腱板損傷

【腱板とは】

肩の関節は上腕骨(ボールの形)と肩甲骨(受け皿の形)からなります。このボールの部分を受け皿の部分に引き寄せて肩の関節を安定化させるために働く小さな筋肉のことを総称して腱板(Rotator Cuff)と言います。前方から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の順で並んでいます。1)

【傷めやすい動作】

腱板を傷めてしまう動作の例としては、重い荷物を高い棚に置こうと持ち上げたり、腕を伸ばして車の後部座席のかばんを取ろうとしたり、布団の上げ下ろしをしたり、といったことが挙げられます。また、手をついて転倒したり、肩を強く打ちつけたりしても痛めてしまいます。こういった事がきっかけで腱板を痛めてしまうといくつか特徴的な症状がおこります。1)

【症状】

まず肩の外側が痛く感じます。特に夜間に痛みが出たり、朝痛みのために目が覚めたりします。また長時間脇を開いて荷物を持てなくなります。支えてあげれば腕を挙げるが出来るが、自力では腕を挙げることが出来ないといった症状も現れます。1)

【保存療法】

腱板損傷はまずはリハビリで症状を改善するように治療します。不完全な損傷であったり、きわめて小さな損傷で症状が少ない方には、猫背などの姿勢を改善するトレーニングや肩甲骨周囲のストレッチ・筋力強化をしたり、日常生活動作の指導などを行って、症状を抑えていきます。それと同時に腱板損傷後に起こりやすい拘縮肩(俗に「四十肩」などと呼ばれる肩関節の動きが悪くなる状態)を予防するために肩関節の可動域改善訓練を行います。2)

【手術療法】

保存的療法であまり症状が改善しない方や、完全に腱板が断裂している方などは関節鏡で腱板を修復する方法を行っています。以前のように大きな傷を作ることなく、1cm程度の小さな傷から関節鏡を肩の中に入れ、モニターを見ながら断裂した腱板を縫合します。

近年では腱板縫合方法も様変わりしております。以前は上腕骨頭にねじを1本挿入し、それについた糸の方端を腱板に通し、糸の反対の端と縫合する(simple suture)方法がとられておりましたが、腱板を糸が切り抜いてしまう合併症が報告されておりました。

そこで近年では腱板を面で上腕骨頭に圧着でき、かつ関節液が腱板と上腕骨頭の間にしみこんで癒合を阻害しないようにsuture bridge法(図1)という縫合の仕方が最も優れていると最新の研究では報告されており、我々もその方法で手術を行っております。これは内側に2本の特殊な素材のねじを挿入し、それにつけた靴ひものような特殊な糸を交差させて外側に2本のねじを用いることで固定する、という手技です。

これにより図の斜線部が面で圧着でき、かつ関節液が腱板面と骨頭のあいだにしみこんでくるのを防げるとされております。3),4),5)

腱板損傷

【術後リハビリ】

術後リハビリは、4週間腕が動かないように装具で固定します(ただし他動外旋運動のみ可能)。7週以降より他動での他動挙上運動開始され、術後3ヶ月より自動運動(御自身の力で腕を動かすこと)が可能となります。可動域と筋力が十分に回復していれば、術後6ヶ月より重労働やスポーツ競技復帰が可能です。6),7)

【出典】

1) DeLee: DeLee and Drez's Orthopaedic Sports Medicine, 3rd ed,volume1,2009,Saunders,986-1015

2) Kuhn JE.,Exercise in the treatment of rotator cuff impingement: a systematic review and a synthesized evidence-based rehabilitation protocol,J Shoulder Elbow Surg. 2009 Jan-Feb;18(1):138-60.

3) Gartsman GM, Drake G, EdwardsTB, et al. Ultrasound evaluation of arthroscopic full-thickness supraspinatus rotator cuff repair: single-row versus double-row suture bridge (transosseous equivalent) fixation- results of a randomized, prospective study. Presented at the 2009 Closed Meeting of the American Shoulder and Elbow Surgeons; October 25,2009, New York, NY.

4) Lo IK, Burkhart SS. Transtendon arthroscopic repair of partial thickness, articular surface tears of the rotator cuff. Arthroscopy. 2004; 20: 214-220.

5) Arrigoni P, Brady PC, Burkhart SS. The double-pulley technique for double-row rotator cuff repair. Arthroscopy. 2007; 23: 675. e1-675.e4.

6) Ross D,Rehabilitation Following Arthroscopic Rotator Cuff Repair:A Review of Current Literature,J Am Acad Orthop Surg. 2014 Jan;22(1):1-9.

7) Keener JD,Rehabilitation following arthroscopic rotator cuff repair: a prospective randomized trial of immobilization compared with early motion.,J Bone Joint Surg Am. 2014 Jan 1;96(1):11-9.

このサイトの監修者

亀田総合病院
スポーツ医学科主任部長 大内 洋

【専門分野】
スポーツ整形外科、関節鏡手術、スポーツ整形外科疾患に対する超音波診断
PRP療法、体外衝撃波、高気圧酸素治療の最新治療法