的に減少していますが、高齢者や基礎疾患を持つ成人にとっては、RSVはますます重要な問題となっています。さらに、現在、成人におけるRSV感染症に対する特異的な治療法はなく、予防の重要性が際立っています。最近、成人向けに3つのワクチン(RSVPreF3, RSVpreF, mRNA-1345)が承認されました。本稿では、低・中所得国(LMIC)の一つであるトルコにおける現状に触れつつ、成人におけるRSV感染症の特徴と、RSVワクチンの安全性および有効性に関するエビデンスを概説することを目的としました。