microbiology round
11月が学会シーズンだったため、久しぶりの開催となった2023.11.30のMicrobiology roundでは身近に潜み、恐ろしい感染症を引き起こすLegionella pneumophilaについて学びを深めました。Legionellaは主に水が関わる所に潜んでいる可能性があります。それが病院でもです。比較的稀な疾患で入院患者の発熱の原因として挙げられるか自信はありませんが、知っているかどうかは大きな差です。では卒業間近のフェローが作成したまとめです。培地のシャーレを開けると生乾きの匂いがして、コロニーは培地に牛乳をこぼしたように見えます。
【微生物学的特徴】
Legionella 属菌は、偏性好気性の小型のGram陰性桿菌で、発育には特殊な培地を必要とする(後述)。淡水(河川や湖)、沿岸の海水などの5-50℃範囲の自然の水環境に生息している。特に温かい水温(25-40℃)が発育に最も適しており、自然界だけではなく、人工水系では、クーリングタワーの冷却水、温泉、24時間循環式風呂、または人工呼吸器やネブライザーも感染源となる。水以外の環境では土壌にも生息している。
Legionella という属名は、初めて確認されたこの微生物による感染のアウトブレイクが、1976年にフィラデルフィアのBellevue Stratford Hotelで開催された米国在郷軍人会(American Legion)の会員に生じたことに由来している。pneumophila (肺を好む)は、初めて分離株に対して命名された種名である。現在では60以上の種と70以上の血清型のLegionella 属菌が報告され、その約半数でヒトへの病原性が確認されている。Legionella pneumophila 血清型1が最も流行しており、レジオネラ症の65-90%の原因を占める。L. longbeachae がヒトで2番目に多い起因菌であり、他にL. micdadei、L. bozemanii、L. feeleii、L. anisa、およびL. dumoffii がヒトへの感染が報告されている。ただし、地域によってその分布は異なる。日本におけるレジオネラ肺炎では、L. pneumophila 血清型1の占める割合は8割程度である。また、ニュージランドやオーストラリアではL. longbeachae が症例の多くを占める。
【臨床的特徴】
Legionella pneumophila を代表とするLegionella 属菌が引き起こすレジオネラ症(legionellosis)は、重篤な肺炎と、一過性のポンティアック熱(Pontiac fever)の2つに分けられる。ポンティアック熱はLegionella 属菌のリポ多糖を吸入することで生じると考えられている。症状はインフルエンザ様の全身症状で軽症なことが多い。ポンティアック熱は典型的にはアウトブレイク時に発生し、環境がLegionella 属菌に汚染されていることを意味する。Legionella 属菌による感染症として、最も頻度の高い臨床像は肺炎である。水や土壌に由来するエアロゾルの吸入で感染する。市中発症であれば、散発例あるいはアウトブレイク例として起こり、また院内肺炎としても生じることがある。ほとんどの症例は夏〜初秋に発生するが、通年発生する可能性がある。潜伏期間はおよそ2~14日で、前駆症状として、頭痛、筋肉痛、疲労、食欲不振が出現することがある。バイタルサインでは発熱が一部の免疫不全患者を除いて通常見られ、比較的徐脈(発熱に比較し脈拍の上昇が少ない状態)が特徴的である。また肺外症状を伴うことも特徴的で、消化器症状(腹痛、嘔気嘔吐、下痢)や神経症状(意識障害、頭痛、痙攣、神経巣症状)がある。胸膜炎による胸痛を伴うこともある。稀ではあるが、感染性心内膜炎(通常は人工弁)が報告されている。
【診断】
肺炎(中等症以上)のある患者、特にICU入室を必要とするような重症肺炎の症例で疑う。一般的には市中肺炎だが、院内肺炎のこともある。肺炎のアウトブレイクが発生した場合にはレジオネラ肺炎を考慮する。
診断は、レジオネラ尿中抗原、核酸増幅検査、喀痰培養で行う。なかでも、尿中レジオネラ抗原が最も一般的に使用されている。以前はL. pneumophila血清型1しか検出できず、感度が低い(感度80%、特異度90%)ため、検査陰性であっても可能性を除外できない問題があったが、現在はL. pneumophila血清型1-15を検出できるキットが使用されている。核酸増幅検査としては、2011年から喀痰を用いたLAMP法(Loop-mediated isothermal amplification法遺伝子検査)が保険適応となった。臨床的に重要となるLegionella 属の多くの菌種ならびに血清型の検出が可能である。感度・特異度ともに高く、診断精度は高いが、死菌と生菌を区別できない問題がある。また当院では外注検査で検査に時間がかかる。培養検査は診断のGold Standardとされているが、通常の培地には発育できないため、BCYEα培地(Buffered charcoal-yeast extract agar with 0.1% α-ketoglutalate)、または抗菌薬含有のBCYEα培地(WYO培地、MWY培地)を用いる。これらの培地にはレジオネラの増殖に不可欠な鉄とL-システインを豊富に含んでいる。これらの培地は通常の喀痰培養検査でルーティーンに使用されるわけではないため、微生物検査室にLegionella肺炎を疑っていることを伝える必要がある。また、喀痰培養の感度は20-80%と報告されている。これは喀痰の質や培養の難しさ(Legionella 属菌は呼吸器分泌物中で長期間生存しないため、呼吸器検体は迅速な処理が必要)が影響している。
胸部CTでは非区域性に進展する浸潤影(consolidation)とその周囲のすりガラス影が特徴的で、胸水をしばしば伴う。
【治療】
ポンティアック熱は一般的にself-limited infection(自然に良くなる病気)で、抗菌薬は不要である。
Legionella 属菌は細胞内寄生菌であり、宿主細胞内へと浸透する抗菌薬を使用する。βラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬は例えin vitroで活性があっても無効である。ほとんどのマクロライド、キノロン系、テトラサイクリン系抗菌薬が有効である。このうち、殺菌性があり、細胞内濃度が高く、また肺組織にも浸透するレボフロキサシンかアジスロマイシンが第一選択である。レボフロキサシンとアジスロマイシンの治療成績を比較した前向きRCTはない。代替薬としては、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン、クラリスロマイシン、ドキシサイクリンなどがある。重症感染症におけるキノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用、もしくはキノロン系抗菌薬やマクロライド系抗菌薬にリファンピシンの併用に十分なエビデンスはない。L. longbeachae には耐性菌が多く、一般的にテトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリンなど)は使用しない。治療期間は7〜10日間程度が一般的である。ただし、重症患者、免疫不全患者、肺外感染症ある患者では治療期間を延長することがある。ヒト-ヒト感染は極めて稀とされており、隔離は不要である。
●参考文献
1. MANDELL 8th Edition- Principles and Practice of Infectious Diseases. p2807-2817.e5
2. Clinical Infectious Disease. 2nd edition.
3. Johns Hopkins ABX Guide Legionella species.
4. UpToDate, "Microbiology, epidemiology, and pathogenesis of Legionella infection", "Clinical manifestations and diagnosis of Legionella infection" and "Treatment and prevention of Legionella infection".
5. Legionnaires' disease. Burke A Cunha, et al. Lancet. 2016 Jan 23;387(10016):376-385.
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育