抗真菌薬overview
抗真菌薬overview
★要点★
- 真菌は、酵母様真菌・糸状菌・二相性(形性)菌の3つに分類する
- 酵母様真菌はCandida属とCyropotococcus属が重要
- 糸状菌はAspergillus属と接合真菌が重要
- 抗真菌薬は、アゾール(FLCZ, ITCZ, VRCZ)、MCFG、L-AMBの5剤を覚える
- FLCZとMCFGはCandida用の抗真菌薬
- VRCZはAspergillus用の抗真菌薬
- L-AMBは主な真菌はほとんどカバーするが副作用が多い
- 腎機能で投与量調節が必要な薬剤は、FluconazoleとFlucytosineの2つ
★真菌の分類
- 酵母様真菌:Candida spp. Cryptococcus spp.
- 糸状菌:Aspergillus spp. Fusarium spp. Zygomycetes spp.
- 二相性(二形性)真菌:Coccidioides spp. Histoplasma capsulatum
★Candida属:侵襲性Candida感染症全体の90%以上は以下の5菌種
- C. albicans:最多、40-60%、FLCZで治療、薬剤耐性少
- C. parapsilosis:20%程度、MCFGの効果が低い可能性
- C. tropicalis:10%程度
- C. glabrata:20%、azoleの感受性が悪い、MCFGで治療
- C. krusei:2%程度、MCFGまたはL-AMBで治療
★抗真菌薬総論
- アゾール:FLCZ、ITCZ、VRCZ、(posaconazole)
副作用:QT延長、眼症状(羞明、霧視、色覚障害)、肝機能障害
薬物相互作用が多い - エキノキャンディン:MCFG、Caspofungin
- ポリエン:アムホテシリンB脂質製剤(L-AMB)
- フルシトシン(5-FC)
★抗真菌薬各論
①フルコナゾール(FLCZ)
- Candida albicansなどのCandida用の抗真菌薬
- C. glabrataとC. kruseiには効果が期待できない
→ICUや血液内科病棟における経験的治療には使用しにくい - クリプトコッカスに効果あり(consolidation therapy, maintenance therapy)
- 通常投与量:LD 800mg/日(12mg/kg)、MD 400mg(6mg/kg)/日
- 内服薬と静注薬がある、bioavailabilityは良好(約90%)→oral switchできる
- Candida血症で、臨床的に安定、FLCZ感受性、血液培養陰性確認後に内服に変更検討
- 腎機能で投与量調整が必要
- 薬物相互作用に注意
- 各臓器への移行性は良好(中枢神経・眼内・唾液・尿路移行性良好)
- 侵襲性Candida症の予防(400mg/日):同種移植、AML/MDSの寛解導入療法
②イトラコナゾール(ITCZ)
- 使用方法
- 侵襲性Candida症に使用することはない
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
- Histoplasma症などの二形性真菌感染症 - 経口薬のみ
- 液剤(oral solution)は、カプセルよりも吸収がよい(胃のpHと関係なし)
- カプセル製剤は、H2RAとPPIで吸収低下、酸性の飲料(コーラ)は吸収促進
- 投与量:200-400 mg/日→「1回200mg 1日1回」 or 「1回200mg 1日2回」
- 液剤は空腹時、カプセル製剤は食事・酢・コーラとともに
- 腎機能によって投与量調整不要
- 副作用:消化器症状が最多
③ボリコナゾール(VRCZ)
- 肺アスペルギルス症(特に、侵襲性肺アスペルギルス症)の第1選択
- Candida:FLCZより優れた点はほとんどないため、通常使用しない
- C. krusei、または、VRCZ感受性のC. glabrataの場合に使用検討可能
- C. glabrataに対してFLCZとのcross-resistanceあり - Fusarium属(L-AMB耐性)にも効果がある
- 副作用:肝障害、一過性視野障害(blurred vision)に注意
- 点滴製剤は、腎不全(CCr≦30-50)では使用できない→内服薬を使用する
(添加物サイクロデキストリンの蓄積による腎障害が問題となる)
※CKD患者で、VRCZの使用が腎障害と関連がなかったというretrospective報告はある - 腎機能によって投与量の調整は不要
- 食事によって吸収が低下するため、空腹時に内服する
- 投与量:初日400 mg(6 mg/kg) 1日2回
翌日から200-300 mg(3-4 mg/kg)1日2回 - TDM必要:1-2 μg/mL以上、4-5 μg/mL以上で肝障害に注意
日本人の20%がpoor metabolizerである - Candida尿路感染症には使用できない(活性のある状態で尿中に排泄されない)
④ミカファンギン(MCFG)、(caspofungin)
- エキノキャンディン系はどれも同等と考えてよい(MCFG, caspofungin)
- CandidaとAspergillusをカバーする
- 基本的にCandida用の抗真菌薬
- 侵襲性アスペルギルス症には単剤で使用しない(VRCZとの併用治療を行うことがある)
- 慢性進行性肺アスペルギルス症で使用される - C. parapsilosisに活性が低下している可能性がある
- C. guilliermondiiで耐性多い(FLCZとエキノキャンディンに耐性のことが多い)
- Candida眼内炎には使用は推奨されない(脈絡網膜炎には使用可能かもしれない)
硝子体移行性が悪いため、硝子体浸潤を呈する眼内炎には適応はない - Candida尿路感染症には通常使用しない(移行性が悪く臨床データが少ない)
- クリプトコッカス、トリコスポロン、フサリウム、ムーコルに効果がない
- 投与量:100-150mg/日(予防の場合:50-100mg/日) 1日1回投与
- 副作用:少ない、肝障害、血栓性静脈炎、頭痛、薬物相互作用少ない
- 点滴製剤のみ
⑤アムホテシリンB脂質製剤(liposomal amphotericin B:L-AMB)
- Candida、アスペルギルス、クリプトコッカス、接合菌に効果がある
- もっともスペクトラムが広い(効果が期待できない真菌を覚える)
- Candida lusitaniae、Fusarium spp.、Aspergillus terreusで耐性
- 腎機能によって投与量の調整は不要
- 腎毒性はあるが、腎機能の変化によって排泄速度は変わらない
- クリプトコッカス髄膜炎のinduction therapyで使用される
- もともとのアムホテシリンBデオキシコール酸塩の副作用を減らした(発熱は同等、悪寒は減少、腎毒性減少)
- AMBの副作用
発熱と悪寒(投与開始1-3時間)、静脈炎
腎毒性:血管収縮による腎血流低下、尿細管障害、低K、低Mg、尿細管アシドーシス - 欠点:高価、副作用
- 投与量:3-5mg/kg 24時間おき(2時間で投与)
⑥フルシトシン
- 使用する状況
- クリプトコッカス髄膜炎にL-AMBと併用して使用する
- CandidaのCNS感染・眼内炎で、L-AMBと併用を考慮する
- CandidaのIEで、L-AMBと併用を考慮する
- 単剤で使用しない(耐性が生じやすい) - 投与量;25mg/kgを1日4回(腎機能によって投与量調整が必要)
- 移行性:中枢神経系・眼で良好
- 内服薬のみ
- 副作用:骨髄抑制・肝炎(濃度依存性)
- TDM(日本では現実的ではない):peak < 100 mg/L
★Candida血症の診断と治療
(1)診断
- 血液培養(侵襲性Candida症の診断は、無菌検体からの検出)
- 血液培養陽性までの中央値は2-3日
- 補助的な検査:抗原、抗体、βDグルカン、PCR
- βDグルカン:Candida spp.、Aspergillus spp.、Pneumocystis jiroveciiなど(偽陽性が問題:細菌感染症、透析、真菌の定着、alb・グロブリン製剤、ガーゼ)
(2)治療
- ・早急に抗真菌薬を開始、source controlも重要
- ・初期治療は、MCFG(>L-AMB)が選択される
- 検討事項:最近の抗真菌薬使用、副作用歴、施設のCandida感受性パターン、重症度、併存症、CNS合併症・IE・内臓合併症の有無
- 非好中球減少患者と好中球減少患者いずれにおいても1st choiceはMCFG
- FLCZは、C. glabrataの一部とすべてのC. kruseiで耐性
- エキノキャンディン系は、それぞれの比較試験はないが、同等と考えられている
- L-AMBを使用する場合は、3-5 mg/kg q24hで使用する
- 血液や臨床的に有意な検体から検出されたCandida属の感受性試験は推奨される - source control:CVC抜去する(血液悪性腫瘍患者の場合は、case-by-case)。血液悪性腫瘍患者では腸管entryが多いため、全例でCVC抜去が必要とは限らない。
- 治療期間:血液培養陰性確認から14日以上、かつ、臨床症状改善。好中球減少患者の場合は、好中球回復までは継続する。
- 眼内炎の治療期間:最低4-6週間
- 内服薬へのstep down
IDSA2016:臨床状態が安定し、血液培養陰性化した後(通常は5-7日)
ESCMID2012:最低10日間は点滴治療
(3)f/u方法
- 血液培養を1-2日に1回は採取する(ESCMID2012では1日1回と記載)
- 血液培養が持続した場合:膿瘍とIEなどを考慮する
- 眼底検査を行う(眼内炎は、C. albicansが起こしやすい)
- 診断から1週間以内に行う
- 好中球減少患者の場合、好中球が回復してから1週間以内の時点で行う
- 初回正常時は1週間あけて再検することを考慮する
→脈絡網膜炎(眼内炎)があれば、眼底所見改善まで(4-6週間以上)
この場合、MCFGは通常使用しない
※ESCMID2012:眼内炎を脈絡網膜炎と硝子体浸潤に分類
(4)予後
- 非好中球減少患者における死亡率10-20%
- ICUセッティングの死亡率:30-40%、
- 予後改善のためには、早期の抗真菌薬の開始とsource controlが重要
★補足:Candida症発症予防
- 肝移植、膵臓移植、小腸移植の術後にFLCZ 200-400mg/日
- AML/MDSの導入化学療法と造血幹細胞移植で、好中球減少の期間にFLCZ 400mg/日(代替薬:MCFG 50mg/日など)
- 無症候性カンジダ尿症の治療対象
- 新生児(1500g未満)と好中球減少者
→カンジダ血症に準じて治療
- 尿路処置予定患者:処置前後数日間FLCZ 400mg PO
★補足:Candida感染とバイオフィルム
- IDSA guideline 2009は言及なし
- IDSA guideline 2016にはp. 28(IEの項目)に少し記載あり
- ESCMID2012ガイドラインは言及あり
- 抗バイオフィルム活性:エキノキャンディン系とL-AMB
- FLCZとアムホテリシンBデオキシコール酸は活性が低下する
- CVC抜去できない場合のCRBSI、人工弁のIE
★参考文献
- レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院
- 微生物プラチナアトラス, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2018
- サンフォード感染症治療ガイド, 2018
- Clin Infect Dis 2016;62(4):e1-e50(最新のIDSAのカンジダ症診療ガイドライン)
- Treatment of candidemia and invasive candidiasis in adults. UpToDate2018
- Clin Infect Dis 2009; 48:503-35(2009年のIDSAのカンジダ診療ガイドライン)
- Clin Infect Dis 2011;52:e56-93(IDSAのFN診療ガイドライン)
- NCCN clinical practice guideline in oncology: Prevention and treatment of cancer-related infection (Version 1.2018)
...........................................................
注意:上記を臨床現場に適応するは、担当医の責任のもと行ってください。
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育