アキレス腱断裂保存的加療時のギプス固定と機能的装具の比較:多施設ランダム化比較試験および経済分析

Journal Title
Plaster cast versus functional brace for non-surgical treatment of Achilles tendon rupture (UKSTAR): a multicentre randomised controlled trial and economic evaluation.
Lancet 2020 02 08;395(10222);441-448. pii: S0140-6736(19)32942-3.Derivation, Validation, and Potential Treatment Implications of Novel Clinical Phenotypes for Sepsis
JAMA.2019 May 19 PMID:31104070

論文の要約
アキレス腱断裂は運動習慣に関わらず増加傾向にあり長期間社会的活動が障害される点で社会経済的損失が大きい。最新の研究では、外科的修復術と保存的加療では機能的な結果は変わらないことが示されており、保存的加療が増えてきている。しかし、長期間荷重困難なギブスによる保存的加療と、装着直後より荷重が可能な機能的装具のどちらの保存的加療がより優れているのかについてはわかっていなかった。そこで、アキレス腱断裂に対して保存的加療を選択された16歳以上の患者に対して、ギブス固定と機能的装具に秘匿化のもと1:1にランダムに割付を行い、アキレス腱断裂スコア(Achilles tendon rupture score; ATRS)を用いた患者満足度やアキレス腱再断裂を含めた安全性、費用効果分析を検討した。試験は、2016年8月−2018年5月にかけて英国の39病院が参加した多施設共同研究である。介入の特性から医療者、患者、評価者ともにマスキングはされなかった。両群で装着中に適宜外来にて調整を行い、固定期間は8週間と共通していたが、機能的装具群では適宜取り外し可能で装着直後より荷重を許可した。主要評価項目として受傷9ヶ月後におけるATRSの平均値の差とし、すくなくとも8点以上の差を臨床上有意と設定した。反復測定であるため線形混合効果モデルによる調整も行った。副次評価項目としては、8週・3ヶ月・6ヶ月時点でのATRS(10項目を含み100点が最高点)、EQ-5D-5Lで測定した健康関連QOL、アキレス腱再断裂や深部静脈血栓症を含む合併症とした。また、個人レベルおよびSocietal perspective for costs(患者及び介護する家族が支払った医療費と就労できなかったことによる所得の消失と生産性の低下を含めた)の経済分析を行った。統計解析は、割付後に追跡不能となった患者を除くmodified ITT分析で行われた。

結果として9ヶ月後の平均ATRSは、ギプス群が74.4点、機能的装具群は72.8点となり、補正後平均群間差は−1.38点(95%信頼区間:−4.9〜2.1,P=0.44)と有意な差は認めなかった。また、両群で合併症の発生に明らかな差は認めなかった。経済分析では、平均的な直接医療費はギブス群で36ポンド、機能的装具群で109ポンドと有意差を認めたが、Societal perspective for costs分析ではギブス群で1181ポンド、機能的装具群で1078ポンドと有意差は認めなかった。また、機能的装具群では全期間を通じてコストがわずかに低く、QOLで調節した生存年数(QALYs;Quality Adjusted Life Years)もわずかに高かった。以上より、筆者たちはアキレス腱断裂に対して保存的加療を選択された患者への機能的装具とギブス固定では9ヶ月後のATRSに有意な差はないが、機能的装具群のほうが費用対効果が高い可能性があると結論づけた。

Implication
本研究はアキレス腱断裂に対する保存的加療時に、ギブス固定か機能的装具のどちらが患者満足度や費用対効果が優れているのかを検討した多施設ランダム化比較試験である。主要評価項目として患者報告式アウトカム尺度(Patient Reported Outcome measures;PROMs)を用いており、「根拠に基づく医療(Evidence-based medicine; EBM)」に生活の質の改善を加味した「価値に基づく医療(Value-based medicine; VBM)」を考えるに当たり参考となる。しかし、Primary outcomeを含めた全てのOutcomeにおいてソフトアウトカムを用いており、評価者や治療者のブラインドがされておらず、情報バイアスが否定できないため評価の信頼性に関しては内的妥当性が低いと考える。
また、外的妥当性の観点からもイギリス単独の試験であり各国の保険診療制度の違いや経済規模などの社会経済状況を加味すると妥当性は低いと考える。以上より、筆者らはQALYsあたりのコストが低いことから、機能的装具をDominant procedureと結論づけているが、本研究からはアキレス腱断裂に対する機能的装具はギプス固定と比較してATRSの有意な差はなく、日本において機能的装具が優れている根拠としては乏しいと考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科