動脈瘤性くも膜下出血に対して、超早期かつ短期のトラネキサム酸投与で臨床転帰は改善するか?

Journal Title
Ultra-early tranexamic acid after subarachnoid haemorrhage(ULTRA): a randomised controlled trial
Lancet, The, 2021-01-09, Volume 397, Issue 10269, Pages 112-118,

論文の要約
<背景>
動脈瘤性くも膜下出血の患者において長期間のトラネキサム酸投与は再出血のリスクを減少させるが、臨床転帰の改善は示されていない。その理由として遅発性脳虚血の関与が示唆されている。一方、トラネキサム酸の早期投与に関しては、合併症なく再出血のリスクを減少させる可能性が示唆されているが、臨床転帰については不明である。ULTRA試験は、トラネキサム酸の超早期・短期投与により、6ヶ月後の臨床転帰が改善するかどうかを検証するために実行された。

<方法>
オランダにある24ヵ所の医療施設(くも膜下出血専門治療センター8ヶ所、紹介型病院16ヵ所)で行われた多施設前向き無作為オープン結果遮蔽試験である。対象は該当施設を受診し、発症24時間以内でCTでクモ膜下出血と診断された18歳以上の成人患者とした。被験者は無作為に1:1に割り付けられた後、介入群では標準的な治療に加え、診断直後にトラネキサム酸の投与を開始し、脳動脈瘤の治療の直前または投与開始24時間後のいずれか早い時点で中止した(1gボーラス投与後、8時間ごとに1g静注)。対照群では標準的な治療のみを受けた。患者は6ヶ月間にフォローされた。
主要評価項目には無作為化6ヶ月後の臨床アウトカムで、modified Rankin Scale(以下mRS)を用いて、良好(0−3)と不良(4−6)に二分化された。副次評価項目はは、6ヶ月後の超良好臨床転帰 (mRS 0−2)、6ヵ月後のmRSスコアの感度分析、30日後と6ヵ月後の全死亡割合率などが設定された。
サンプルサイズ計算に関しては、対照群では69.0%、介入群では77.1%の患者で良好な臨床転帰が得られると仮定され(再出血率を17%から3.9%に低下させることで)、power80%、α0.05と950人と決定された。安全性モニタリング委員会が患者の半数(n=475)が登録された後、盲検下中間解析も実施された。Intention-to-treat解析が行われ、治療群間の差はオッズ比と95%信頼区間で表示された。

<結果>
2013年7月24日から2019年7月29日の間に955例が無作為化され、最終的に介入群480例、対照群475例が割り付けられ、両群のベースラインの特徴は似ていた。各群5人の患者のデータが欠落した。
主要評価項目であるmRS0−3点のアウトカム良好の患者の割合は介入群で60%(287/475例)、対照群で64%(300/470例)であった(OR0.87、95%CI で0.67-1.13)。また、治療施設を調整した後のaORは0.86(95%CI 0.66-1.12)であった。as-treated and per-protocol 解析の結果も、両群間の臨床転帰に有意な差は認められなかった。
30日後と6ヵ月後の全死亡率に関しては、両群間に有意差はなかった。
動脈瘤治療前の再出血は、介入群で10%(49/480例)、対照群で14%(66/475例)であった(OR 0.71、95%CI 0.48-1.04)。遅発性脳虚血は、介入群で23例(103/480例)、対照群で22%(106/475例)であった(OR 1.01、95%CI 0.74-1.37)。血管内治療中の血栓塞栓性合併症は、介入群で11%(29/272例)、対照群で13%(33/258例)であった(OR 0.81、95%CI 0.48-1.38)。

Implication
今回の試験は、動脈瘤性くも膜下出血に対して、超早期かつ短期のトラネキサム酸投与は期待された臨床転帰の改善を示さなかった。合併症においては両群共差はみられなかった。
内的な妥当性として、オープンラベルでアウトカムがソフトエンドポイントであるため情報バイアスが懸念される。本試験のイベント発生割合はサンプルサイズ設計で想定されたものより低く、 β エラーの可能性がある。また、臨床試験期間では通常診療より理想的に近い形で診療が行われることが知られている。本試験においても、その影響からトラネキサム酸の効果が出にくかった可能性が考えられる。外的妥当性としてはオランダ1国の研究であり救急医療環境など他国との相違が想定される。
実際、症状出現から診断・トラネキサム酸の投与まで平均93分・185分、診断から治療まで平均14時間であり、これまでの先行研究と比べても早いといえる。
再出血の多くは24時間以内に発生している。本試験で行われた医療環境よりも早く治療が行えない地域では効果が発揮する可能性がある。今後、違う医療環境も含めた検証を期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科