microbiology round

亀田総合病院の病院前には青い海が広がります。そんな環境ですので海に関連した感染症をちょくちょく経験します。2023.11.2のMicrobiology roundでは海のネジネジと勝手に呼んでいるThalassospiraについて学びを深めました。
海水暴露歴のある方から採取された血液培養から、らせん状のグラム陰性桿菌が発育し、Thalassospira菌血症と判明した症例です。MALDI-TOF MSでは同定できず、16S rRNA遺伝子検査でThalassospira sp.と同定されました。

【概要】
Thalassospiraceae科Thalassospira属
Thalasso:Thalassa ギリシャ語で「海」
spira:ギリシャ語のspeyraからで「らせん状」(spiralの語源)
→Thalassospiraは「海に生息するらせん状の生物」を意味する。
Thalassospiraは2002年に海洋細菌属として初めて報告された。
グラム陰性、オキシダーゼ陽性、移動性、湾曲またはらせん状の細菌で、海水中に生息する。

【特徴】
Mandellには記載が無いため、Thalassospiraによる感染症の報告をPubMedで”Thalassospira”を検索すると、Thalassospira speciesに起因するヒト感染症は3例あり。
①2019年イタリア。75歳男性。海で溺水後に発熱・意識変容、髄液検体から菌発育。髄膜炎疑い。
②2021年フランス領ポリネシア諸島。53歳男性、漁師。IE。血液培養陰性。大動脈弁の培養から菌発育。
③2022年日本。2日前に海で泳いだ65歳男性の発熱、血液培養で菌発育。Primary bacteremia。
いずれのケースも発症前に海洋環境への曝露あり、16S rRNA遺伝子検査で同定されている。

【治療】
過去のcase reportでは
①T. profundimarisの症例はCPFX,IMP,MEPM,PIPC/TAZに感性あり。AMK(MIC<0.06mg/L)CTRX(MIC:0.25mg/L)。
CAZ(MIC:>32mg/L)、AZT(MIC:>32mg/L)で耐性であったとのこと。
②T. povalilytica症例、ペニシリン系抗菌薬に感性で、検出可能なβ-ラクタマーゼの産生はなし。他にはカルバペネム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系、STに感性であったが、セファゾリンには耐性であった。
③T. povalilytica症例、ペニシリンをはじめ各抗菌薬に広く感性あり。

【参考文献】
1) J Syst Evol Microbiol. 2002 Jul;52(Pt 4):1277-83. doi: 10.1099/00207713-52-4-1277. PMID: 12148640.
2) case①Clin Microbiol Infect. 2019 Sep;25(9):1162-1163. doi: 10.1016/j.cmi.2019.05.023. Epub 2019 Jun 3. PMID: 31170455.
3) case②IDCases. 2021 Apr 2;24:e01109. doi: 10.1016/j.idcr.2021.e01109. PMID: 33948436; PMCID: PMC8080455.
4) case③Annals of Internal Medicine: Clinical Cases 1.8 (2022): e220403.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育