自殺企図を行って救急受診した患者に、電話インタビューなどの多角的な介入を行って自殺再企図率を減少させられるか

Suicide Prevention in an Emergency Department Population The ED-SAFE Study
Ivan W. Miller, et al.
JAMA Psychiatry. 2017;74(6):563-570.doi:10.1001/jamapsychiatry.2017.0678

【背景】
2015年の米国の自殺者は44,193人、日本の自殺者は24,025人で、主要な死因の一つとなっている。しかし、自殺予防を対象とした介入研究はこれまでにほとんどない。ERには自殺リスクのある患者が多数受診するため、自殺予防にとって重要な場所であるが、現在ERにおいて自殺予防が十分実施されているとは言い難い。そのため、有効な自殺予防介入の確立が望まれている。そこで本研究では、自殺企図者や希死念慮のある患者がERを受診した後、電話インタビューを含めた多角的な介入によって再企図率を減少させるという仮説を立て検証した。

【方法】
本研究は米国の8つの救急センターが参加し行われた多施設共同単盲検化非ランダム化臨床試験である。対象は1週間以内の自殺企図歴や希死念慮を持つ18歳以上のER受診者、期間は2010年8月から2013年11月としたが、2010年8月から2011年12月までは通常の治療を行いこの研究の対照群として機能させた。2011年9月から2012年12月までは自殺リスクスクリーニング(the Patient Safety Screener)のみ、2012年7月から2013年11月は自殺リスクスクリーニング と以下の3要素からなる介入を行った:
(1) 二次自殺リスクスクリーニングthe Patient Safety Secondary Screener
(2) 退院時に自己評価できる評価表the Patient Safety Planの配布
(3) 最初の受診から52週間、the Coping Long Term with Active Suicide Program (CLASP)に基づく3回の患者との直接面談、1回の患者と重要な関係者を交えた3者面談、7回までの患者への(10-20分の)電話と、4回までの重要な関係者への電話
対象患者は何らかの自傷歴もしくは希死念慮があり、ERを受診した成人患者で、参入基準は直近一週間以内の自殺企図もしくは受診時まで続いている希死念慮を認め、研究参加要件に同意すること。除外基準は医学的にもしくは認知的に研究に参加できないこと、孤立した環境にいること、法的措置電話がないこと、英語話せないこととした。
主要評価項目はER受診後の52週間に発生した自殺企図(自殺死と自殺未遂の合計)の割合で、副次評価項目はER受診後の52週間に発生した広義の自殺(自殺企図と邪魔された自殺、中止した自殺、自殺準備行為の合計)の割合とした。
過去の観察研究で52週間の再企図率は20%であった。必要サンプルサイズはTAU群での再企図率を20%、absolute risk reductionを7%(relative risk reduction 35%)、52週間のフォローロスを20%、両側検定でαを0.05,、検出力を0.8として計算すると1440人であった。

【結果】
対象患者は男性607人、女性769人の合計1376人で、288人(20.9%)が1回以上の自殺企図を行った。自殺企図を行った人の割合はTAU群では497人中114人で22.9%、スクリーニング群では377人中81人で21.5%、介入群では502人中92人で18.3%であった。TAU群とスクリーニング群では割合に有意差がなく、TAU群と介入群ではabsolute risk reduction 4.6%, relative risk reduction 20%で有意差があった。広義の自殺を1回以上行ったのは全体で637人(46.3%)だった。TAU群では243人(48.9%)、スクリーニング群では187人(49.6%)、介入群では208人(41.4%)であり、TAU群とスクリーニング群では有意差は認められなかったが、多変量Cox分析および負の二項回帰分析では、介入群の患者が広義の自殺を行った割合はTAU群と比較して有意に少なかった。

【批判的吟味】
この研究は、米国で行われた自殺介入研究の中で知られている限り最も大規模な研究であり、有意に再企図率を低下させた自殺介入方法が示されている。
Limitationとしては、あらかじめ研究デザインで設定した方法とは異なる統計解析が行われており、しかもそれについて論文において説明がないこと、RCTではなくsequential clinical trialであること、通常の治療に同意した群と介入に同意した群との間に選択バイアスが生じている可能性があることが挙げられる。
今後、この分野で更なる研究が続くことを期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科