microbiology round

6/1のmicrobiology roundはBacillus subtilisについて取り上げました。
68歳女性の虫垂炎の症例です。下腹部痛を認めCTが思考され虫垂石と虫垂腫大を認め虫垂炎と診断されました。市中発症の単純性腹腔内感染症としてPEK、ある程度のBacteroidesまでのカバーとしてセフメタゾールで治療が開始されました。採取された血液培養から2セット中2セット好気ボトルのみB. subtilis、嫌気ボトル2本よりBacteroides sppを認めました。

■名前の由来、歴史
Bacillusが小さな棒、subtilisが細い
1835年に発見され、1872年にB. subtilisと学名登録がされました。
枯れた草の表面などから分離されることが多いため、和名で枯草菌と呼ばれます。

■微生物学的特徴
Bacillus属は棒状で末端が四角い偏性好気性または通性嫌気性Gram陽性桿菌で、中央に芽胞を形成します。
Bacillus subtilisは偏性好気性菌です。
ヒトに病原性を示すのはB. anthracis、B. cereusがあります。
Bacillus属の菌は芽胞を形成するため熱、乾燥、消毒薬に対する抵抗性が強いです。
ヒツジ血液寒天培地におけるB. subtilisのコロニーはざらざらして灰色、不透明に見え、乾燥した粘着性のある縮毛状のコロニーを示します。
B. subtilisは偏性好気性のため、HK半流動培地に接種すると上端のみ発育が見られ、血液培養は好機ボトルしか発育しないです。一方、B. cereusは通性嫌気性のためHK半流動培地では全体に発育が見られ、血液培養は好気、嫌気ボトル両方から発育が見られます。

■臨床像
Bacillus属は芽胞を形成するために環境中に長期間生存することができます。土壌や水中など自然界に広く分布しています。
ヒトの消化管内にも分布しており、健康な無症状者の便にも0-43%で認められます。
基本的に感染症を起こすことは少なく、臨床検体から分離されるときはコンタミネーションの可能性が高いです。
髄膜炎、中耳炎、乳突蜂巣炎、創傷感染症、菌血症、肺炎、感染性心内膜炎、シャント感染、食中毒の報告があります。
国内でB. subtilis菌血症10例について検討された論文では、侵入門戸として消化管穿孔やイレウスを生じて腸管粘膜から菌血症がおきると考えられています。
本論文における真の菌血症は12.5%でした。
kansenshogaku Zasshi. 2017 Mar;91(2):151-154

■感受性、治療
ほとんどのBacillus属はバンコマイシン、クリンダマイシン、フルオロキノロン、アミノグリコシド、カルバペネム、ときにペニシリン、セファロスポリンに感性です。
ただし、B. cereusはカルバペネム以外のすべてのβラクタム系抗菌薬に耐性を示すことが多いです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育