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今回扱った論文は、JAMA掲載(2018 Feb 27;319(8):779-787. doi: 10.1001/jama.2018.0156.)の、Effect of Bag-Mask Ventilation vs Endotracheal Intubation During Cardiopulmonary Resuscitation on Neurological Outcome After Out-of-Hospital Cardiorespiratory Arrest: A Randomized Clinical Trial。


院外心停止の気道管理で、バッグバルブマスク(BMV)と挿管(ETI)のどちらがよいか明確な推奨はなく、これまでランダム化比較試験はなかった。今回は、18歳以上の院外心停止の患者をBMV群/ETI群にコンピューターでランダムに割り付け、28日後の神経学的予後良好な生存が比較された。神経学的予後良好は、Glasgow-Pittsburgh Cerebral Performance Categories <2点で定義され、盲検化した評価者により判定された。先行研究より、BMVの予後良好率を3%、ETIの予後良好率を2%と見込んでサンプルサイズを計算し、全2000人が必要とされた。今回はフランスとベルギーの20施設において、2043人の患者が集められた。患者の年齢の中央値は60台と比較的若年で、これまで健康だった者が50%を占めていた。心停止の原因は、心原性が70%、非心原性が30%、外傷は5%程度。心停止から蘇生が開始されるまでは5分、高度な蘇生が開始されるまでが20分であり、初期波形はasystoleが70%、PEAが10%、VF15%であった。

28日後のCPCs<2は、BMV群で44/1018例 (4.3%)、ETI群で43/1022例(4.2%)で非劣性マージン-1.0を下回り、BMVの非劣性は示されなかった。すなわち本研究で採用された「侵襲の少ないBMVがこれの大きなETIに劣らない神経学的転帰に関連している」という仮説には、むしろ今までの後ろ向き研究の根拠だけに基づくよりも結論は出せなくなった。

今回の研究はこれまでなかった多施設ランダム化試験であり、follow upの漏れがない点でも優れていた。しかし、過去の大規模データを用いた後ろ向き研究から得られたETIよりBMVが良好な転帰に関連している仮説に基づいたサンプル数計算では、検出力が不足していた。また、救急要請を医師が受けて対応を指示し、救急車に医師が同乗する設定で、対象は比較的若年で基礎疾患の少ない患者であり、日本の救急医療の現場にそのまま生かすことは出来ないかもしれない。今回はBMVの非劣性は示されず、BMVは施行困難例/合併症が多い可能性も示唆された。気道管理方法の推奨のない中では、更なる研究が望まれ、現時点では個々の症例ごとにBMV/ETIのどちらが適するかを検討する必要があるだろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科