急性頭部外傷患者の死亡、後遺症、合併症に対するトラネキサム酸vsプラセボ群の有効性

[ Journal Title ]
Effects of tranexamic acid on death,disability,vascular occlusive events and other morbidities in patients with acute traumatic brain injury(CRASH-3):a randomised,placebo-controlled trial
Lancet.2019 Nov 9;394(10210):1713-1723.doi: 10.1016/S0140-6736(19)32233-0. Epub
2019 Oct 14.

[論文の要約]
"利益相反"
実行段階(最初の500人の患者)は、JPモールトン慈善信託によって資金提供されたが、試験へ関与はない。
"背景"
頭蓋内出血は外傷性脳損傷(TBI)後によく見られ、脳ヘルニアや死亡に至る可能性がある。トラネキサム酸はフィブリン凝結塊の酵素活性を阻害し、出血を減らす効果がある。CRASH-2試験では主に重症非頭蓋内出血の外傷患者で受傷から3時間以内にトラネキサム酸を投与することで出血死を減らすことが示されたが、頭部単独外傷の患者は除外されている。これまで頭部単独外傷に対するトラネキサム酸の効果を検証した研究は少なく、規模も小さい。そのため本研究では頭部外傷患者の外傷関連死・後遺症・合併症に対するトラネキサム酸の効果を検証した。
"方法"
29ヶ国175施設での多施設2重盲検ランダム化比較試験である。Inclusion criteriaは受傷後3時間以内の頭部外傷患者でGCSは12以下の患者またはCTで頭蓋内出血を認めた患者で、Exclusion criteriaはGCS3または、両側対光反射消失重症非頭蓋内出血がある患者である。Primary outcomeは受傷後3時間以内の頭部外傷患者で28日以内の病院内での頭部関連外傷死とした。Secondary outcomeは受傷後24時間以内の頭部外傷関連死、後遺症、合併症とした。サンプル数は、α=0.01でPower90%で15%相対的死亡率減少を検出するために10000人を推定したが、Inclution criteriaを受傷後8時間以内から3時間以内に途中変更したことにより13000人に変更された。
"結果"
期間は2012年7月20日から2019年1月31日で12737人の頭部外傷患者が登録され、トラネキサム酸の投与群に6404人(50.3%)とプラセボ投与群に6331人(49.7)が割り付けられた。このうち受傷後3時間以内の患者は9202人(72.2%)だった。
Primary outcomeである受傷後3時間以内の頭部外傷患者の頭部外傷関連死の相対リスクは、それぞれ18.5%,19.8%(0.94[0.86-1.02])であり有意差はなかった。GCS3または両側対光反射消失、重症非頭蓋内出血の患者を除外した場合の相対リスクは12.5%,14.0%(0.89[0.80-1.00])で有意差なし。GCS9-15で中等度の頭部外傷患者に対するそれぞれの相対的リスクは0.78[0.64-0.95])で有意差あり、重症では0.99[0.91-1.07]で有意差が示されなかった。中等度の頭部外傷患者では3時間以内の早期の治療が晩期での治療と比較すると早期治療が死亡率を改善させた(p=0.005)のに対し、重症患者ではその差が見られなかった(p=0.73)。血管閉塞症の合併症はRR(0.98[0.74-1.28])、痙攣は(1.09[0.90-1.33])でどれも有意差はなかった。

[ Implication ]
本研究はよくデザインされた実際的な大規模ランダム化比較研究である。著者らは受傷後3時間以内の頭部外傷患者に対してトラネキサム酸を投与することで28日以内の頭部外傷関連死を減少させることができたとしているが、主要評価項目の全死亡率は差がなく、中等度の重症頭部外傷で死亡リスクを低減させている。本研究の対象においてトラネキサム酸に対する異質性が高いことが考えられ、今後さらなる検証が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科