注目論文:RSV入院成人における心血管イベントリスク、COVID-19やインフルエンザとの比較

呼吸器内科
RSV(RSウイルス)感染症は、小児だけでなく成人、特に心血管リスクを有する高齢者にとっても看過できない疾患です。シンガポールで行われたこの大規模横断研究では、RSVで入院した成人の約11%が急性心血管イベントを経験し、そのオッズはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)入院患者よりも有意に高いことが示されました。パンデミック後のデータでは、インフルエンザ入院患者と比較してもRSV入院患者で心不全のオッズが高いという結果は注目に値します。現在、日本でもRSVワクチンが使用可能になりましたが、本研究結果は、心血管疾患の既往がある患者さんへのワクチン接種の重要性を支持するエビデンスの一つとなるでしょう。呼吸器感染症が心血管系へ及ぼす影響を再認識し、予防的介入の意義を考える上で貴重なデータです。
Cardiac Events in Adults Hospitalized for Respiratory Syncytial Virus vs COVID-19 or Influenza
RSV感染症で入院した成人における心血管イベント:COVID-19またはインフルエンザとの比較
Wee LE, Lim JT, Ho RWL, Chiew CJ, Lye DCB, Tan KB.
JAMA Netw Open. 2025 May 1;8(5):e2511764.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40402498/
背景:
呼吸器ウイルス感染症(RVI)は心血管リスクの上昇と関連していますが、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)による入院後の心血管合併症については、他のワクチンで予防可能なRVI(COVID-19やインフルエンザ)と比較してあまり知られていません。本研究の目的は、RSVで入院した成人と、COVID-19またはインフルエンザで入院した成人における急性心血管合併症のリスクを比較することです。

研究デザイン:
本研究は、シンガポールにおけるRSVワクチン導入前に実施された集団ベースの横断研究です。2017年1月1日から2024年6月30日までに入院したRSVまたはインフルエンザの全成人と、オミクロンXBB/JN.1株流行期(2023年1月1日から2024年6月30日まで)にCOVID-19で入院した全成人を評価対象としました。曝露は、RSV、インフルエンザ(ワクチン接種歴の有無を問わない)、またはCOVID-19(ブースター接種あり[ワクチン3回以上接種]またはブースター接種なし[ワクチン3回未満接種])による入院としました。主要評価項目は、RSV、インフルエンザ、またはCOVID-19による入院中に発生した心血管イベント(あらゆる心臓イベント、脳血管イベント、または血栓性イベントと定義)で、入院から退院または死亡までに発生したものとしました。あらゆる心血管イベントの発生オッズ(RSV対COVID-19、またはRSV対インフルエンザ)および急性心血管イベントの有無にかかわらず重症RVI(集中治療室への入院)の発生オッズを、社会人口統計学的および臨床的特徴について調整した多変量ロジスティック回帰分析を用いて推定しました。

結果:
合計32,960件のRVIによる入院(患者の平均[SD]年齢、66.58[18.99]歳;女性17,056人[51.7%])が解析対象となりました(RSVによる入院2,148件、インフルエンザによる入院14,389件、COVID-19による入院16,423件)。RSVで入院した患者2,148人のうち、234人(10.9%)が急性心血管イベントを発症しました。RSVによる入院は、ブースター接種済みのCOVID-19による入院と比較して、あらゆる急性心血管イベントのオッズが高く(調整オッズ比[AOR] 1.31;95%信頼区間[CI] 1.12-1.54)、個々の心臓イベント(不整脈:AOR 1.52;95% CI 1.19-1.94、心不全:AOR 1.75;95% CI 1.30-2.35)についても同様でした。同様に、RSVで入院した患者は、ブースター未接種のCOVID-19と比較しても、あらゆる急性心血管イベントのオッズが高く(AOR 1.58;95% CI 1.24-2.01)、不整脈や心不全のオッズも高値でした。RSVとインフルエンザ間では、心血管イベントのオッズに有意差は認められませんでしたが、パンデミック後(2023-2024年)の同時期の入院においては、RSVによる入院はワクチンブレイクスルーインフルエンザ(ワクチン接種歴のあるインフルエンザ)による入院と比較して、心不全のオッズが有意に高くなりました(AOR 2.09;95% CI 1.21-3.59)。心血管イベントの発生は、集中治療室への入院を要する重症RSVのオッズ上昇と関連していました(AOR 2.36;95% CI 1.21-4.62)。

結論:
この横断研究において、RSVで入院した患者の10人に1人が急性心血管イベントを併発していました。心イベントのオッズは、ワクチンのブースター接種の有無にかかわらず、COVID-19入院患者と比較してRSV入院患者で有意に高値でした。パンデミック後(2023-2024年)のRSVまたはインフルエンザによる同時期の入院では、RSV入院患者はワクチンブレイクスルーインフルエンザ入院患者と比較して心不全のオッズが有意に高値でした。これらの知見は、心血管リスクを元々有する患者はRVIに対するワクチン接種を検討すべきであることを示唆しています。