EUPHRATES

post37.jpg【論文】 Dellinger RP, Bagshaw SM, Antonelli M, Foster DM, Klein DJ, Marshall JC, Palevsky PM, Weisberg LS, Schorr CA, Trzeciak S, Walker PM; EUPHRATES Trial Investigators. Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin Level: The EUPHRATES Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018 Oct 9;320(14):1455-1463. doi: 10.1001/jama.2018.14618. PubMed PMID: 30304428.

【Reviewer】Jun Okui, Ryohey Yamamoto, Hirotada Kobayashi

【Summary】

  • PMX+従来治療は、Sham+従来治療と比較して、Endotoxin Activity Assay (EAA)高値を伴う敗血症患者の28日死亡率を改善しなかった。
  • Hierarchical Strategyを採用し、主解析で有意差がなかったためSecondary Outcomeの解析は行わなかった。

【Research Question】エンドトキシン高値の敗血症においてPMX-HPは28日死亡率を改善させるか

【わかっていること】

  • エンドトキシンは宿主の炎症を活性化し、敗血症症状を引き起こす
  • エンドトキシン高値は敗血症において臓器不全、死亡率と相関する
  • エンドトキシンをターゲットとしたMonoclonal antibody, TLR-R antagonistなどの薬物療法は過去に検証されたが効果がないことがわかっている
  • 体外循環でエンドトキシンを吸着するPolymyxin B hemoperfusion (PMX-HP)に関する報告がいくつかある。
  • EUPHAS試験では、平均血圧の上昇が報告されたが、死亡に有意差はなかった。
  • ABDOMIX試験ではPMX使用にむしろ否定的な結果であった。
  • ABDOMIX試験はマスキングされていないこと、検出力不足であったこと、PMXの完遂割合が低いこと、エンドトキシン濃度が測定されていないことがLimitationとして指摘されていた。

【わかっていないこと】

  • エンドトキシン高値の敗血症においてPMX-HPが死亡率を改善させるか

【仮説/目的】エンドトキシン高値の敗血症において通常治療に加えてPMX-HPを2セッション行うことは、通常治療にSham手技を加えることと比べて28日死亡率を改善させる

【PICO】
P:Endotoxin Activity Assay(EAA)≧0.6の敗血症性ショック
 Inclusion Criteria:

  • Adults over the age of 18
  • Hypotension requiring norepinephrine ≧ 0.05γ for at least 2 hours and for no more than 30 hours prior to randomization
  • Received intravenous antibiotics
  • Received at least 30 mL/kg of intravenous crystalloid fluid (or equivalent) in 24 hours
  • Least 1 additional new organ dysfunction
  • Endotoxin activity assay level ≧ 0.60

 Exclusion Criteria:

  • Documented treatment limitations (limits in treatment that prohibited further escalation in the intensity or scope of organ support or initiation of renal replacement therapy)
  • Terminal disease state that would have precluded short-term survival※ DNARはExcludeせず
    ※第二次中間解析後にMODS≦9 (非重症患者) がExclusion criteriaに追加

I:通常治療+PMX2セッション
C:通常治療+Sham手技
O:28日死亡率

【期間】2010.09 - 2017.06

【場所】US, Canada

【デザイン】多施設RCT

  • 事前プロトコルの有無Supplemnt1
  • COI:Spectral Medical Inc(PMX、EAA試薬の販売会社)から資金提供。 デザイン, 研究指揮, データ集積・管理・分析・解釈, 執筆準備, レビューに関与, 論文投稿には関与なし
  • ランダム化の方法:Webベースのランダム化、層別化、ブロックランダム化 サイズ2〜4
  • 隠蔽化の有無:Webベースの中央割付
  • マスキングの有無と対象者:Sham手技を行うことで患者・医師・データ評価者、解析者がマスキング。研究ナースやベッドサイドナース、臨床治験薬剤師、透析カテーテル挿入医師、透析施行腎臓内科医はマスキングされていない。

【N】450

【介入】PMX-HP

  • PMX-HP CVから
  • Blood flow rate 100 mL/min (range, 80-120 mL/min)
  • 24時間以内に2時間のsessionを2回施行 (最低90min)

【対象】Sham手技

  • 同様のHD machineを設置
  • Catheterはcutされてdressingで覆われた
  • 0.9% salineを2時間circulation 24時間以内に2回施行→ 実際の写真がなく詳細不明

【両群共通】

  • 未分画ヘパリンで抗凝固
  • Survival Sepsis Campaign Clinical Practice Guidelineに則ってConventional Therapy

【主要評価項目】28日死亡率

【副次評価項目】Hierarchical testing strategyで行う。
MODS群での28日生存期間、平均動脈圧、尿量、ベースラインから72時間後のCre

【解析】

  • サンプルサイズ計算:EUPHAS trialの結果をもとに, 28-day mortality 35%, 1-β=80%, α=0.05, ARR 15%と設定し360必要と計算。なお、第二次中間解析後, 倫理委員会の勧告により重症患者(MODS>9)のみIncludeすることになり、450人と再計算された。
  • 中間解析:2回の中間解析を計画
  • ITTの有無:有り
  • Per protocol:両群で5%の差がある場合に行う
  • 解析:Hierarchical testing strategyで行う。(Primary outcomeに有意差が見られた時のみSecondary end pointの評価。Secondary end pointに設定された順番に、有意差が認められなくなるまで解析を続ける)
  • 中間解析施行に伴いO'Brien-Fleming法にしたがって最終的な有意差はα=0.048とした

【結果】
2回目の中間解析後, 倫理委員会の勧告により重症患者(MODS>9)のみIncludeすることになり、450人と再計算された。

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外):921人がスクリーニング、471人が除外された。除外理由が不明なものが8人いた。450人がランダム化され、PMX群に224人、Sham群に226人が割り付けられた。MODS>9を満たす患者はそれぞれ147人、148人であった。1人が脱落した。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性):割付から介入開始までの中央値は3.5時間、年齢は58.8-60.9歳、女性37.5-41.2%、APACHE II 28.1-29.4程度の集団。感染臓器は腹腔内が32.4-35.7%、肺が34.3-38.8%であった。昇圧剤の使用、AKI、RRTの頻度に両群で明らかな差はなく、両群同等であった。
  • アドヒアランス:全体でPMX群が12人、Sham群で6人が介入を受けなかった。MODS>9では8/147、3/145人が介入を受けなかった。
  • 主要評価項目
    ・28日死亡:37.7% (84 of 223) vs 34.5% (78 of 226) (risk difference [RD], 3.15; 95% CI, −5.73 to 12.04; risk ratio [RR], 1.09; 95% CI, 0.85-1.39; P = .49)
    ・MODS>9での28日死亡:44.5% (65 of 146) vs 43.9% (65 of 148) (RD, 0.60; 95% CI, −10.75 to 11.97; RR, 1.01; 95% CI, 0.78-1.31; P = .92)
    ・Per-protocol解析:PMX or Shamを2回受けた患者に限定したPer-Protocol解析でも有意差なし
  • 副次評価項目
    ・Hierarchical Strategyを採用しているためSecondary Outcomeの解析には進まず
  • 有害事象
    ・serious adverse events: PMX 65.1% vs Sham 57.3%
    ・PMX associated: 5.2% vs 2.3%

【Strength・Limitation】

  • Strength
    ・過去最大規模
    ・EAA高値の患者
    ・多様な対象疾患
    ・Partial Blindを保つための工夫を行った
  • Limitation
    ・最大限の工夫は行われたが、完全なMaskingはできなかった
    ・検出力不足の可能性
    ・Hierarchical Strategyを採用したため、Secondary Outcomeの解析に進めなかった

【論文の結論】
PMX+従来治療は、Sham+従来治療と比較して、Endotoxin高値を伴う敗血症患者の28日死亡率を改善しなかった

  • 飛躍していないか
    いない

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • Sham groupを設定しているが、生理食塩液で施行されており、遠目ではわからないが、よく見れば分かる可能性が高い。この点でマスキングができているかは疑問。
  • そもそもEAAが半定量試験であり集団設定として妥当ではないかもしれない
  • ベースラインは同等でAPACHE2 30と十分重症な集団
  • PMXのタイミングやDose、期間の妥当性が不明
  • 28日死亡の減少を15%と見積もっており検出力不足ではあるが、症例数を増やしてもPMX群で3.15%死亡が増加する結果かもしれない

<外的妥当性>

  • リクルートに6年を要しており、今回患者の適応となる患者はかなり限られる。
  • アジア人種が全症例の2.6%であり、日本の実臨床とは人種構成が異なる。


【Implication】
 EAA≧0.6、MODS score≧9の敗血症性ショックに対してPMX-HPによる予後改善効果はなかった。
 EUPHRATESは2016年10月のESICMで学会報告され早2年たちようやく論文化されJAMA誌に掲載された。
 さてこの研究ではSham手技(偽の手技)を用いることで、マスキングへの配慮がされており、よくバイアスに対処されたRCTである。中間解析で差がつかないことが予想され、MODS≦9患者が除外されることが決定しプロトコルの改変がなされ、十分に重症な患者を組み入れたにもかかわらず、今回の結果に有意差はなかった。
 これまでPMX-HPは腹腔内敗血症、それ以外でもエンドトキシン高値の敗血症で有効であるという意見のもと使用されてきたが、ABDOMIXと併せてこれらが否定されたと考えて良い結果であろう。結果がネガティブになった事の考察として、EAAがEndotoxin burdenを反映していないこと(EAAの変化に違いはないがEAAは半定量検査でありエンドトキシンは微量なため前後の差がわからないだけかもしれない)、タイミングやDose、期間が不十分、検出力不足(検出力を上げたところで微妙にPMX群が悪いという結果が検出されるかもしれない)ということも考えられるが、これらを差し引いても現状のエビデンスからは使う価値があるとは思えない。
 一方で今回研究でもMAP上昇が報告されている。PMX-HPによりMAP上昇することはこれまでも示唆されており、本研究ではMAP上昇(8.1 vs 3.9mmHg RD4.5 (0.7-8.3))が報告されている(Supplementary appendix)。これがエンドトキシンを吸着した結果なのか、他の内因性物質を吸着した結果なのかはわからないが、ハードアウトカムである死亡は同等かやや悪くするような結果である。PMX-HPでMAPが上昇しても予後を変えておらず、MAP上昇をPMXの使用理由とはすべきではないと考える。MAPが上昇することが真実だとしても「MAPは上昇するがPMX-HPにより他に悪いことが起きて全死亡が変わらない」ということを考えておかなければならない。
 これまで多くの研究で代用指標(MAP上昇など)に差はあってもハードアウトカムでは差がないことが繰り返し示されており、PMXのように高価で有害事象もある程度存在し、かつエビデンスの蓄積も乏しい介入は代用指標だけの結果を信じて臨床に用いるべきではない。MAPが上昇するとしてもそれは他の昇圧剤で代用可能と考えられ、PMXでMAPが上昇するとは雖も、それは高価な昇圧剤(1回あたり348,000円+人件費)でしかない。
 論文上は書かれていないがSPECTRAL.INCのプレスリリースではEAA0.6-0.9のサブグループで28日死亡が改善(26.1% vs 36.8%, p=0.047)と報告されている。これは事前規定のないサブグループ解析であり、多重検定によるαエラーの可能性を考えなければならない。これをもってPMXを使用する根拠としてはならず、あくまで仮説として扱われるべきである。FDAでも追加承認のための追試が要求されている。(TIGRIS trial)
 当院では引き続きPMX-HPを行うことはないだろう。

【本文サイト】https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2706139

【もっとひといき】ABDOMIX


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学