塞栓源不明の脳梗塞後の再発予防にダビガトランは有効か

Journal Title
Dabigatran for Prevention of Stroke after Embolic Stroke of Undetermined Source
N Engl J Med. 2019 May 16. PMID:31091372

論文の要約
<Background>
脳梗塞は脳卒中の割合の大半を占め、原因により大血管のアテローム性動脈硬化、心原性塞栓、微小血管閉塞、その他、に分類される。しかしながら、脳梗塞の20-30%は、原因不明であり、塞栓源が不明なものはESUS(embolic strokes of undetermined source)と呼ばれている。AHA / ASAのガイドラインでは、塞栓源不明の脳梗塞の2次予防には、抗血小板薬が推奨されている。一方で、AFを有しているなど、心原性脳梗塞のリスクが高い患者では、ダビガトランを含めた抗凝固薬が2次予防の効果があると立証されている。
<Research question>
ESUS患者の脳卒中再発予防に、ダビガトランはアスピリンより優れているか。
<Methods>
本研究は、世界42ヵ国564施設で行われた、多施設共同無作為化二十盲試験である。対象は、60歳以上、あるいは18-59歳で血管リスクを有する、ESUSを発症した患者である。ダビガトラン150 mgを1日2回投与(75歳以上、または腎機能障害の患者については110 mg を1日2回投与)した群と、アスピリン100mgを1日1回投与した群の、2群に割り付けた。有効性に関する主要評価項目は、脳卒中の再発であり、安全性に関する評価項目は、大出血の発生と、大出血ではないものの臨床的に重要な出血の発生である。
<Results>
5830人がリクルートされ、5390人が、2群に1:1にランダムに割り付けられた。追跡中央期間は19ヶ月であった。有効性に関する主要評価項目については、脳卒中の再発が認められたのは、ダビガトラン群177例(6.6%、年率4.1%)、アスピリン群207例(7.7%、年率4.8%)で、両群間に有意差はなかった(HR:0.85、95%CI:0.69〜1.03、p=0.10)。脳梗塞の発症は、ダビガトラン群172例(6.4%、年率4.0%)、アスピリン群203例(7.5%、年率4.7%)だった(HR:0.84、95%CI:0.68〜1.03)。一方で、大出血の発生は、ダビガトラン群77例(年率1.7%)、アスピリン群64例(年率1.4%)と類似していたが(HR:1.19、95%CI:0.85〜1.66)、大出血ではないものの臨床的に重要な出血の発生は、アスピリン群41例(年率0.9%)に対し、ダビガトラン群は70例(年率1.6%)と発生頻度が高かった(HR:1.73、95%CI:1.17〜2.54)。
<Conclusion>
ESUSを発症した患者の脳卒中再発予防において、ダビガトランのアスピリンに対する優越性は示されなかった。ダビガトラン群における大出血の発生率は、アスピリン群よりも高くなかったが、大出血ではないが臨床的に重要な出血の発生数はダビガトラン群のほうが多かった。

Implication
本研究において、ESUSを発症した患者の脳卒中再発予防において、ダビガトランのアスピリンに対する優越性は示されなかった。AFの検出率など、施設ごとにESUSの診断能が異なる可能性があるが、ブロック無作為化により対処している。さらに、原因不明の虚血性脳卒中/TIA患者の長期心電図モニタリングによるAF検出能を比較したCRYSTAL-AF試験と、本研究のpopulationが類似していることからも、妥当性があると思われる。なお、Atrial cardiopathyを有し、AFのリスクが高い、原因不明の脳梗塞患者に抗凝固薬が有益かどうかは、ARCADIA trialで現在調査されている。
世界各国で行われた多施設研究であり、ITT解析がなされていて、研究デザイン自体も現実に即している点は意義が大きく、本研究から現時点では、ESUS患者の脳梗塞再発予防に、アスピリンよりダビガトランを優先的に選択する確立した理由はないと言える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科