microbiology round

本日のmicrobiology roundではStreptococcus gallolyticusについて取り上げました。

■症例
80代の男性が悪寒戦慄を伴う発熱で救急外来受診した。AST、ALT上昇、血小板低値を認め急性胆管炎疑いでピペラシリン・タゾバクタムが開始となったが、施行された造影CT検査、MRCP検査では胆管拡張、胆管内結石を認めず、急性胆管炎の可能性は低いと考えられた。入院時の血液培養2セッㇳ中2セットからE. coli、Streptococcus gallolyticusが検出されたためアンピシリン・スルバクタムに変更した。Streptococcus gallolyticusの亜種の同定は困難であった。入院3日目に施行された下部消化管内視鏡検査では回腸末端に易出血性の粗造粘膜を認めエントリーと考えられた。病理所見からは形質細胞主体の炎症反応浸潤を認めたものの、悪性所見は認めなかった。S状結腸に最大径4mmの腺腫(肉眼型Ⅱa)を3か所認めポリペクトミーが施行された。内視鏡所見からは回腸末端もしくは結腸腺腫がエントリーと考えられ、感染性心内膜炎を疑う所見に乏しかったことから、抗菌薬は合計2週間投与し自宅退院となった。

■名前の由来、歴史
菌名由来:Streptococcus→streptus=連鎖状 coccus=球菌 gallolyticus→gallate(没食子酸)を消化
レンサ球菌は、溶血性(α, β, γ)に基づく分類やLancefieldによる血清型分類(A, B, C, D, E, F, Gなど)に加えて生化学的な性状による分類もある。このためStreptococcusの分類は歴史的に混沌として悩ましい状況であった。その後、微生物分類に遺伝子解析が一般的に用いられるようになった。Lactococcus, Enterococcus, Gemella, Abiotrophia, Granulicatellaは新しい属として レンサ球菌属から独立し、残ったレンサ球菌は 16S rRNA gene 配列により6つのグループ(pyogenic, mitis, nginosus, mutans, bovis, salivarius) に分類された。
S. bovisのグループにはLancefield D群の抗原をもつが6.5%NaClの存在下では発育しない菌が属することになった。S. bovis グループの細菌はEnterococcus属に移籍されなかった、いわゆる “non enteric group D streptococci"から構成されている。さらにS. bovis グループはDNAの相動性によってDNA group1-6に分類され、S. gallolyticusはgroup2に属する。

■微生物学的特徴
Streptococcus gallolyticusはグラム陽性連鎖球菌で、コロニーはα溶血またはγ溶血を示す。Enterococcus属と同じLancefield D群に属しており、コロニー性状や生化学的性状も類似しているがPYR試験や6.5%NaClでの発育の有無(S. bovis groupはともに陰性)を確認することで鑑別可能である。MALDI Biotyperでは亜種までの同定はできないため、当院ではrapid ID32 STREP(ビオメリュー・ジャパン)で生化学的性状を確認し、亜種までを報告している(S. gallolyticus subsp. macedonicusは rapid ID32 STREPに登録されていない)。

■臨床像
S. gallolyticusは腸管内の常在菌で、ヒトの腸管における保有率は2.5-15%と報告されている。髄膜炎、感染性心内膜炎、大腸癌などの病態と密接な関係があるとされる。心内膜炎の症例の約7%、連鎖球菌による心内膜炎の約20%を引き起こすと推定されている。
<S. gallolyticus subs. gallolyticus>
感染性心内膜炎や大腸がんとの関連が特に多く、主に早期の腺腫に関連している。コラーゲンの多い表面にバイオフィルムを形成し、大腸癌の組織に定着しやすく、癌で新生された血管にも結合できるので、血中に侵入する機会が多くなり、菌血症の頻度が増加するため、感染性心内膜炎や髄膜炎へと進展する可能性が高くなるのではないかと推察されている。
さらにS. gallolyticusの菌体成分がIL-8やCOX-2(シクロオキシゲナーゼ)の産生を増加させることによって大腸粘膜での発がんに関連しているとの報告がある。COX-2はPGE2(プロスタグランジン)の産生、細胞の増殖、アポトーシスの抑制を介して前がん病変から癌を誘導している。
NF-kBという転写因子(遺伝子の発現を調節する細胞内の蛋白)を誘導することによって大腸腺腫を大腸がんへと促進するとの報告もある。
<S. gallolyticus subsp. pasteurianus>
消化管悪性腫瘍や胆道疾患との関連も指摘されるが、結腸悪性腫瘍の頻度はS. gallolyticus subs. gallolyticusよりも低い。結腸悪性腫瘍に関しての頻度は一般人口と変わらないという報告もある。肝胆道系由来の菌血症の報告が多い。高齢者や妊婦、新生児などの免疫不全者に多い傾向にあり、近年 新生児および乳児の菌血症、髄膜炎の報告が増えている。

■感受性、治療
薬剤感受性は基本的に良好。ペニシリンが第一選択。セフトリアキソンも使用できる。βラクタムアレルギーの際はバンコマイシン。S. gallolyticus group には、高レベルのバンコマイシン耐性をもたらす vanB 遺伝子をもつものが確認されている。

■参考文献
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 200, 2492-2504.e4
LPSN(https://lpsn.dsmz.de/species/streptococcus-gallolyticus)
大楠清文:いま知りたい臨床微生物検査 実践ガイド珍しい細菌の同定・遺伝検査・質量分析
小栗豊子:臨床微生物検査ハンドブック第5版
松本哲哉:臨床微生物学 最新臨床検査室口座

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育