KIND(亀田感染症セミナー)2022 質疑応答

頂いたご質問に対しての、回答になります。
たくさんのご質問を頂きありがとうございました。回答掲載が遅れてしまい申し訳ございませんでした。ご参考にして頂けましたら幸いです。

講義1. 感染症診療の大原則 
Q: 問診時に、closedな問診を連続して聞くのか?
A: 連続して聞きます。患者さんが「なんでそんなこと聞くのか?」と思っているかもしれないが、会話の中で連続して聞いてしまいます。

講義2. 市中肺炎
Q: キノロンを使用しないのは結核を意識して使用しないのか?
A: 結核の診断が遅れてしまうこと、副作用や薬物相互作用が多いことが使用しない理由です。また、抗菌薬使用の大原則で、β-ラクタム薬が使用できるときはβ-ラクタム薬から使うという原則があります。β-ラクタム薬がもっとも作用と副作用のバランスが良く効果が高く安全であるからです。キノロンなどの薬剤はβ-ラクタム薬が使用できない時に限って使うことがポイントです。

Q: マイコプラズマ肺炎を疑ったときのペア血清とLAMPの感度、臨床使用についての考え方?
A: マイコプラズマ肺炎の診断のgold standardを何にするかで感度特異度は変わってしまいますが、感染症の教科書のMandelの記載や過去の研究からは、感度特異度ともに同程度もしくはそれ以上にLAMP法検査が優れていると思われます。臨床の現場では迅速性という点で圧倒的にLAMP法検査が有用です。
ペア血清とLAMP法では検査の特性が違います。
ペア血清では治癒後2週間たってからの採血結果で判定されるので、後から振り返っての診断しかできません。疫学的な調査を目的とした場合は有用ですが、臨床的に診断を治療に結び付けることはできないので、治療方針を決めるためには役に立ちません。LAMP法は院内で行うことができればその日のうちに診断ができますので、治療方針を立てるための検査として有用です。

文献
http://www.chiringi.or.jp/camt/wp-content/uploads/2013/07/f371258ab9458cafeeeb96fa584681f9.pdf
https://www.jscm.org/journal/full/02302/023020087.pdf
https://www.uptodate.com/contents/mycoplasma-pneumoniae-infection-in-adults

Q: 外来診療では肺炎球菌カバーのモキシフロキサシンが処方される事があるが、結核マスクや耐性菌の問題で避けるべきか?
A: その通りです。モキシフロキサシンは今後の耐性結核のキードラックであったり、嫌気性菌カバーを持っていたりと非常にマルチに働いてくれますが、ここぞという時に使う抗菌薬です。また、β-ラクタム薬が使えるときはβ-ラクタム薬から使います。

Q: 喀痰の質が悪いときに取り直すのか?MRSAが繰り返し喀痰から出るときの考え方は?
A: 喀痰の質が悪いときは取り直します。喀痰の再提出のために抗菌薬投与を待つ必要はないですが、良質な喀痰を採取しようとする努力が大事です。MRSAは通常の市中肺炎の起炎菌にはなりませんが、患者背景が大事です。一番有名なのがインフルエンザ後ですが、肺の構造異常と気管支閉塞がある患者で考慮します。そこでも喀痰グラム染色が重要であり、単一菌でたくさんclusterを形成するグラム陽性球菌が見えたら真の起炎菌であると思われます。良質な喀痰塗沫のグラム染色標本ではGPC clusterはたくさん見えず、培養でのみMRSAが発育する場合は起炎菌の可能性は低いです。
繰り返し培養で検出されるかどうか、はあまり重要でなく、信頼できる質の喀痰でグラム染色で多くの白血球とともにGPC clusterばかりが見えるときにMRSA肺炎を疑います。信頼できる質の痰が取れない場合は、培養結果は参考にしません。どうしても良い痰が取れないときは状況で判断します。MRSAを持っている状態なので、インフルエンザ後、挿管中などのMRSA肺炎のリスクが高い状態であれば治療対象にすることを検討します。

Q: 誤嚥性肺炎の化学性肺臓炎のフェーズでステロイドを使う?
A: NEJMから2019年に出されたAspiration pneumoniaのreview(PMID: 30763196 ) ではChemical pneumonitisの際のルーチンのステロイドの使用は推奨されないという記載があります。

Q: MRSA肺炎が限られた状況で起こることは把握しているが、実臨床での頻度等の参考となる文献はあるか?
A: 良い質問ですね。一緒に文献検索の簡単な方法を説明します。頻度や疫学を知るのには感染症の教科書(Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, Ninth Edition)をかUp To Dateで調べるのが簡単です。今回はUp To Dateで調べてみましょう。市中肺炎で検索すると「成人における市中肺炎の疫学、病因、および微生物学」という項目が見つかります。そこでS. aureusの部分を見るとCAPの入院患者における国際的な多施設共同研究では、入院後 24 時間以内に微生物学的検査を受けた患者 3193 人中 95 人(3%)で MRSA が検出されたとの記述があります。この引用文献(PMID27593581)から関連する文献の検索が行なえます。またMRSAや緑膿菌をどういう時にカバーするのかについても同様の方法でUp To Dateで調べると「入院を要する成人の市中肺炎の治療」にリスクの記述があります。例えば、MRSAや緑膿菌が過去の培養で検出歴がある、過去にMRSAや緑膿菌の感染症を起こしたことがある、3ヶ月間以内に抗菌薬静注の治療を行った入院歴があるといった事です。これらや他のリスク、患者の重症度を熟慮して抗菌薬を決定します。

Q: グラム染色不可・培養外注となり生えてしまうと治療を試されてしまう環境の場合はどうしたらよいか?
A: 非常に大変な環境で働かれているんですね。今回私の講義はグラム染色を行えることを前提にレクチャーを行っており申し訳ありませんでした。そのような場合には、患者背景から想定される微生物、疫学的に想定される微生物をよく考えて抗菌薬を選択する必要があります。ある程度治療をして培養結果が帰ってきますが、その際には「市中肺炎の培養検査で検出された菌≠起炎菌」 を念頭に置いて本当の起炎菌かと否か、を考える事が大事です。 例えばMRSAが培養から検出されて、MRSAを外した抗菌薬で治療して患者が元気になっていたら、MRSAは起炎菌でない可能性が高いです。ここでグラム染色が使用できるのであれば、どの菌が起炎菌か決定する強い根拠になります。

Q: 生食入りの吸引喀痰はピットフォールになりませんか?、現場の指導とかどうされていますか? 挿管患者の場合ですが、生食を入れると薄まった喀痰と濃厚な喀痰がばらつきます。看護師に提出といっても統一感がなく、生食の方を提出することがあります。現場と検査室用の検体を分けるのですが、現場でG染色をしたものと検査室でG染色したものが不一致で、何か亀田では工夫されているものはありますか。
A: 臨床の現場と検査室の乖離は経験されます。その乖離した理由はなにかはっきりさせるために亀田総合病院の感染症内科では検査室とのコミュニケーションを重要視しています。検査室の方々はものすごい知識を持たれており、臨床の情報を説明させていただくと、様々な微生物の情報を教えていただけます。これを繰り返すことで乖離がなくなり感染症診療が向上していくと考えています。質問の回答の順序が逆になりましたが、検査室とコミュニケーションできる関係を気づくことで、検体の質の関して検査室側からフィードバックが入りピットフォールを極力減らせると思われます。質の悪い検体が提出されても看護師の方々にも出来るだけプラスのフィードバックを行い、患者様の治療につながっているんだと感じてもらえるように心がけています。
ちなみに、「生食入りの吸引喀痰」というのは吸引チューブに入っている喀痰を流すために生食を吸引した時に生食が入ってしまったような状況でしょうか?
実はGekler3のような唾液と真の喀痰成分が混じった検体は、検査室で生食で洗浄するとGekler5のような良い検体にすることができることが報告されています。あまり多くの検体を処理するのは現実的でないので実際に行っている検査室は少ないと思われますが、有用な方法です。

https://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon3/kakutan-senjou.html

Q: コロナ禍で医師がグラム染色をする場合何か気をつけているか。
A: 非常に残念な事ですが、コロナ禍以前のように喀痰のグラム染色を感染管理の面(SARS-CoV2はエアロゾル感染するため)で自由に行えなくなりました。基本的にはプロの細菌検査技師に安全キャビネット内でスライド固定を行っていただいた上でグラム染色を行っています。

講義3. CDI 
Q: CDIの検査が陰性であった場合に、検査を繰り返す必要があるか?
A: GDH(EIA法)の感度は94-96%と高い(PMID: 27418431)ので、不要。追加でCDIがより疑わしい臨床症状(発熱など)が出現した場合には、その限りではないと考えます。

Q: 便移植は亀田総合病院では施行しているのか?
A: 日本では研究機関のみで保険適応がありません。亀田総合病院ではしていません。

Q: 外来でもCDIに罹患するのか?
A: 長期抗菌薬内服中の方や、OPAT(Outpatient Parenteral Antimicrobial Therapy)中の人はCDIになり得得ます。
抗菌薬投与歴などのない、市中のCDIも報告されています。
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/1697791
しかし一般的にはまれな病態と考えられ、外来の下痢の鑑別の上位にあげることはありません。

Q: CDIの診断前に治療開始することは適切か?
A: 臨床的に非常に強く疑う場合や、重症(severe or fulminant)の場合には妥当です。(PMID:34003176)。

Q: VCM高容量の治療効果は? 
A: guidelineではfulminantの場合にはMNZ + VCM高用量(イレウスの場合にはVCM注腸)が推奨されています(PMID: 29562266, 26024909)が、non-fluminantの場合にはVCM通常量はVCM高用量と治療効果は同等(PMID: 2910090)なので、敢えて増量する意義は乏しいです。

Q: probioticsは有効か?
A: 予防には有効かもしれないというデータはあります(PMID: 25922400、30027207、25922400など)が、それぞれの研究でprobioticsの内容(成分)が様々で一致しておらず、ガイドラインでは推奨されていません。治療ではデータがありません。

Q: Bezlotoxumab(ジーンプラバ®)は使ったほうが良いのか?
A: 再発性CDIに対して、VCMにBezlotoxumabを追加した研究のみ(PMID: 28121498)であり、FDXで効果があるかは微妙です。同研究のpost hoc analysis(PMID: 29538686)でも再発リスク要因(高齢、高病原性株など)がなければ、有効性はありませんでした。費用も625mg/335839円/瓶を1回10mg/kg使用するので非常に高価であり、積極的には使用しなくてよいと考えます。

講義4. STD 
Q: HIVを繰り返し検査する適応は?期間は?
A:HIV感染症はまずスクリーニング検査を行い、続いて確認検査を行い診断します。ここで繰り返し検査する適応としては、検査前確率が高く、スクリーニング検査が陰性だが感染急性期でまだ検査が陽性になっていない(ウインドウピリオド)ため、偽陰性を疑う状況があります。現在、第4世代のスクリーニング検査が広く使用されています。以前の世代の検査と比較しウインドウピリオドは短くなっていますが、最短17日間と報告があります( Arch Intern Med 2010;170(1):66-74)。感染リスクが高くHIV感染を疑う状況で、これよりも短い期間であれば偽陰性の可能性があり、期間を空けての再検査を検討かと考えます。一方、スクリーニング検査が陽性であっても、偽陽性の可能性もあります。この場合はスクリーニング検査を繰り返すのではなく、HIV確認検査を行う必要があります。詳細は「診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2020」などを御参照ください。どちらにせよ、重要なことは、病歴や症状から検査前リスクを十分に想定すること、必要な場合にHIV検査を行うことです。

Q: 免疫抑制薬投与前に梅毒をチェックした高齢者で、梅毒検査が陽性になった場合、どうするか?
A: 高齢者でトレポネーマ検査陽性、非トレポネーマ検査陰性であれば、生物学的偽陽性が疑われます。トレポネーマ検査陰性、非トレポネーマ検査陽性も、現在の感染よりも過去の感染で非活動性の可能性が高いと考えます。治療対象となる症例は少ないです。梅毒感染は免疫抑制の使用に影響しませんので、ルーチンに梅毒検査を行うのではなく、検査前リスクを考えた上で梅毒の検査を行うことが重要です。ただ、神経梅毒の症状として認知機能低下があります。こちらは治療可能な認知症ですので、高齢者で疑う場合に梅毒検査は検討されます。

講義5. 髄膜炎へのアプローチ 

Q: 新生児・乳児の髄膜炎はどのような時に疑うのか?
A: 新生児、乳児における細菌性髄膜炎の症状・徴候は年齢や罹患期間、免疫状態によって変化し、症状も非特異的ですが、全身状態不良(見た目や食事摂取不良など)から疑います。

Q: IEで中枢神経に梗塞や出血などの病変を認める時に、髄液移行性を考慮して抗菌薬のdoseを上げたりするのか?
A: 抗菌薬の投与量は変更しません。IEの治療量はすでに通常の投与量よりも多い投与量を採用しているので、変更する必要はありません。
ただし、抗菌薬選択においては脳膿瘍などの合併あれば髄液移行性を考慮して選択する必要があります。特に問題になるのがMSSAによる感染性心内膜炎のケースで、セファゾリン(髄液移行性が低い)で治療中に中枢神経病変が疑われた場合は、中枢移行性の良い薬剤への変更を検討します。海外ではナフシリンやオキサシリンなどのブドウ球菌用ペニシリンがあり、これで治療が可能ですが、日本ではブドウ球菌用のペニシリンがないので、代替薬として様々な工夫がされています。セフェピムを使用したり、セフトリアキソン、またはセフトリアキソンにバンコマイシンを追加したり、メロペネムを使用したりしています。また、日本で市販されている薬剤で唯一ブドウ球菌用のペニシリンであるクロキサシリンが含まれている「ビクシリンS」という製剤を使用することもあります。これはアンピシリンとクロキサシリンの1:1の合剤で、クロキサシリンを治療量で使用するとアンピシリンも入ってしまい、ペニシリン系薬を2剤同時に使用することとなり、過量投与のリスクがありますので、一般的には勧められません。

Q: 新生児で元気がなくて哺乳不良で血圧低いと髄膜炎を鑑別に入れると言うことですが、発熱のほぼ全例になりそうと感じたのですが、どうなのでしょうか?
A: 経験のある新生児科あるいは小児科の先生に付いて学ぶとよいと思います。
免疫異常なく比較的元気がよければ、発熱だけで髄液検査を行わないことはあります(実際に僕の息子も生後1ヶ月で発熱し入院しましたが、活気があり髄液検査はされていません)。ただし新生児は基本的には入院で、大人に比べて閾値低く鑑別に入れます。

Q: 感染症内科に進むとしたら小児感染症も全部見るのでしょうか?
A: 施設によって異なりますが、当院では血液培養陽性例と相談を受けた場合は診ます。
米国では小児科と成人の内科は全く別の教育プログラムとなっており、小児症例は小児感染症科が診察し、成人の感染症科は小児症例は診察しません。
感染症科医は非感染症もみる能力は必要で、後期研修として感染症内科に進む前に内科や小児科などgeneralをしっかり勉強しておく必要があります。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育