スポーツ医学とは5- ひじのスポーツ障害〜野球肘〜

今回は私の専門であるスポーツ障害の中でも、成長期の肘(ひじ)に発生する「野球肘」と呼ばれるものに関してお話しいたします。

成長期の「野球肘」ということからも野球選手に多いのですが、実はこの疾患は野球選手に限って起こるものではありません。投球動作が加わるスポーツであればどんなスポーツでも発生しうる障害なのです。

では具体的にこれはどういった疾患なのでしょうか?それを理解するためには、まず投球時に肘にかかる力に関してお話しする必要があります。

投球をする際に、肘の内側には靭帯によって骨を引き離す力が働きます。これはボールを持った手先が肘に対して遅れて前に出てくるためです。さらに、このように肘の内側が引き離されると反対に肘の外側には骨と骨がぶつかる力が作用します(図1)。そして、これらが原因で起きる障害が「野球肘障害」と呼ばれるものなのです。特に前者を「内側型野球肘障害」、後者を「外側型野球肘障害」とも呼びます。(他にも後方型野球肘障害がありますが、今回は省かせていただきます)orthopedics_08b.jpg

成長期の「内側型野球肘障害」では内側の骨が分節化して引き離されてしまいます。症状は肘の伸びが悪くなったり、内側に徐々に強い痛みが出現します。これらの症状に対しては早期に見つかれば手術ではなく、保存的に治療することが可能です。局所の炎症を抑え、肘関節をまたぐ筋肉のトレーニングをし、さらには投球フォームのチェックで体の開きが早くないか、肘が下がっていないか、などもチェックします。

次いで「外側型野球肘障害」ですが、こちらの方はもう少し予後が悪く、見つかる頃には手術の適応になってしまっている場合も多いです。なぜそうなるかというと、初期にはほとんど症状が出ず、気付かないうちに症状を悪化させてしまう場合が多いためです。肘の伸びにくさなどに気付いて来院するころには骨・軟骨が強く障害されてしまって、はがれてしまっている場合も多いです(図2)。
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このような場合はなるべく早期の復帰をしてもらうために侵襲の少ない関節鏡を用いてはがれてしまった骨・軟骨を取り除いたり、また範囲が広ければ骨・軟骨を移植することがあります。いずれも当院では可能な限り小切開で行い、早期に復帰できるように工夫しながら手術を施行しています。

野球肘、特に外側型は進行してしまい、手術になってしまうケースが多いと書きましたが、それでは何が重要になってくるかと言いますと、いわゆる早期発見を目的に定期的に専門家が行う「メディカルチェック」です。当院では教育機関やチームを対象にスポーツ医学メディカルチェックを行っていますが、携帯用超音波診断装置を持って学校やフィールドに出向いています。これにより肘に関しても診察のみならず、初期の骨・軟骨病変を発見できます。これにより数多くの選手が手術をせずに予防できています。

貴学校、チームにてこのようなチェックを希望される場合は、ぜひ当院スポーツ医学科までご連絡を!

スポーツ医学科 大内洋

このサイトの監修者

亀田総合病院
スポーツ医学科主任部長 大内 洋

【専門分野】
スポーツ整形外科、関節鏡手術、スポーツ整形外科疾患に対する超音波診断
PRP療法、体外衝撃波、高気圧酸素治療の最新治療法