急性消化管出血における高用量トラネキサム酸の投与と死亡及び血栓塞栓症事象への影響

Journal Title
Effects of a high-dose 24-h infusion of tranexamic acid on death and thromboembolic events in patients with acute gastrointestinal bleeding (HALT-IT): an international randomised, double-blind, placebo-controlled trial. HALT-IT Trial Collaborators. Lancet 2020 Jun 20;395(10241):1927-1936.

論文の要約
<背景>
トラネキサム酸は外科的出血を減少させ、外傷患者の出血による死亡を減少させる。小規模試験のメタアナリシスでは、トラネキサム酸が消化管出血による死亡を減少させる可能性があることが示されている。本研究は、消化管出血患者におけるトラネキサム酸の死亡抑制効果を評価した。

<方法>
本研究は、15カ国164の病院で行われた無作為化プラセボ対比較試験である。対象は、参加各国の成人の最小年齢(16歳または18歳)以上の上部または下部消化管出血と診断され、出血死のリスクがあると判断された患者が登録された。患者は、トラネキサム酸またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。トラネキサム酸は、負荷投与量1gを10分間かけて緩徐に静脈内投与した後、維持用量3gを125mg/時で24時間かけて投与された。プラセボは同一容器に入れられた同容量の塩化ナトリウム0.9%を投与された。患者、治療者、アウトカムを評価する者は割り付けをマスキングした。主要アウトカムは無作為化後5日以内の出血による死亡であった;サンプルサイズはコントロール群の死亡率を5%、治療効果を1%、both-sideαを5%、検出力を85%とし12000人と見積もった。(2018年11月に主要評価項目が変更された際にサンプルサイズも変更された。)解析では、割り付けられた治療の用量を投与されなかった患者および死亡に関するアウトカムデータが得られなかった患者は除外し、modified intention to treatでおこなった。

<結果>
2013年7月4日から2019年6月21日までの間に、12009例が登録され、トラネキサム酸投与群に5994例(49.9%)、プラセボ投与群に6015例(50.1%)が割り振られた。そのうち11952例(99.5%)が割り付けられた治療の初回投与を受けた。無作為化後5日以内の出血による死亡は、トラネキサム酸群5956例中222例(4%)、プラセボ群5981例中226例(4%)で発生した (リスク比 [RR] 0.99, 95% CI 0.82-1.18)。動脈血栓塞栓イベント(心筋梗塞または脳卒中)はトラネキサム酸群とプラセボ群で同程度であった(5952例中42例[0.7%]対5977例中46例 [0.8%]; RR0.92; 5%CI 0.60-1.39)。静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症または肺塞栓症)はプラセボ群に比べてトラネキサム酸群で高かった(5952例中48例[0.8%] , 5977例中26例[0.4%], RR 1.85, 95%CI 1.15-2.98)。

<結論>
トラネキサム酸は消化管出血による死亡を減少させないことがわかった。この結果に基づき、トラネキサム酸は無作為化試験以外では消化管出血の治療に使用すべきではない。

Implication
主要評価項目は当初は全死因死亡率としていたが、中間解析で、全死因の半分以上が出血以外の原因によるものであることがわかり、トライアル終了6ヶ月前に5日以内の出血死に変更がなされているため、結果の妥当性を弱めている。死亡原因が担当医による臨床判断によって決定されるため、出血死以外の原因が競合要因として作用している可能性がある。また、臨床医がトラネキサムは必要であると判断した患者は除外されているため選択バイアスも考えられる。しかし、本研究は発展途上国を含む国際的研究であり、デザインもしっかりしており、フォローロスも少なく、Inclusion criteriaも重症消化管出血の臨床判断は実臨床的な基準を用いており、内的外的妥当性ともに高い。また、サブグループ解析および原因別死亡の結果も主要評価項目の結果と一致しており、異質性はみられず、結果には頑健性がある。以上から結論をくだすには本結果を含めたシステマティックレビューの結果も参照する必要があるが、本研究結果の頑健性に加え、静脈血栓塞栓症のリスクを増加させる可能性がある以上、実臨床で使うべきではないと考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科