注目論文:欧州中所得国におけるCOVID-19重症化とワクチン接種率低下の乖離

呼吸器内科
パンデミックが過去のものとなりつつある中で、COVID-19の現状を捉えた重要な報告です。欧州の中所得国では、SARI(重症急性呼吸器感染症)による入院患者に占めるCOVID-19の割合は減少したものの、入院後の重症度はむしろ上昇していました。それにも関わらず、過去1年以内のワクチン接種率は25%から3%へと激減しています。日本のこの夏に流行の可能性が出ており,高齢者におけるワクチン接種が推奨されると考えられます。
COVID-19 Hospitalizations, Vaccine Uptake, Vaccination Guidelines, and Vaccine Availability in Six Middle-Income Countries and Areas in Europe, May 2022-April 2024
欧州6つの中所得国・地域におけるCOVID-19による入院、ワクチン接種率、予防接種ガイドライン、ワクチン供給状況(2022年5月~2024年4月)
Whitehouse ER, Elish P, Kureta E, et al.
Influenza Other Respir Viruses. 2025 Jun;19(6):e70126.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40533083/
背景:
COVID-19の疫学とワクチン接種に関する最新の地域データは、ワクチン政策と実施戦略に情報を提供しうるものです。

研究デザイン:
欧州SARIワクチン有効性(EuroSAVE)ネットワークからの入院患者サーベイランスデータを使用し、2022年から2024年にかけてWHO欧州地域の6つの中所得国・地域(CA)における重症急性呼吸器感染症(SARI)で入院した成人のCOVID-19疫学とワクチン接種率を記述しました。SARI患者について、人口統計、併存疾患、ワクチン接種状況、入院経過に関するデータを収集し、呼吸器検体はRT-PCRでSARS-CoV-2を検査しました。2024年10月に、各国の公衆衛生研究所職員に国のCOVID-19ワクチンガイドラインと供給状況について調査しました。

結果:
SARI患者のうち、SARS-CoV-2陽性者は2022年5月~2023年4月で3982人中833人(20.9%)、2023年5月~2024年4月で3752人中367人(9.8%)でした。COVID-19患者のうち、857人(71.4%)が60歳以上で、713人(59.4%)が1つ以上の併存疾患を有していました。2022年5月~2023年4月と比較して、2023年5月~2024年4月のCOVID-19患者では、人工呼吸器を必要とする割合(8.2% vs 2.8%, p<0.001)および集中治療を必要とする割合(13.1% vs 8.4%, p=0.016)が高くなりました。過去12ヶ月以内のCOVID-19ワクチン接種率は、2022-2023年の25%から2023-2024年には3%に減少しました。ほとんどのCAは、年間接種を推奨するようにCOVID-19ワクチンガイドラインを更新しておらず、ワクチンが利用可能だったのは2カ国のみでした。

結論:
SARI患者においてCOVID-19は重症化と関連していましたが、WHOのガイダンスで接種が推奨される優先集団におけるCOVID-19ワクチン接種率は低水準でした。ワクチン接種率が低い理由を理解し、ワクチンへのアクセスを改善するための継続的な努力が、COVID-19関連の罹患や死亡のリスクが最も高い人々を保護するために役立つでしょう。