担癌患者の鑑別疾患
Takafumi Koyama MD
はじめに
救急外来、一般内科外来で診療していると、担癌患者の診察時に苦慮することがある。
担癌患者以外にも、自己免疫疾患、間質性肺炎、冠動脈疾患、肝硬変、透析患者は、診療時に多くの注意を必要とする。しかし、担癌患者の診療開始前には、躊躇する研修医の先生が多いのではないだろうか。
躊躇する原因としては、i)特有のがんの病態とii)抗がん剤関連が考えられる。
しかし、我々が、学生時代から習得してきた患者へのアプローチを変える必要はない。病歴聴取、身体所見の取り方は共通である。必要なことは鑑別疾患の追加だ。鑑別疾患は通常、確からしい3つ、はずせない致死的2ー3つを考えることが多いだろう。ここに癌患者特有の鑑別疾患を組み入れてやれば、診療スタイルを変える必要はない。
がん患者特有の鑑別疾患を連想するTipを今日は習得しよう。
がん患者特有の鑑別疾患
診察を開始する前に、バイタルサイン、年齢、性別、主訴を確認する。これは担癌患者でも変わらない。次に、多くの医師が、カルテから患者情報をPick upするのではないだろうか。
もし、がん患者特有の鑑別疾患をあげる上でどのような情報をPick upするかがわかれば、あなたも今朝から担がん患者の診療のエースになれる。
- Biological Character
- 脳転移の頻度の高い癌
肺がん、乳がん、腎がん、悪性黒色腫、胚細胞腫瘍 - 骨転移の頻度の高い癌
肺がん、乳がん、腎がん、前立腺がん、甲状腺がん - 出血しやすい癌
肝細胞がん、腎がん、甲状腺がん、悪性黒色腫、下垂体腺腫 - 血栓を起こしやすい癌
膵がん、肺がん、尿路上皮がん、腎がん、胃がん
Care/Treatment
化学療法
免疫チェックポイント阻害剤は、現在、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、胃がん、頭頸部扁平上皮がん、尿路上皮がん、に使用可能となっている。従来の抗がん剤(殺細胞薬、分子標的薬)とは、別に考えた方がわかりやすい。自己免疫疾患やGVHD(Graft versus host disease)のような症状(皮膚障害、腸炎、肝障害、内分泌異常)を起こす。
殺細胞薬、分子標的薬の副作用は4つのカテゴリーにわけると理解しやすい。
i)骨髄抑制、ii)反応性、iii)血栓・出血、iv)臓器障害である。
骨髄抑制・臓器障害が問題となるのは殺細胞薬、それ以外のものは分子標的薬で問題となることが多い。
骨髄抑制のピークは3週間毎の抗がん剤であれば10-14日、2週間毎であれば7-10日、毎週投与では休薬の週と覚える。
Cancer | IP | Skin and mucosal damage |
Bleeding/ Perforation/ DVT | Cardiac toxicity | Renal toxicity |
Gastric cancer | Ramucirumab | Transtuzumab | Cisplatin | ||
Lung cancer |
Gefetinib, Erlotinib Afatinib Crizotinib |
Gefetinib, Erlotinib, Afatinib, Osimertinib Crizotinib, Ceritinib Alectinib |
Bevacizumab Ramucirumab |
Cisplatin (Bevacizumab) |
|
Breast cancer |
Everolimus | Everolimus | Bevacizumab | Transtuzumab, (Pertuzumab) Doxorubicin, Epirubicin |
(Bevacizumab) |
Colorectal cancer | Cetuximab, Panitumumab | Cetuximab, Panitumumab, Regorafenib |
Bevacizumab, Regorafenib Aflibercept |
(Bevacizumab) |
放射線
・照射部位、照射線量、照射時期
急性期:粘膜炎、吐き気(頭蓋、上腹部)、倦怠感、食欲低下
亜急性期〜慢性期:放射性肺臓炎、放射線リコール
ステロイド
脳転移、脊椎転移による周囲組織の浮腫軽減や、制吐剤、悪液質のコントロールと様々な癌診療の場面で使用される。
深刻な問題としては、筋症(4週間以上)、消化管潰瘍、ニューモシスティス肺炎(3週間以上)がある。
自覚されやすいものとしては震戦、吃逆、不眠がある。
Distribution
がんの拡がっている範囲と異物の有無を確認する。
Location
i)原発巣の切除の有無をみる。原発巣は、病変の中でもっとも大きいことが多く、問題をおこしやすい。出血、膿瘍、上大・下大静脈症候群、窒息。
ii)腹膜播種、胸膜播種、髄膜播種にも注意する。とくに腹膜播種症例では閉塞(胆管、尿管)をおこし、機能不全、感染を起こす。
異物は、血栓、感染のリスクであり、注意する必要がある。異物関連であれば、抜去することを考えなければならない。ステントが入っている患者では再閉塞、Colonizationをしばしば経験する。
症例の答え
Case:転移性大腸癌65歳男性の胸部違和感
既往歴:高血圧、薬剤:ACEI、CCB
病変はS状結腸、多発肺転移、リンパ節転移。
原発巣の切除なし。放射線治療歴なし。現在FOLOX+bevacizumabで治療中。
診断:中心静脈カテーテル関連血栓症
このサイトの監修者
亀田総合病院
腫瘍内科部長 大山 優
【専門分野】
がんの包括的医療、病状に応じた最善の治療の選択と実践