心原性ショックにおけるミルリノンとドブタミンの治療効果の比較

Journal Title
Milrinone as Compared with Dobutamine in the Treatment of Cardiogenic Shock
N Engl J Med 2021;385:516-25.

論文の要約
・背景
心原性ショックは多くの合併症や死亡に関連している。心原性ショックの治療は機械補助循環の利用が増えているが、薬物治療の中心は血管収縮薬と強心薬が要となっている。血管収縮薬としてはノルアドレナリンがアドレナリンやドパミンよりも優れていることが示されているが、強心薬として広く用いられているドブタミンやミルリノンの比較データはほとんどない。そこで本研究はこれら2剤の有効性と安全性を比較した。

・方法
本試験はカナダで行われた単施設無作為化二重盲検試験である。対象患者は18歳以上で、心臓集中治療室(ICU)に入院し、心血管造影・インターベンション学会(SCAI)の心原性ショックの重症度の定義stage B、C、D、Eを満たす心原性ショックと診断された者であった。除外基準としては、院外心停止、妊娠、ランダム化前のミルリノンもしくはドブタミン投与、治療医師が研究に参加すべきでないと判断した場合、他の介入研究に参加している場合、同意が得られない場合とされた。患者は心室(障害心室が左心室か両心室、もしくは右心室)に応じて層別化され、ミルリノン投与群とドブタミン投与群に1:1に割り当てられた。治療薬は盲検化され、投与量の調整は事前に決められた方法で治療チームが行った。肺動脈カテーテルはルーチンでは使用しないが担当医判断で使用できるものとした。治療継続が危険と判断された場合は治療の割当を担当チームに開示し、その後の治療は担当者に任された。主要アウトカムは以下の複合アウトカムとされた;全院内死亡、蘇生した心停止、心臓移植または機械的補助循環の使用、非致死性心筋梗塞、神経科医によって診断された一過性脳虚血発作または脳卒中、および腎代替療法の開始。サンプルサイズ設計は主要複合アウトカムのプールされた発生割合がドブタミン群で55%とし、過去の観察研究の結果からミルリノン群がドブタミン群よりも20%低いと仮定し、検出力を80%、両側αレベルを0.05として、合計192名の患者が必要と計算された。解析はITT解析で行った。主要複合アウトカムは未調整のカイ二乗解析を行い、生存時間解析のためLog rank検定および比例ハザード分析が行われた。複合アウトカムの各コンポーネントの評価には死亡の競合リスク調整のためFine Greyの検定が用いられた。サブグループ解析は、年齢、性別、罹患した心室、心室機能障害の原因、左室機能障害の重症度、無作為化前の心室機能障害の重症度、無作為化時の血管拡張剤の併用に分類され行われた。

・結果
2017年9月1日〜2020年5月17日の期間に合計319名のうち192名(各群96名)が登録された。主要アウトカムイベントが発生したのは、ミルリノン群では47名(49%)、ドブタミン群では52名(54%)であった(相対リスク0.90、95%信頼区間(CI)0.69〜1.19、P=0.47)。事前に規定したサブグループ間で治療効果の不均一性はみられなかった。生存時間解析でも、主要複合アウトカムに関してミルリノン群とドブタミン群の間に有意な差はみられなかった(ハザード比0.91、95%CI 0.61〜1.34)。また、院内死亡(それぞれ37%と43%、相対リスク0.85、95%CI、0.60〜1.21)、蘇生心停止(7%と9%、ハザード比0.78、95%CI 0.29〜2.07)、機械的循環補助を受けた(12%と15%、ハザード比0.78、95%CI 0.29〜2.07)または腎代替療法の開始(22%と17%、ハザード比1.39、95%CI,0.73〜2.67)などの副次的アウトカムについても、両群間に有意な差はなかった。

implication
本研究では心原性ショック患者においてミルリノンとドブタミンの間には、主要複合アウトカムまたは重要な副次的アウトカムに差はみられなかった。本研究の強みとして、二重盲検無作為化比較試験であること、心原性ショックの診断が臨床医の判断に委ねられている点が実臨床に即している。しかし、心原性ショックの診断が客観的ななものでなく、単施設研究であるため著しく内的外的妥当性を損ねている可能性がある。複合アウトカムの構成内容は競合するものや使用薬剤との関連が不明確なものが含まれているため臨床的解釈を困難にしている。サンプルサイズ設計においても治療効果が20%とされたが、実際の結果と剥離しており、検出力不足が考えられる。対象群がプラセボではなく、標準治療薬ではないドブタミンが使用されているため、本研究をもって患者によって有益であるのか、有害であるのかも判断出来ない点が本研究の限界である。
今後、試験薬の標準治療として確立するためには、心原性ショックをより厳密に定義し、その対象に対して、ドブタミン、ミルリノン、対照群でのファクトリアルデザインが採用されることが望ましいと考える。

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文責:芥川 晃也・増渕 高照・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科