小児の難治性急性喘息発作における、マグネシウム静注療法と入院との関係 事後解析

Journal Title
Association Between Intravenous Magnesium Therapy in the Emergency Department and Subsequent Hospitalization Among Pediatric Patients With Refractory Acute Asthma
Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial
JAMA Netw Open. 2021;4(7):e2117542. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.17542

背景
ほとんどの気管支喘息のガイドラインでは小児の重症喘息発作に対する補助的治療としてマグネシウム静注の使用を考慮することが推奨されている。しかし、小児の急性喘息発作におけるマグネシウム静注療法はエビデンスに乏しく、今まで行われた3つの小規模のランダム化比較試験(RCT)では一貫した結論が示されていない。本研究では小児の難治性急性喘息発作におけるマグネシウム静注療法と入院との関係を調べるため、最近行われた小児喘息を扱った多施設RCTのデータを用いて事後解析を行った。

仮説
マグネシウム静注療法を受けた患児は、同療法を受けなかった患児と比較して入院が増加する。

方法
本研究は2011年9月から2019年11月の期間にカナダの7施設の救急治療室(ER)で小児喘息発作患児に対してマグネシウム吸入療法の有効性を検証した二重盲検RCTのデータを利用し二次解析を行った。この試験ではステロイド全身投与およびアルブテロール・イプラトロピウム吸入投与による初期治療の1時間後において、Pediatric Respiratory Assessment Measure (PRAM)スコア5点以上の中等症?重症呼吸困難が持続する2?17歳の患児816名が登録され、アルブテロール3回吸入に加えて硫酸Mgを吸入投与する群(409名)とプラセボを吸入投与する群(407名)に割り付られた。364名(44.6%)が喘息で入院し、452名(55.4%)が帰宅となった。全体で215名(26.3%)がマグネシウム静注療法を受けた。
本研究の2次解析の主要評価項目は喘息による入院とした。マグネシウム静注療法とアウトカムとの関連を評価するため、事前に定義された15の変数(下記※参照)を用いて多変量ロジスティック回帰分析を行った。マグネシウム静注は施設によって使用頻度に差があると考えられるため、施設をランダム効果として調整した。サンプルサイズは検出力80%、両側有意水準5%として事前に定義された15の変数についてそれぞれ20名の主要評価項目(入院)と計算し、元になった研究での入院率が50%であることを踏まえて少なくとも300名の入院患者が必要とされた。
(※ERでのマグネシウム静注療法, PRAM score(無作為化時点, ERでの転帰決定時点), 年齢, 性別, 病院到着までの呼吸困難の時間, 喘息発作によるICU入室歴, 喘息に関連した1年以内の入院, アトピー(皮膚炎、鼻炎), アトピーの家族歴, ER到着48時間前48時間以内のステロイド内服, ベータ刺激薬吸入+マグネシウム吸入(もしくは5.5%食塩水の吸入), 初期治療後の追加ベータ刺激薬吸入, 治療を受けた年(2011〜2016年 or 2017〜2019年))

結果
登録された816名のうち215名(26.3%)がマグネシウム静注療法を受け、そのうち190名(88.4%)が入院した。マグネシウム静注療法を受けなかった601名のうち174名(29.0%)が入院した。多変量調整後の解析では、Mg静注療法を受けた患児は受けなかった患児と比べて入院のリスクがおよそ10倍と高かった(調整後オッズ比9.76、95%CI 4.58〜20.77、P<0.001)。副次アウトカムであるER退室時のPRAMスコアが3以下の患児417名に限定した解析においても、Mg静注療法を受けた患児は受けなかった患児と比べて入院のオッズが8倍と高かった(調整オッズ比8.52、95%CI 2.96〜24.41、P<0.001)

Implication
これまでのシステマティックレビューの結果に反し、マグネシウム静注療法は小児の難治性喘息発作の入院割合を上昇させる可能性が示唆された。しかし、喘息治療の性質上、マグネシウム静注前には、他の治療と効果判定が繰り返されるため各ステージでの治療効果判定結果などの時間依存性交絡因子が存在する。そのため、過調整バイアスが懸念され、その調整が必須である。また、調整された15の変数に含まれない未測定の交絡因子の問題や変数の中の「追加のβ吸入薬」といった中間因子による過剰調整の問題がある。以上から本研究ではマグネシウム静注療法の正確な効果が推定出来ないと考える。今後、さらなる検証が必要であるが、上記問題を解決するために、時間依存性独立変数の問題を考慮に入れたprospective rolling entry matchingモデル、周辺構造モデルが採用されることが望ましい。

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文責 高橋 盛人/増渕 高照/南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科