注目論文:慢性閉塞性肺疾患(COPD)診断への多角的アプローチ:画像・症状・肺機能の統合評価

呼吸器内科
COPDの診断は長らくスパイロメトリーの気流閉塞がゴールドスタンダードでしたが、症状や画像所見との乖離は臨床現場で常に議論の的でした。本研究は、CTでの気腫や気道壁肥厚、呼吸困難、QOLといった多次元的要素を診断基準に組み込むことの重要性を示した画期的な報告です。この新アプローチにより、従来の基準ではCOPDと診断されなかったものの予後不良な一群を新たに捉え、逆に気流閉塞があっても臨床的に問題の少ない群を非COPDとする可能性が示されました。これはCOPDの早期介入や個別化医療への大きな一歩と言えるでしょう。ただし、診断におけるCTの役割増大は、医療資源の観点からも慎重な議論が必要です。今後のガイドライン改訂にも影響を与える重要な提言です。
A Multidimensional Diagnostic Approach for Chronic Obstructive Pulmonary Disease.
慢性閉塞性肺疾患(COPD)診断への多角的アプローチ:画像・症状・肺機能の統合評価
COPDGene 2025 Diagnosis Working Group and CanCOLD Investigators; Bhatt SP, Abadi E, Anzueto A, et al.
JAMA. 2025 May 18.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40382791/
背景:
慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクがありながらスパイロメトリーで気流閉塞を認めない人でも、呼吸器症状や胸部CT(コンピュータ断層撮影)での構造的肺疾患を有することがあります。しかし、現行のガイドラインは画像異常を診断基準に組み込んでいません。

目的:
呼吸器症状とCT画像異常を含む多次元的なCOPD診断スキーマが、従来見逃されていた可能性のあるCOPD患者を新たに特定できるかを検証すること。

研究デザイン:
米国のCOPDGeneコホート(10305人、追跡期間2007-2022年)とカナダのCanCOLDコホート(1561人、追跡期間2009-2023年)という2つの大規模縦断的コホート研究のデータを使用しました。新しい多次元COPD診断スキーマは、(1)主要診断カテゴリー:主要基準(気管支拡張薬吸入後1秒量(FEV1)/努力肺活量(FVC)比 <0.70)と5つの副次基準(CTでの気腫または気道壁肥厚、呼吸困難、低い呼吸器関連QOL(Quality of Life)、慢性気管支炎)のうち1つ以上を満たす、または(2)副次診断カテゴリー:5つの副次基準のうち3つ以上(他の原因による呼吸器症状の可能性がある個人では、気腫と気道壁肥厚を必ず含む)を満たす、と定義されました。主要評価項目は総死亡、呼吸器関連死、増悪、年間FEV1変化量としました。

結果:
COPDGeneコホート(解析対象9416人)において、気流閉塞のない人の15.4%(5250人中811人)が副次診断カテゴリーにより新たにCOPDと分類されました。これらの新規COPD診断群は、COPDでないとされた群と比較して、総死亡リスク(調整ハザード比[HR] 1.98、95% CI, 1.67-2.35; P < .001)、呼吸器関連死リスク(調整HR 3.58、95% CI, 1.56-8.20; P = .003)、増悪頻度(調整発現率比[IRR] 2.09、95% CI, 1.79-2.44; P < .001)、FEV1年間低下量(調整β = -7.7 mL/y; 95% CI, -13.2 to -2.3; P = .006)がいずれも有意に不良でした。逆に、気流閉塞があっても新基準でCOPDとされなかった群(4166人中282人、6.8%)の予後は、気流閉塞のない群と類似していました。CanCOLDコホートでも、新規COPD診断群は増悪が多いことが確認されました(調整IRR 2.09、95% CI, 1.25-3.51; P < .001)。

結論:
呼吸器症状、呼吸器関連QOL、スパイロメトリー、およびCTでの構造的肺異常を統合した新しいCOPD診断スキーマは、従来COPDと診断されなかったものの臨床的に重要な予後不良のリスクを持つ一部の患者群を新たにCOPDとして特定しました。また、気流閉塞があっても症状や構造的肺疾患に乏しい場合はCOPDから除外する可能性も示唆されました。