microbiology round

本日のmicrobiology roundのテーマは、Bacillus cereusでした。グラム染色で野太いグラム陽性桿菌で縦に連なるのが特徴です。

【症例】 60台 男性
途中、CD トキシン陽性となり、メトロニダゾール静注+バンコマイシン内服が開始された。
201X年 X/25 入院、MDS(骨髄異形成症候群)治療中の 60台 男性。
X+2/26 に、薬剤投与・移植のため、右頸部に中心静脈(CV)カテーテル留置された。
X+3/3 に同種造血幹細胞移植を行い、生着を待っているところであった(生着不全が懸念されていた)。
X+3/4 発熱があり、発熱性好中球減少症としてセフェピム投与が開始された。
X+3/23 頃から解熱していたが、
X+3/28 に再度発熱あり、血液培養 2 セット(CV カテーテルから 1 セット、末梢静脈から 1 セット)が採取された。
翌日(X+3/29)になり、血液培養から GPR が陽性のため、感染症科併診開始。バンコマイシンを追加。
明らかな感染部位は診察上指摘されず、長期留置の CV カテーテルが entry となった、CRBSI(カテーテル関連血流感染症)を想定し、同日にカテーテルを交換した。意識障害を認めたため、頭部 CT を撮影したところ、クモ膜下出血+脳出血を認めた。
X+3/30 に、GPR は B. cereus と同定された。B. cereus による髄膜炎/脳膿瘍を考え、バンコマイシンに加え、メロペネムの使用を開始した。
後日、フォローアップで撮像した頭部 MRI で、脳膿瘍が証明された。


【B. cereus について】
0.概要
・自然界に広く分布し、食品腐敗菌として知られる ・免疫不全者に日和見感染として敗血症、心内膜炎、髄膜炎、骨髄炎、気管支肺炎などを起こす
・一方で、1950 年に Hauge が食中毒菌として記載して依頼、世界各地で下痢、腹痛、悪心・嘔吐を主症状とする 食中毒を起こすことが明らかになり、日本でも 1960 年から本菌による食中毒の発生が知られ、食中毒の 原因微生物として指定されている 4)
・自然界の B. cereus のリザーバーは、腐敗有機物、淡水/海水、野菜と媒介物、無脊椎動物の消化管 ・土壌や汚染された食品から、ヒトの消化管に一過性のコロナイゼーションを生じる 6)

1. 微生物学
(1)一般的特徴(Bacillus 属)
・Bacillus 属はグラム陽性、好気性ないし通性嫌気性の芽胞形成性桿菌
・周毛性鞭毛を有し運動性を有する(B. anthracis は鞭毛がない)、長い連鎖を作ることがあり、R 型のコロニーを形成する ・殆どの菌種はカタラーゼ陽性
・主に土壌中に生息し、非病原性
(2)培地での発育
・通性嫌気性、至適発育温度は 28-35°C
・普通寒天培地によく発育し、辺縁は不規則、灰白色の大きなR型コロニーを形成
・ペニシリナーゼを産生し、ペニシリンを含む寒天培地でも増殖する 4)
・好気環境 37°Cで、5%ヒツジ血液寒天培地上に発育すると、くすんだ灰色で不透明な、
R型のマットな表面のコロニー 6)
(3)形態
・グラム陽性
・両端は直角で、通常連鎖する
・大きさ 1.0-1.2×3.0-5.0μm の大桿菌で、周毛性鞭毛を有する ・莢膜はない
・菌体中央に 1 個の楕円形の芽胞を形成する
(4)生化学的特徴 ・グルコース、マルトース、サリシン、ショ糖を分解するが、ガスを産生しない ・アラビノース、キシロース、マンニトールは分解しない
・ホスホリパーゼ C を産生し、卵黄寒天培地上でコロニーの周囲が乳白色になる(卵黄反応陽性) ・溶血性
・ゼラチン液化能、硝酸塩還元能があり、牛乳は凝固後溶解
・VP 反応(Voges Proskauer test)陽性、インドール反応陽性
(5)毒素産生
・B. cereus は、色々な毒素を産生する
・necrotizing enterotoxin、emetic toxin、phospholipase、protease、hemolysin
・hemolysin は 4 種類、phospholipase は 3 種類、pore-forming enterotoxin は 3 種類、hemolysin BL (HBL)
nonhemolytic enterotoxin (NHE)、emesis-inducing toxin、cytotoxin K など多種が知られる 6)

2. 感染を起こす部位
(0)一般論 ・感染は、まず消化管か、消化管外かに大別される
・それを含め、大きく6種類の感染部位に分類 5)
(1)局所感染;特に熱傷、外傷、術後創部、眼 ・皮膚軟部組織感染、骨感染が、外傷や創部と関連して報告されており、特に交通外傷後 ・C. perfringens に類似した壊死性筋膜炎、ガス壊疽を生じる報告
・B. cereus は、急速に進行する眼内炎を起こすことがある ・侵入門戸は、眼外傷や眼内注射や手術など直接的なルートと、血行性に到達するルート(後者は IV drug user)
(2)菌血症 ・最もプレゼンテーションとしては多いが、コンタミネーションとの区別が難しい
・真の菌血症の場合には、血管内カテーテル、特に外科的に留置されたカテーテルを有することが特徴 →治癒のためにはカテーテル抜去を要する
・重症でときに致死的でさえあって、特に患者が好中球減少などの免疫不全を有する場合 ・新生児や乳児で、播種性の感染症が報告されている
・これらは多臓器を冒し、新生児の場合は周産期に感染していると推測 ・ビーフリード®など末梢静脈栄養が、B.cereusによるCRBSIのリスクとなることが報告 9)10)
(3)中枢神経感染;髄膜炎、膿瘍、シャント関連感染 ・外傷や手術などから、中枢神経に入る(特に髄液シャントなど)
・治癒のためには、その人工物は抜去が必要
・診断や治療のための腰椎穿刺が、Bacillus の侵入門戸となることがある ・脳膿瘍や脳炎が、単独または髄膜炎とともに認められることがある ・髄膜炎、髄膜脳炎、クモ膜下出血、脳膿瘍が、小児や成人の特に白血病や他の悪性疾患に伴う免疫不全で報告 7)
・この場合の侵入門戸としては、血管内カテーテル(CV 含む)、腰椎穿刺、また消化管が想定されている
(4)呼吸器感染
・めったに肺炎を起こすことはないが、B. cereus による重症肺炎の報告が散見される
・B. anthracis は呼吸器感染を起こすことで知られている
・pX01、pX02 という 2 種類のプラスミドを有することが、B. cereus との違い
・B. anthracis の毒素遺伝子を有する B. cereus で似たような症状を起こすことが報告
(5)心内膜炎、心外膜炎 8)
・めったにないが、IV drug user で心内膜炎の報告がある ・ペースメーカー使用者や、心臓弁膜症患者でも、報告されている

(6)食中毒:トキシンによる嘔吐・下痢症候群
1)下痢型 ・多量の下痢、腹痛が特徴であるが、殆ど嘔吐や発熱を来さない ・発症は汚染された食物の摂取から 8-16 時間後 ・症状は短時間(平均 24 時間)
・diarrheal toxin:36-45kDa の蛋白2種類以上の混合 ・易熱性で、十分に加熱すれば減少/消滅させることができる ・肉、野菜、ソースが原因食物になる
2)嘔吐型
・S. aureus の enterotoxin のような症状 ・嘔気・嘔吐、腹痛、1/3 の症例では下痢も伴う ・発症はかなり早く、食物摂取から 1-5 時間 ・24 時間以内に軽快する
・emetic toxin:10kDa の小ペプチド
・耐熱性
・米なドのデンプン質と関連 →室温で一晩放置(冷ますために)された米(チャーハンなど)を再加熱することによる

3. 抗菌薬治療
・食中毒には、特異的な治療法はない
・深部組織感染に対しては、人工物の除去(IV カテーテルを含む)が治癒のためには不可欠
・β ラクタマーゼを産生するため、カルバペネム以外の β ラクタム薬には耐性(第3世代セフェムを含む) ・通常、アミノグリコシド、クリンダマイシン、バンコマイシン、フルオロキノロン、カルバペネム、 1)
(クロラムフェニコール、エリスロマイシン)に感性 5)

【参考文献】

1)Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, Eighth Edition, Chapter 210, 2410-2414
2)臨床微生物検査ハンドブック 第4版,三輪書店,2011
3)微生物学/臨床微生物学 第 3 版, 医歯薬出版株式会社, 2010
4)吉田眞一, 柳雄介: 戸田新細菌学 第 32 版, 南山堂, 2006
5)Drobniewski F a. : Clin Microbiol Rev 6:pp324-38, 1993
6)Bottone EJ. : Clin Microbiol Rev 23:pp382-98, 2010
7)Sakai C, Iuchi T, et. al. : Intern Med 40:pp654-7, 2001
8)Steen MK, Bruno-Murtha LA, et. al. : Clin Infect Dis 14:pp945-6,1992
9)末梢静脈栄養は Bacillus cereus 菌血症の危険因子である. 楽園はこちら側 http://georgebest1969.typepad.jp/blog/2016/05/ 末梢静脈栄養は bacillus-cereus 菌血症の危険因子である.html(最終閲覧 2018.8.22)
10)Sakihama T, Tokuda Y. : Jpn J Infect Dis 69:pp531-3, 2016

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育