小児救急でのDKAの補液と脳損傷の関係は?

Clinical Trial of Fluid Infusion Rates for Pediatric Diabetic Ketoacidosis. N Engl J Med 2018;378:2275-87. DOI:10.1056/NEJMoa1716816

【Introduction】
小児の糖尿病ケトアシドーシスでは臨床的に明らかな脳損傷を0.5-0.9%に引き起こすとされ、脳損傷はmortality及びmorbidityに高率に関連する。DKAの急速静脈内輸液及び低調液投与は血清浸透圧を下げ、それらによって脳浮腫を引き起こすとこれまで考えられており、多くのプロトコールでは等張液での緩徐な補液投与が推奨されてきた。

【Research Question】
小児のDKA患者に対する静脈内輸液の注入速度と塩化ナトリウム含有量は、患児の神経学的転機に影響を及ぼすのか。

【Methods and Conclusion】
本研究(The PECARN FLUID study)は、2011年2月〜2016年9月にアメリカの13の施設で行われた多施設共同非盲検無作為化試験である。0歳から18歳までのDKAの診断を受けた患者に対し、0.9%NSもしくは0.45%Sの緩徐投与群と急速投与群でtwo by two factorial designを用いて、神経学的状態の悪化をGCSを用いて比較した。輸液急速投与群と緩徐投与群、また0.45%Sと0.9%NS投与群を比較して、DKA治療開始後のGCS低下に有意な差はみられなかった。(0.45%S急速投与群10例、 0.9%NS急速投与群11例、0.45%S緩徐投与群11例、0.9%NS緩徐投与群16例。緩徐VS急速投与:P値0.34、0.45S vs 0.9NS投与:P値0.43。)

【Implication】
小児の急性期において補液速度は重要であり、DKAの際も脳浮腫を防ぐ為の緩徐な等張液の補液投与が一般的に浸透しているが、今回の結果では急速補液と緩徐補液で、また等張液及び低張液の補液で有意な神経学的予後の差はみられなかった。よって、DKA治療としての急速補液及び低張補液による血清浸透圧低下により脳浮腫をもたらされることがDKAにおける脳損傷の原因となるとは言い切れないと考えられる。等張液補液と低張液補液、及び急速投与と緩徐投与で神経学的予後に有意差がないのであれば、現行治療の0.9%NS緩徐投与の継続で良いと考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科