早期の症候性心房細動に対して、即時的カルディオバージョン(洞調律化)は必要か?

[Journal Title]
Early or Delayed Cardioversion in Recent-Onset Atrial Fibrillation RACE 7 ACWAStrial
N Engl J Med 2019 Apr 18; 380(16):1499-1508 PMID:30883054

[論文の要約]
発症直後の心房細動は自然に洞調律化することも多く、電気的もしくは薬理学的カルディオバージョン(以下カルディオバージョン)を直ちに行うことの有用性は分かっていない。本研究は、循環動態の安定した症候性心房細動に対し、即時的または待機的なカルディオバージョンを比較した多施設共同無作為非盲検非劣性試験である。2014年10月〜2018年9月、オランダの15病院で行われた。対象とし患者は18歳以上、心電図での心房細動の存在、脈拍70bpm以上、心房細動による症状の存在、症状出現36時間以内である。循環動態不安定(収縮期血圧100mmHg以下または脈拍170bpm以上)、心電図や既往にて心筋梗塞・WPW症候群・洞不全症候群・急性心不全の所見、説明不可能の失神、48時間持続しているような持続性心房細動、他の治験に参加中の患者と、主治医の判断で試験参加が不適切と考えられた患者は除外された。即時群では即時的にカルディオバージョンを行い、待機群ではβ遮断薬・非ジヒドロピリジン系Ca遮断薬・ジゴキシンなどのレートコントロールを行った。症状発症後48時間付近で12誘導心電図による再評価を行い、心房細動が依然として存在する場合、待機的カルディオバージョンを行った。またカルディオバージョンとは無関係にCHA2DS2-VAScスケールで2点以上の脳卒中リスクの高い患者には適切な抗凝固療法の開始・継続を行った。主要エンドポイントは 4 週の時点で洞調律であることとした.主要エンドポイントの即時群に対する待機群の差の 95%信頼区間下限が -10 パーセントポイントを超える場合に,非劣性が示されることとした。主要エンドポイントの発生率は即時群が94%、待機群が91%であり、事前設定した非劣性の基準を満たしていた。待機群では69%が48時間以内に自然に復帰し、28%は待機的カルディオバージョン後に復帰した。即時群では16%が除細動開始前に洞調律へ自然復帰し、78%は除細動後に復帰した。4週間の追跡期間中に遠隔モニタリングを完了 した患者のうち、待機群の30%と即時群の29%で心房細動が再発した。無作為後4週間以内に、心血管系合併症は両群ともに0.5%未満であり群間有意差はなかった。各群で1回の脳卒中または一過性虚血発作が発生した。また患者QOLにおいても両群で差はなかった。

[Implication]
本試験は発症間もない心房細動に対して循環動態が安定していれば積極的に除細動を試みず洞調律への自然復帰のため短 時間の経過観察を許容 することが合理的である可能性を示唆した。早期の症候性心房細動に対して即時的に洞調律化をしないことで、緊急室での患者の負担や救急科での時間的・経済的医療資源の軽減が期待できる。一方心房細動患者において洞調律より重要であると言える長期QOLや脳梗塞の発症の有無や死亡 率などのアウ トカ ムは現時点で検証されていない。上記のほか、1年以内再発率、治療選択、患者QOLとリズムの関係、心電図変化、心房細動再発の予後など、調査期間を拡大した長期フォローによる副次アウトカムの結果が待たれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科