microbiology round
あけましておめでとうございます。
2024年はお世話になりました。2025年も宜しくお願いします。
2025年最初にMicrobiology Roundで取り上げるテーマはAspergillus fumigatusです。ポイントは下記です。
- Aspergillus fumigatusは、Aspergillus 属の中で侵襲性感染症を引き起こす最も一般的な種である。
- A. fumigatusは、通常3日以内で発育し培地上でベルベット状または粉状のジャイアントコロニーを形成する。コロニーは発育初期に白色、後に暗緑色~灰色と変化し、裏面は白色~黄褐色を呈する。
- A. fumigatusは、分生子柄の先端が肥大した頂嚢から長円形の細胞(メツラ)が出芽により生じ、更にその先端からもう一段長円形の細胞(フィアライド)が生じ、その先端から球形の分生子が形成されるが、これらの形成様式が菌種によって異なるため鑑別の際に利用される。
- Aspergillus 属菌は、宿主の免疫状態に応じて広範囲の疾患を引き起こすが、大まかに免疫正常者におけるアスペルギルス症、アトピー性患者のアスペルギルス症、免疫不全者の侵襲性肺アスペルギルス症、の3つのグループに分類できる。
- 免疫正常者におけるアスペルギルス症は、真菌球(アスペルギローマ)の発生から、慢性化した慢性肺アスペルギルス症まで重複した特徴をもつ慢性非侵襲性感染形態を引き起こすことがある。
- アトピー性患者のアスペルギルス症で最も重篤な形態は、A. fumigatusのアレルゲンに感作後に発症するアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)である。
- 免疫不全者の侵襲性肺アスペルギルス症は、重度の免疫不全患者における感染による主な死因となっており、特に急性白血病患者や造血幹細胞移植(HSCT)のレシピエントでは死亡率が高い。加えて、基礎疾患、加齢、また新しい生物学的治療を含む免疫抑制療法などにより、従来はリスクが低いと考えられていた患者でも免疫代謝異常を呈することでIPAを発症することがある。
【歴史・微生物学的特徴】
細菌名:Aspergillus fumigatus
Aspergillus:キリスト教の聖水散布式に使われる水を振りかける用器に似ていることから
fumigatus:ラテン語の「fumigave」に由来し、煙のような青灰色の菌糸から
アスペルギルス属は1729年にフィレンツェのMicheliによって発見された。現在は分子技術の進化に伴い、8つの亜種(Aspergillus、Fumigati、Circumdati、Terrei、Nidulante、Warcupi、Ornati)に250種以上が報告されている。侵襲性感染症を引き起こす最も一般的な種はAspergillus fumigatusであり、他にはA. flavus、A. terreus、A. nigerが続く1)。土壌中の腐敗した有機物上に発育する腐生性真菌として存在し、死亡した有機物を消化する。過去は無性生殖のみで繁殖すると考えられていたが、現在では有性生殖も行っているとされる。分生子の頭部ごとに数千個の分生子が生成され、空気中に放出される。分生子の直径は2-3μmで、そのために肺胞まで到達できる。空気中に胞子が浮遊する環境真菌であり,人間は1日あたり少なくとも数百個のA. fumigatus分生子を吸入するため、ほとんどの患者では肺に疾患を起こすが、最も重篤なリスクを有している患者ではあらゆる臓器に播種する。加えて、病院の空調やシャワー吹き出し口などにも定着しており、潜在的な集団伝搬を起こすことがある。様々な培地・37℃で増殖でき、A. fumigatusは50℃でも増殖できる。最初は小さくふわふわした白いコロニーを48時間以内に認める。
【検査】
糸状菌検査は一般細菌検査と比べ、検体量が必要である点、発育に時間のかかる点、手技が煩雑である点など、難易度が高い検査である。また、糸状菌の菌種同定は肉眼的観察と鏡検によって形態学的に同定を行うため、知識と経験が必要とされる。糸状菌の培養は雑菌の発育を防ぎ、糸状菌を分離しやすくするために専用の培地を用いて行う。当検査室では、日常検査で以下の培地を使用している。
<検査に用いる培地>
・クロマイ加サブローデキストロース斜面培地(SDA培地)
真菌の発育に必要なブドウ糖に加え、クロラムフェニコール(CP)の添加により、真菌以外の発育を抑制する。試験管内に斜面をつくるように固めた固形培地で、表面積が広いことが特徴である。また、キャップが付いているため、外部からの雑菌の混入と胞子の飛散を防ぐことができる。
・ポテトデキストロースCP培地(PDA-CP培地)
SDA培地同様、CPの添加により、真菌以外の発育を抑制する。本培地は、色素産生能が良好で分子形成が早く、糸状菌の典型的な形態が形成されるため糸状菌の同定検査に適している。
<分離培養>
検体をSDA培地に塗布し、37℃で2日間、室温で12日間の計14日間培養し、その間、毎日観察を行う。SDA培地に糸状菌の発育が認められた場合(図3)、コロニーの形態観察のため、1つの大きなコロニー(ジャイアントコロニー)を作成する。当検査室では発育菌をPDA-CP培地に分離し、発育させたジャイアントコロニーを肉眼的に観察する。発育した糸状菌を取り扱う際は分生子が飛散しやすく、空中を長期間漂うため、糸状菌は必ず安全キャビネット内で扱い、コンタミネーションに注意する必要がある。
<コロニー性状>
本菌は通常3日以内で発育し、PDA-CP培地上でベルベット状または粉状のジャイアントコロニーを形成する。表面の色調は発育初期に白色、後に暗緑色~灰色と変化し、裏面は白色~黄褐色を呈する。比較のためにA. niger、A. flavusの3菌種を37℃で3日間培養したジャイアントコロニーを示す。A. nigerはビロード状~綿毛状の黄色~褐色のコロニーを形成し、裏面は白色~黄色を呈する。A. flavusはベルベット状の黄色~緑色のコロニーを形成し、裏面は黄褐色~赤褐色を呈する(図4-6)。
<Aspergillus属の鑑別>
本菌の顕微鏡所見と、比較のためにA. niger、A. flavusの顕微鏡所見をそれぞれ図に示す。本菌は、分生子柄の表面が平滑であり、フラスコ状の頂嚢の上部1/2~2/3の部分6~8個の2~3μmの大きさの緑がかったメツラとフィアライドが密生している。本菌の分生子は直径2.5~3μmの緑色を特徴とし、フィアライドから基弁状に連鎖して生じる(図8)。A. nigerは、大きな球形の頂嚢を生じ、フィアライドが複列で頂嚢全体を覆うことが特徴であり、本菌と鑑別できる。A. flavusは、亜球形~フラスコ状の頂嚢やフィアライドの位置が本菌と似た特徴示す。しかし、本菌と比べ分生子柄の表面が粗ぞうである点や分生子の大きさが3.0~6.0μmである点で鑑別が可能である(図8-10)。
※参考文献やホームページ
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 257, 3103-3116.e5
教育シリーズ Basic mycology(1)アスペルギルス属.Med Mycol J 2011;52:193–197 矢口貴志
Pathogenesis of Aspergillus fumigatus in Invasive Aspergillosis. Clin Microbiol Rev. 2009 Jul;22(3):447-65.
植物防疫基礎講座 土壌病原菌の分離法 農林省農業技術研究所 生越 明
CLSI M61 Performance Standards for Antifungal Susceptibility Testing of Filamentous Fungi
臨床検査学講座 臨床微生物学 松本哲哉
千葉大学真菌医学研究センター(http://www.pf.chiba-u.ac.jp/gallery/index.html)
Aspergillus fumigatus and Aspergillosis in 2019. Clin Microbiol Rev. 2019 Nov 13;33(1):e00140-18.
Aspergillus fumigatus and aspergillosis. Clin Microbiol Rev. 1999 Apr;12(2):310-50.
Aspergillus Infections. N Engl J Med. 2021 Oct 14;385(16):1496-1509.
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育