ARDSに対する早期筋弛緩薬の使用

[ Journal Title ]
Early Neuromuscular Blockade in the Acute Respiratory Distress Syndrome
NEJM 2019 May 23  PMID: 31112383

[論文の要約]
ARDS患者における人工呼吸器の適用に使用されるアプローチは、集中治療室からの退院後の生存率と転帰に影響を与える。ACURASYS試験は中等度から重度のARDS患者における筋弛緩薬の48時間注入の早期投与は、通常の筋弛緩薬なしの深鎮静よりも死亡率が低いことを報告した。
しかし、筋弛緩薬および深鎮静と軽い鎮静による現在の診療を比較した研究はなく、神経筋機能および他の長期転帰に対する神経筋遮断の効果に関するデータは限られている。また、筋弛緩薬は深鎮静を必要としそれ自体が悪い結果を招く可能性がある。
本研究では『早期の筋弛緩薬の使用は90日院内死亡率を低下させる』という仮説を検証した。
デザインはランダム比較試験、非盲検、多施設で行われた。期間に2016年1月から2018年4月で米国の48病院で行われた。今回の試験は介入群と対照群での90日死亡率をそれぞれ27%と35%と設定し、α=0.05、power=90%としてサンプルサイズが計算され、合計1408人必要という計算となった。
1006人が深鎮静を行われ48時間Cisatracurium投与をされる群(501人)と軽い鎮静を推奨し筋弛緩を用いない通常の治療群(506人)に割り付けられ、90日院内全死亡を主要項目として行われた。主要項目である90日院内全死亡は213(42.5±2.2) vs 216(42.5±2.2) p=0.93と有意差は認めなかった。副次評価項目はSOFAスコアに基づく臓器不全の評価、ICU-AWなどがあった。低血圧を主とする心血管系イベントが14 vs 4、p=0.02と有意に介入群で上昇を認めたがその他に差は認めなかった。

[Implication]
この研究は2回目の中間解析で終了されている。しかし、中間解析での終了理由が明記されていない。また、そのことに伴いサンプルサイズが1006となっており予定サンプルサイズの1408に到達していない。そのためβエラーが生じている可能性がある。
今回の試験では医療者はMaskingされておらず介入前に患者の選択ができる可能性がある。実際に4848人が試験にエントリーされているなかの、307人は医療者によって除外されており、655人はすでに筋弛緩薬が投与されているため除外された。筋弛緩薬を事前に投与された患者がランダム化の前に除外されており、2群間では差はないが最も効果を期待できる群が対象になっていない可能性がある。
日本ではCisatracuriumは未承認の薬剤であり、この試験を日本の実臨床に介入させることは困難である。VecuroniumとCisatracuriumがARDS患者に対して比較された試験があるがCisatracurium群に有利な結果が出ており、日本で使用できるVecuroniumなどはCisatracuriumに対して有意な作用を持つとは言い難く日本では中から重症ARDS患者に対して筋弛緩薬をルーチン投与することは推奨はされないと考えられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科