フルオロキノロン系抗菌薬について

フルオロキノロン系抗菌薬について

★要点★

  • 3つ覚える:シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン
  • 第1選択となる状況は限られる(レジオネラ肺炎、βラクタムアレルギー etc.)
  • 使用する場合は、副作用・薬物相互作用・結核への影響、を特に注意する

①種類:3つ覚える

  • シプロフロキサシン(CPFX)
  • レボフロキサシン(LVFX)
  • モキシフロキサシン(MFLX)

②スペクトラム
(1)グラム陰性桿菌
・緑膿菌や腸内細菌科細菌などのグラム陰性桿菌を広くカバーする
・MFLXは、緑膿菌活性が劣るため、緑膿菌感染症には使用しない
・緑膿菌に対しては、CPFXを使用する
 例えばFNの外来治療(緑膿菌を意識)の場合は、CPFXがもっとも推奨されている2)
(2)グラム陽性球菌
・ブドウ球菌に活性はあるが、第1選択ではないし、ほぼ使用しない
・LVFXとMFLXは肺炎球菌をカバーする(respiratory quinolone)
(3)嫌気性菌(主にBacteroides spp.)
・MFLXは効果があるとされるが、感受性率がよいわけではないので通常使用しない
(4)その他
・LVFX(とMFLX)は結核への効果が高く、1st line drugsの代替薬となる

③投与量(腎機能正常の場合)3-6)
(1)シプロフロキサシン
 内服:500mg 1日2回
 点滴静注:300-400mg 1日2回(日本の製剤は300mg/bag)
(2)レボフロキサシン
 内服・点滴静注:500-750mg 1日1回
(3)モキシフロキサシン
 内服:400mg 1日1回
※日本の添付文書と投与量が違うことがあるので注意(特にCPFX)
※MFLXは肝代謝(腎機能によって投与量調整不要)
※CPFXとLVFXは腎機能で投与量調節必要
※概ねどの臓器への移行性もよいが、MFLXは尿路感染症に使用不可

④適応となる臨床状況
・乱用はさけるべき(副作用、薬物相互作用、抗結核作用、広域スペクトラム)
・適応となる臨床状況は非常に限られている
・「第1選択!」という状況は、「レジオネラ肺炎」くらいだと思われる
(1)βラクタム系抗菌薬が使用できない時
・AmpC過剰産生菌で、フルオロキノロン感性の場合(代替薬:ST合剤)
・ESBL産生菌で、フルオロキノロン感性の場合(代替薬:ST合剤)
・βラクタム系抗菌薬が副作用(アレルギーなど)で使用できない場合
(2)外来治療をする場合
・急性腎盂腎炎(CPFX):代替薬→ST合剤
・肺炎(LVFX):代替薬→AMPC/CVA(標準治療ではない)
・緑膿菌感染症:外来治療となる症例は少ないと思われる(膀胱炎、軽症腎盂腎炎)
(3)緑膿菌(または耐性傾向の強い腸内細菌科細菌)カバーにおける併用治療
※院内アンチバイオグラムを参考にする(施設によっては併用は不要)
※βラクタム系抗菌薬+(アミノグリコシド or フルオロキノロン)
・院内肺炎
・人工呼吸器関連肺炎
・shockを呈するFN
(4)その他
・レジオネラ肺炎(代替薬:AZM)
・AML/MDS寛解導入療法やallo移植時のFN予防(LVFX or CPFX)
・ST合剤が使用できないStenotrophomonas maltophilia感染症
・感受性のある腸チフスなどのSalmonella感染症で、治療対象となるもの
・腹腔内感染症(腹腔内膿瘍など)のoral switch時の治療
 CPFX or LVFX + Metronidazole、MFLX単剤(通常選択しない)

⑤スペクトラムはあるが第1選択とならない例(非定型肺炎)7-14)
・Mycoplasma pneumoniae肺炎:(1)AZM(2) Doxy(3)LVFX
・Chlamydia pneumoniae肺炎:(1)AZM(2)Doxy(3)LVFX
・Chlamydia psittaci肺炎:(1)Doxy(2)AZM
・Legionella肺炎:(1)LVFX or AZM

⑥フルオロキノロンの問題点
・大きく3つある
- 副作用
- 薬物相互作用
- 結核
(1)副作用
・腱、筋肉、関節、中枢神経系、末梢神経系の不可逆的副作用
→2016年にFDAの添付文書「警告」が改訂された15)
・血糖の変動、重症筋無力症の悪化のリスク、QT延長
(2)薬物相互作用
・禁忌ではないが、以下に注意(Lexicompで毎回確認すること)
- QT延長を来す薬剤との併用
- 経口血糖降下薬との併用
- MgやFe剤やアルミニウム製剤と一緒に内服すると吸収が低下(キレート形成)
- NSAIDsとの併用(痙攣誘発のリスク)
(3)結核
・肺結核の診断を遅らせる可能性がある16, 17)
・100日以内のFQの5日以上の使用が、喀痰スメア陰性に関連し、診断の遅れにつながる可能性がある18)
・10日を超えるFQの使用や複数回のFQの処方で、FQ耐性結核のリスクが上昇19, 20)
・肺結核の予後を悪化させる可能性がある21, 22)
(4)代替薬がある場合、使用しないほうがよい疾患(FDAの添付文書改訂15)
・急性細菌性副鼻腔炎(通常、AMPC or AMPC/CVAで治療可能23)
・慢性気管支炎の急性増悪
・単純性尿路感染症(特に膀胱炎のことと思われる)※

※2011年のIDSAの単純性尿路感染症ガイドラインで腎盂腎炎の場合は、シプロフロキサシンは第1選択のひとつとなっている。2012年のNEJMの尿路感染症の総説(NEJM 2012;366:1028-37)でも、腎盂腎炎の場合は、キノロンはよい適応となっている。個人的(注:作成者の意見です)には、尿グラム染色で腸内細菌科細菌疑いの場合、外来治療する場合は、CTRX 1g 1回投与して、翌日外来受診、その時の状態をみて、ST or Cipro or CTRX通院、と思います。

【補足】肺結核を疑う状況:結核制御のためのガイドライン24)
(1)結核を疑うkeyword
・咳が2-3週間以上、体重減少、寝汗、血痰
・結核のリスクが高い患者
 HIV感染、DM、慢性腎不全、ステロイド
 免疫抑制薬、悪性腫瘍、珪肺、最近の結核暴露
・7日以内に改善しない市中肺炎
・肺結核らしい胸部レントゲン異常
 上葉 or S6(上下葉区)の陰影(±空洞・線維化)
(2)5つのシナリオ
1) 2-3週間以上の咳+(発熱、寝汗、血痰、体重減少)のうちひとつ以上
 →CXR撮影し、上葉またはS6陰影あれば(空洞は関係なし)3連痰
2) 結核リスク高い患者で、呼吸器症状などを呈する原因不明の疾患が2-3週間以上持続
 →CXR撮影し、TBらしければ、3連続痰
3) HIV感染者が、原因のはっきりしない咳と発熱
 →CXRと3連痰
4) 結核のリスクの高い患者が、CAPと診断され、7日以内に改善しない場合
 →CXRと3連痰
5) 結核のリスクが高い患者が、偶然TBらしいCXR異常があった場合(症状問わない)
 →以前の画像を確認し、3連痰

※ここでのhigh risk:最近の肺結核患者への暴露、TSTまたはIGRA陽性、HIV、IVDU(not injectableも含む)、結核高度蔓延国で出生またはそこからの5年以内の移住、医療が十分に受ける事が出来ない集団、リスクのある疾患がある(DM、ステロイド、免疫抑制薬、慢性腎不全、血液悪性腫瘍、癌、標準体重より10%体重が少ない、珪肺、胃切除後、空腸回腸バイパス)、リスクの高い場所の住民(おそらく、ナーシングホームなどのこと)

⑦参考文献

  1. レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版
  2. Clinical Infectious Diseases 2011;52(4):e56-e93
  3. サンフォード感染症治療ガイド 2017
  4. Ciprofloxacin: Drug information. UpToDate2018
  5. Levofloxacin: Drug information. UpToDate2018
  6. Moxifloxacin: Drug information. UpToDate2018
  7. Mycoplasma pneumoniae infection in adults. UpToDate2018
  8. Pneumonia caused by Chlamydia pneumoniae in adults. UpToDate2018
  9. Psittacosis. UpToDate2018
  10. Infect Dis Clin N Am 2010;24:57-60
  11. Clin Microbiol Infect 2009; 15: 11-17
  12. Infect Dis Clin N Am 2010;24:7-25
  13. Infect Dis Clin N Am 2010;24: 73-10
  14. Treatment and prevention of Legionella infection. UpToDate2018
  15. FDA Drug Safety Communication: FDA updates warnings for oral and injectable fluoroquinolone antibiotics due to disabling side effects [07-26-2016]
  16. Clin Infect Dis 2002; 34:1607-12
  17. Int J Tuberc Lung Dis 2005;9(11):1215-1219
  18. Int J Tuberc Lung Dis 2011;15(1):77-83
  19. Am J Respir Crit Care Med 2009;180:365-370
  20. Clin Infect Dis 2009; 48:1354-60
  21. Thorax 2006;61:903-908
  22. Int J Tuberc Lung Dis 2012;16(9):1162-1167
  23. Clin Infect Dis 2012;54(8):e72-e112
  24. Am J Respir Crit Care Med 2005;172:1169-1227

注意:上記を臨床現場に適応するは、担当医の責任のもと行ってください。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育