亀田感染症ガイドライン:結核を疑う時とその対応(version 2)
亀田総合病院には、院内感染症ガイドラインが存在するのですが、ここ数年あまり改訂されていなかったため、今年度は半分くらいを目標に改訂していこうと考えています。その第1段です。
亀田感染症ガイドライン
結核を疑う時とその対応(version 2)
2018年6月最終更新
2016年の厚生労働省の統計では年間約17625人が結核を新規に発症し、1889人が死亡している。そのうち医療従事者は191人で1.1%を占めている1)。患者さん自身のため、スタッフを守るために診察中の患者さんで肺結核を疑うポイントとその後の感染対策についてまとめる。
(1)どんな患者さんで結核を疑うか?
- 肺結核の症状2)
咳(78%)、体重減少(74%)、倦怠感(68%)、発熱(60%)、盗汗(55%)、血痰(28%) - 結核を疑うきっかけとなる情報
症状:咳(2-3週間以上)、体重減少、寝汗、血痰
結核リスク:最近の結核暴露、HIV感染、DM、慢性腎不全、ステロイド、免疫抑制薬
悪性腫瘍、珪肺など
経過:7日以内に改善しない市中肺炎
画像:上葉またはS6(上下葉区)の陰影(±空洞) - 結核を疑う5つの状況3)
1) 2-3週間以上の咳+(発熱、寝汗、血痰、体重減少のうちひとつ以上)
2) 結核リスク高い患者で、原因不明の呼吸器症状などが2-3週間以上持続する場合
3) HIV感染者が、原因のはっきりしない咳と発熱がある場合
4) 結核リスクの高い患者が、市中肺炎と診断され、7日以内に改善しない場合
5) 結核リスクの高い患者が、偶然TBらしい胸部X線異常があった場合(症状は問わない) - 結核の高リスク群
最近の肺結核患者への暴露、ツベルクリン反応またはインターフェロンγ遊離試験(Interferon-Gamma Release Assay:IGRA、QFTとT-SPOT)陽性、HIV感染者、静注麻薬使用者、結核高度蔓延国(東南アジア・南アジア・アフリカなどの発展途上国)で出生またはそこからの5年以内の移住、医療が十分に受ける事が出来ない集団、リスクのある疾患がある(DM、ステロイド、免疫抑制薬、慢性腎不全、血液悪性腫瘍、癌、標準体重より10%体重が少ない、珪肺、胃切除後、空腸回腸バイパス)、リスクの高い場所の住民
(2)疑ったときの対応
1) 空気感染予防策を行う
- 患者さんにはサージカルマスクを着用してもらう
- 対応する医療従事者はN95マスクを着用する
- 陰圧室に隔離する。
※陰圧室がない場合は、一般個室で部屋を閉め切って対応する。一般個室の場合、結核疑い患者が使用した後4時間は使用しない(窓は換気のため開放)。
3) 検査4)
- 3回喀痰を採取して抗酸菌塗抹・培養・遺伝子検査(TB-PCR)を行う(PCRは1回でよい)
- 喀痰は8-24時間あけて採取し、3回中1回は早朝喀痰を採取する
- 3連痰の活動性肺結核に対する感度は約70%、特異度は90%以上
- 抗酸菌染色陰性で肺結核の除外はできないが、感染性のある肺結核の可能性は低くなる
- ツベルクリン反応とインターフェロンγ遊離試験(Interferon-Gamma Release Assay:IGRA、QFTとT-SPOT)は、活動性結核と潜在性結核を区別できない。また、活動性結核における感度は80%程度であるため、陰性であることをもって、除外することはできない。
4) 入院する場合
- 陰圧室に隔離して喀痰検査を行う
- 全身状態がよい場合には外来でフォローしながら喀痰検査を行う事も可能である。受診当日に外来で採痰ブースを使用して1回目の喀痰検査を行う。2、3回目の喀痰を提出するために容器を2つ渡し帰宅してもらう。自宅で、可能であれば朝起床時の喀痰をとってもらい、冷蔵庫に保管し、2日分まとめて持参してもらう。
- 喀出が困難な場合は超音波ネブライザーで、3%高張食塩水を30mL以上吸入して誘発する
(4)空気感染予防策の解除5, 6)
- 喀痰抗酸菌塗抹が3回陰性の場合、肺結核の可能性は否定できない(感度が約70%のため)が、肺結核としても感染性は十分低いと判断できるため、空気感染予防策を解除する。
- 喀痰抗酸菌塗抹が陽性の場合、遺伝子検査(PCR)の結果を確認し、結核菌でないことが確認できれば空気感染予防策を解除する。
- 肺結核と診断された場合は、治療を2週間以上施行、かつ、3連痰(24時間おき)陰性確認できれば空気感染予防策を解除する。
- 空気感染予防策の解除は、地域感染症疫学・予防センターの最終判断が必要である。
(5)参考文献
1) 厚生労働省ホームページ[最終アクセス2018.6.15]
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000175095.html
2) Chest 1998;94:316-20
3) Am J Respir Crit Care Med 2005;172:1169-1227
4) Clin Infect Dis 2017;64:e1-e33
5) MMWR 2005;54(No. RR-17):1-141
6) Tuberculosis transmission and control. UpToDate2018.
注意:上記を臨床現場に適応するは、担当医の責任のもと行ってください。
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育