肺真菌感染症（PFI）は、診断・治療共に難渋することが多く、臨床現場では常に悩ましい存在です。本研究は、Global Burden of Disease (GBD) データベースという大規模データを用いて、PFIの経年的変化と将来予測をグローバルな視点で示した貴重な報告と言えるでしょう。特に、高齢者層や低・中所得国での死亡率上昇という現実は重く受け止めるべきです。2044年には死亡者数が87,000人を超えるという予測であり，呼吸器内科医として、また国際的な保健政策に関わる立場としても、PFI対策の重要性を改めて認識させられます。診断精度の向上や新規治療法の開発はもちろんのこと、予防戦略や国際協力体制の構築が急務であることを示唆しています。

背景：
肺は侵襲性真菌感染症の最も一般的な部位であり、肺真菌感染症（PFI: pulmonary fungal infections）の診断と治療は大きな課題を伴い、相当な疾病負荷を伴います。地球規模の要因は、将来的にPFIのリスクを高める可能性があります。PFIの世界的負荷を評価することは、適切な予防および管理のための措置を実施する上で極めて重要です。

研究デザイン：
本研究の目的は、1990年から2021年までのPFIの負荷を世界的、地域的、国レベルで評価し、2044年の予測を行うことでした。PFIによる死亡および障害調整生命年（DALY: disability-adjusted life years）に関するデータは、Global Burden of Disease (GBD) データベースから抽出されました。分析と視覚化には、線形回帰、複雑な不平等指標、およびNordpredモデルが使用されました。

結果：
2021年において、世界のPFIの発生件数は562万件（95%不確実性区間[UI]: 493万～640万件）、死亡者数は45,542人（95%UI: 39,299～51,944人）と推定されました。年齢標準化死亡率は人口10万人あたり0.56人（95%UI: 0.48～0.64人）でした。1990年から2021年にかけて、推定年間変化率は-1.03%（95%信頼区間[CI]: -1.13%～-0.93%）でしたが、低・中所得国では死亡率の増加が観察されました。死亡率は50歳以上の個人で有意に増加しました。2044年までには、PFIによる死亡者数は87,000人を超え、人口10万人あたり約0.58人の割合になると予測されています。

結論：
PFIは注目に値する重大な世界的課題であり、この問題に共同で対処するための国際協力が必要です。