侵襲的人工呼吸器をつけているICU患者の病院死亡率において、ストレス潰瘍に対してH2ブロッカーとPPIではどちらが効果があるか

Journal Title
Effect of Stress Ulcer Prophylaxis With Proton Pump Inhibitors vs Histamine-2 Receptor Blockers on In-Hospital Mortality Among ICU Patients Receiving Invasive Mechanical Ventilation The PEPTIC Randomized Clinical Trial
Jama 2020 Jan 17;323(7):616-626

論文の要約
"背景"
2013-2014年に集められたデータによると、ICU(Intensive care unit)に入室した成人の2.5%が上部消化管出血を起こしており、この出血を予防するために70%にストレス潰瘍予防策が講じられていた。これまでPPI(Proton pomp inhibitor)が最も消化管出血のリスクを減らすと報告され、2014年に集められたデータではストレス潰瘍予防薬のなかでPPIが最も処方されていた。しかし、PPIがH2RAと比較して、なんらかの免疫抑制効果を介して肺炎とClostrdioides difficile感染症を増やすとする報告があり、臨床医の好みや施設のポリシーによって使用する予防薬の種類に違いがある。これまでのところICU患者においてストレス潰瘍予防薬の違いがどれほど死亡率に影響するか検証するための十分なパワーをもった臨床研究は存在しない。そこで本研究は機械換気を要するICU患者においてPPIとH2RAが死亡率にどう影響するか検証した。

"方法"
本研究は5カ国(オーストラリア、カナダ、イングランド、アイルランド、ニュージーランド)の50のICUにおいて行われた非盲検クラスター・クロスオーバー無作為化比較試験である。対象は年齢18歳以上、ICU入室から24時間以内で、侵襲的な機械換気を要するものとした。ストレス潰瘍予防としてPPIを優先的に投与する戦略とH2RAを投与する戦略を比較した。個々のICUは2つの戦略を行う群に無作為に1:1にコンピューターで割り付けられ、その後ウォッシュアウト期間を設けず、クロスオーバーし他の治療戦略に割り付けられた。各治療戦略期間は6ヶ月とされた。各患者に対する治療期間は、死亡・ICU退室、重大な上部消化管出血の発症、臨床医がストレス予防を必要ないと判断するまでとした。上部消化管出血が発生すれば臨床医の判断でPPI処方を許可した。主要評価項目は初回入院中における90日までの全死因死亡とした。副次評価項目は臨床的に重要な上部消化管出血、Clostridioides difficile感染、ICU入室および入院の期間とした。サンプルサイズはベースラインの死亡率を15%、絶対リスク差2.4%、有意水準0.05、検出力80%、クラスター内相関に関しては、有意水準0.50と設定し、クラスター内相関を調整した結果、25360人とした。

"結果"
2016年8月から2019年の1月の期間で26828人の患者が登録され、26771人が解析された。患者のベースラインはPPI群とH2RA群で同等であった。主要評価項目の90日院内死亡率はPPI群で18.3%(2459/13415人)、H2RA群で17.5%(2333/13356)で有意差はなかった(RR:1.05、95%CI:1.00-1.10)。副次評価項目では臨床的に重要となる上部消化管出血は、PPI群で1.3%、H2RA群で1.8%有意差を認めた(RR:0.73、95%CI:0.57-0.92、ARR-0.51%、95%CI:-0.9--0.12)。Clostridioides difficile感染の発生率(RR:0.74、95%CI:0.51-1.09)および人工呼吸器関連症状(RR:1.18、95%CI:0.87-1.59)に関しても有意差はなかった。

Implication
著者らは本研究の結果からはICUに入室し機械換気を要する患者においてPPIとH2RAを使用する戦略において死亡率に差がないと結論づけている。
この研究のrisk of biasを評価する。戦略間でのクロスオーバーがみられ、検出力が下がる点、国によって上部消化管出血の割合が異なり、情報の収集方法が異なるなどのdetection biasが懸念されるものの、実臨床に即した重要なクリニカルクエスチョンであること、プラグマティックなデザインが採用され、世界中の多数のICUが参加しこれまでの研究で最大規模である点、フォローロスが少なく、ベースラインのバランスが取れていることから内的、外的妥当性共に高いと考えられる。
しかし、PPIは消化管出血のリスクは下げる一方、死亡率の絶対的リスク差が約0.9%とH2RAと比較して死亡率が高い傾向があったことは無視できない。そして、クラスター解析を行っていることで個人における情報が不足しており、死亡の原因まで追跡できていないため、各薬剤がどのような集団にとって有効なのかはわからない。以上からPPIのルーチン使用については再考する必要があるだろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科