ARMEC ER 合同Journal Club

「成人における病院前の経鼻ケタミンによる鎮痛についての二重盲検ランダム化比較試験」

[ Journal Title ]
Prehospital Analgesia With Intranasal Ketamine (PAIN-K): A Randomized Double-Blind Trial in Adults

[ 論文の要約 ]
"背景"
病院前の鎮痛でparamedicが行える選択肢は少ない。カナダのemergency serviceが使える笑気は嘔気嘔吐などの服用が生じることがあり中等度の疼痛には効果があるが重度の疼痛への効果ははっきりしていない。鼻のケタミン投与は効果発現が早く、心肺機能の低下を起こしにくいため戦場や病院前の鎮痛としていくつかのケースシリーズで有効な報告がある。通常の笑気投与にケタミンを追加するというレポートは今までないためそこに今回のトライアルを行う価値がある。

"方法"
デザインは前向きランダム化比較試験、二重盲検である。事前にThe University of British Columbia Clinical Research Ethics Board, the Fraser Health ResearchEthics Board, the Emergency Medical Assistants Licensing Boardの倫理承認をされている。期間は2017/11-2018/3で年間45000コールを受け持つthe EnglishColumbia Emergency Health Sevices organizationの管轄地域(2000km^2)の患者が対象である。Inclusionは18歳以上、Verbal Numeric Rating Score 5点以上、鎮痛を希望されていることとし、Exclusionは18歳未満、ケタミン耐用性がないことが知られていること、非外傷性の胸痛があること、意識変容があること、妊娠こと、鼻腔が閉塞していること、収縮期血圧<90mmHg、研究に以前参加していることとした。介入の方法は全ての中等度以上の疼痛を呈する患者の苦痛緩和のために禁忌がない限り今まで通り笑気での疼痛管理を行い、コンピュータで割り付けられたBlock randamizationとし、マスキングされた上でケタミン群と生理食塩水のplacebo群に割り付けられた。Paramedicが推測した体重毎に投与されるケタミン量(50kg未満 →30mg,50-100kg→50mg,100kg以上 →70mg)が設定された。薬剤は両方の鼻腔に半分量ほど投与とした。プロトコールの質を担保する方法として、48人在籍するparamedicのうち30人がプロトコールの説明を受け、クイズ形式で回答をさせて確認を行い、見た目でわからないように生食とケタミンを5mlシリンジにプラスチックケースで中が見えないように隠して通し番号を振って管理し現場に持っていった。また、実際にどっちを投与したかどうかのparamedicの予想を回答してblindingの質を 確認した。15分おきにVerbal numeric ratingscore(VNRS:0-10で表現)で痛みの評価を行い、投与から15分おきに救急外来に到着するまで 計測する。サンプル数はInternal Pilot seriesの結果で各グループ20名ず つで2ポイント以上のVNRSの低下がケタミン群で90%、生理食塩水群で60%であったことから、power 0.90、α=0.05 と推定してSample size estimationを行うと98名(49名ずつ)であった。途中で20%が脱落やロストの可能性を考えて20%多く追加し120名(60名ずつ)とした。OutcomeはPrimary Outcomeは「30分後VNRSが2点以上低下したかどうか」、Secondary Outcomeは「15分毎のVNRSの2点以上の低下、不快感の評価、吐き気/倦怠感 などの副作用評価」とした。鎮痛が強く高度な医療従事者により追加の鎮痛を要する場合はper protocol解析、脱落 やロストが振り分け後に生じる場合はIntention to treat解 析とした。Clinical trialgov(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02753114)へ登録され、trial開始後に加筆された内容は笑気が使えない時という項目であった。

"結果"
予定通り120名の患者が組み込まれた。Primary outcomeである「30分後VNRSが2点以上低下したか」は介入群 41名(76%) vs placebo群 22名(41%)、Difference 35%(95%CI (17%-51%))、Secondary Outcome ではVNRSの15分毎の低下の有意な低下、副作用発現率/非現実感/嘔気が有意に増加する結果となった。また追加の鎮痛剤を投与した患者は0であった。笑気は「禁忌事項があった」、「ボンベが使えなかった」などの理由でケタミン群の27%、プラセボ群の25%で投与されなかった。ケタミンを投与したparamedicの7割が自分が投与した薬剤はケタミンであるという回答に正解していた。

[Implication]
内的妥当性として「両群25%程度で笑気が使用できていない」、「稀 な副作用(ケタミンの 喉頭痙攣など)を検出できるサンプルサイズではない」、「Masking/blidingは出来ていると思われるがparamedicの7割がおそらく自分が投与したものはケタミンだと思うという回答に正 解しており、効果がわかってしまい、その後の評価の面でblindingの面で妥当ではなかった可能性がある」、「対象患者の重症度、死亡のリスクとなるか」といった項目は検討の余地があるが、「事前設計したサンプルサイズを集計できた」ことは統計学的に信頼性が高いと言える。外的妥当性としては「単施設、カナダの特定の地域の単施設であること」、「本邦ではparamedicの鎮痛薬投与は認められていないこと」、「ドクターカーで用いるにしても麻薬持ち出しとなるため法律的にも遵守するには工夫が必要」であることから一般可能性は低くなるが、「プロトコールは詳細まで 記載されており追跡研究が容易に可能であること」は高く評価できる。以上の結果から中等度以上の疼痛患者へ笑気にケタミン経鼻投与を病院前で使用することは鎮痛の改善に効果があるかもしれないが、副作用の発症は増えるかもしれない。全体としてよくデザインされた研究であるが、Primary OutcomeがSoft endpointであること/薬剤投与の効果に差があることから投与者に介入がわかってしまうということでのblindingの質が保たれずInformation biasの影響 が強くでてしまうことは避けにくいbiasであるが工夫 ができるかもしれない。例えば投与者がわかっていたかいないかを層別化してPost hoc解析 によるサブグループ解析を行うことはこのbiasの影響を軽減する1つの対策としてあげられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科