腫瘍内科(Medical Oncology)とは

皆さん、腫瘍内科ってどんな科かご存じでしょうか?

米国では数十年前からある内科系専門科の一つで、循環器科と並んで内科系の中では最大規模です。昔は外科切除が中心だったがん治療は、過去30年の間、科学の進歩と共に有効な抗がん剤が多数出現したことで大きく変貌を遂げました。特にここ15年間の新薬開発のスピードは著しく、これまで治療手段に乏しかったがんにも有効な薬剤が出現しました。また効果も飛躍的に上昇し、生存期間が延長し、手術不可能な症例も抗がん剤で腫瘍縮小させた後に切除出来るようになってきています。同時に内視鏡を使用しての低侵襲手術、IMRTや粒子線など放射線治療などの局所療法も進歩しました。そしてこれらの治療を組み合わせることで最大の治療効果が出せるようになってきています。このようにがんの診療は複雑化・高度化しています。そしてきめ細かな全身管理を要するような薬物療法は外科医の手から離れ、それを専門とする内科医へと移っていきました。

米国では1960年代に始まり、日本でも遅ればせながら2000年代に始まりました。腫瘍内科が確立して50年以上経つ米国では化学療法は腫瘍内科の専門トレーニングを受けた医師だけが施行します。しかし我が国では、固形癌に対する化学療法は外科医主導で行われてきた歴史から、各医学部の腫瘍内科講座の規模が小さく、輩出された医師も少ないという問題があります。しかし徐々にではありますが、がん薬物療法(化学療法)を専門とする医師は増えてきており、20年後には米国のようになっていることが期待されます。

がんは発生部位や組織型が異なっても共通の治療薬を使用することがあります。最近話題の免疫療法(PD-1抗体)や血管新生阻害薬、タキサン系やプラチナ系やフッ化ピリミジン系の殺細胞薬などが代表です。また、あるがんの知識が別のがんの診療に役立ちます。例えば転移進行がんの経過や、それに対するアプローチはがん種が異なっても似ている部分があります。局所進行乳癌、ステージIII非小細胞肺癌、局所進行膵癌、直腸癌などは術前に化学療法や放射線療法などで腫瘍を制御し、治療成績を向上させることが一般的です。また使用する薬剤には同一系統のものも複数あります。どのような状態になったら切除可能になるか、どういう状態では手術ではなく放射線+/-化学療法を用いるべきかなど、ある程度共通のコンセプトを用いることが可能です。がんにはどこから発生したかわからない原発不明がんも少なくありません。一人の患者さんに二つ以上のがんが発生する重複癌も高齢になるほど増えます。これらがんの診療には様々ながん種の診療に精通した横断的知識を有する腫瘍内科医の存在が重要です。

がん患者さんは老若男女問わず沢山います。高齢化が進む中ますます増加します。そして複雑化したがん医療を適切に行うためには腫瘍内科医の存在が不可欠です。がん患者を広く深く診療する知識と技術を持ち合わせる腫瘍内科医、皆さん将来をかけて勉強してみようとは思いませんか?

腫瘍内科とキャリアパス

キャリアパスとは、プロフェッショナルとして一人前になるために必要な知識と技術をつけるための人生の道筋です。腫瘍内科医においては下記の通りです。

■「どこの病院で誰に師事」して研修するか?

  • 初期研修医:指導医が真面目で熱心な病院
  • 後期研修医:内科医としてのトレーニングを積み重ねるため、後期研修では一般内科的な要素が混ざった診療科か、足りない部分をローテートすると良いです。亀田総合病院の腫瘍内科研修では一般内科的な要素が多くを占めます。

■キャリアの最終目標は、どこへ行っても一定の評価をされる実力(知識と技術)を身につけ、「自分自身で安心」できる医師に成長することです。病院で求められる職務を遂行でき、後進の指導が行えるようになること。

  • 下記の専門医を取得
    1. 内科認定医、総合内科専門医
    2. 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医
  • 腫瘍内科の専門医の取得は最短コースでくると卒後8年目に取得できます。その後は下記の様ないくつかの代表的なキャリアパスがあります
    1. 大学や、がんセンターで研究と臨床の経験を積む(translational research track)
      ・将来がんセンターや大学、または市中病院のスタッフなどになる
    2. 市中病院で臨床中心に頑張る。いずれ指導する立場になる(clinical track)
      ・学会や研究活動は、生涯続けることが可能
    3. 上記1又は2の後に開業する。あるいは開業医グループに入る
      ・比較的まれに感じるかもしれませんが、ロールモデルがいます
    4. 米国(臨床・基礎)留学の道へ進む
      ・米国でキャリア(基礎、臨床、または両方)を積み永住する。または日本に帰り、大学や教育病院で指導医となる

通常、多くの医師が1又は2のキャリア、またはその折衷の道を歩みます。亀田総合病院の各科の指導医・スタッフ医師も多くがそうです。腫瘍内科の場合、我が国における歴史が浅いこともあり、ロールモデルとなる医師が少ないことは不安材料となると思われます。実際日本各地で腫瘍内科を標榜している施設(大学や大病院)では、所属する多くの医師がもともと呼吸器内科、消化器内科、血液内科などです。そうすると腫瘍内科一本でやってきた医師がおらず、自分はどうしたらよいのだろう?と不安になると思います。もし臓器別の専門診療科ではなく、腫瘍内科を若いうちからキャリアパスとして選んだ場合、その人は20年後なんと言っているでしょうか?私は恐らく下記だと思います。

「私は亀田総合病院で腫瘍内科の研修を受けました。全てのがんの診療を、各科と協力して行うことを3年間やりました。亀田では頻度の高いがんに加え、血液・希少疾患を含む膨大な症例数を経験しましたので、研修修了後はコモンな疾患に関してはある程度自信をもって望めました。また少し自信がない、珍しいがんでも、どのように調べて対応していったらよいかある程度わかりようになりました。その後地元の大学病院へ帰り、更なる経験を積みました。研究も行い、論文も複数あります。現在大学の関連病院の腫瘍内科医として他の医師2名と、その病院の初期研修医とともに、院内のがん患者さんの診療と教育に頑張っています。研究活動も少し続けています。がんの診療は外科的なことよりも内科的なものが大半です。今後も益々増え続けるがん患者さんの診療の仕事は、どこの病院でも増えるばかりだと思います。私は臓器専門科を選ばずに横断的な腫瘍内科でずっとやってきましたが、どのようながん種にも対応でき、とても良かったと感じています。」

上記の「亀田総合病院」を「・・病院の腫瘍内科」に置き換えたり、「地元の大学病院」を「地元のがんセンター」などに置き換えてみてください。そのまますっきりはまります。途中省略されている部分があるように感じるかもしれませんが、それは個々の医師で異なるからです。ある病院で頑張っていると、そこでの出会いがあります。そして自分の目指すべき道がさらに開けてきます。

米国臨床留学というやや特殊な道を選んだ私でさえ、米国で様々な出会いをしました。そして自分の気持ちの趣くまま、または信頼する上司の指導に従い、ここまでやってきました。日本でキャリアパスを行う人でも同様です。頑張っていると一見将来が不安に感じるキャリアであっても、必ず良い出会いがあります。そして必ず道が開けます。私大山優は、卒後6年目からアメリカで内科・血液・腫瘍内科研修後、スタッフ医師として計10年間過ごしました。その後亀田にきて約10年になります。僕のキャリアのハイライトはアメリカでの経験ですが、日本で実績を積む先生も大体この時期がカギになると思います。

現在の私の仕事の中心は、研修医を育てることです。亀田の後期研修で腫瘍内科医の基礎をしっかりと作ること。そして研修医一人一人の希望と目標に合った進路指導とサポートを全力で取り組んでいます。ここへ来た皆さんが、ここで研修して良かったと思えるような環境作りを日夜努めています。

超高齢化社会になり、これからがん患者はますます増え続けます。がん患者は年齢、がん種、ステージ、併存疾患、合併症、全身状態も様々です。これら一般的ながんに加え、原発不明や重複がん、診断前の「がんみたい」な状態まで、腫瘍内科医は全ての状態に対応可能です。腫瘍内科医は大病院から中小規模病院、そして開業医でも、診断・治療から緩和ケア・看取りや在宅まで、がん患者さんの診療全般にわたる診療ができます。全ての種類のがん患者を診療可能な我々腫瘍内科医は、どの医療の場面でも、今後ますます需要が高まっています。

当ブログの卒業生便りを読むと、卒業したみんなの活躍が良くわかると思います。亀田に見学に来てくれたら、それぞれのパターンのキャリアパスの具体的なケースを説明することもできます。皆さんお待ちしています!