microbiology round

先日のマイクロラウンドのテーマは結核でした。
亀田総合病院感染症内科では微生物検査室と合同で特定の菌に対する勉強会を週1回の頻度で行っています。培地やコロニー、細菌のもつ性質などの知識を深める場として、毎回テーマとなる症例・細菌を決めて、それに対する発表を持ち回りでやっています。
細菌検査の方々からも色々と教えていただけるので、毎回非常に勉強になります。

【分類学】
ドメイン:細菌(Bacteria)
門:放線菌門(Actinobacteria)
網:放線菌網(Actinobacteria)
目:コリネバクテリウム目(Corynebacteriales)
科:マイコバクテリウム科(Mycobactericeae)
属:マイコバクテリウム属(Mycobacterium)
種:M. tuberculosis
結核は結核菌群=Mycobacterium tuberculosis complex(※Mycobacterium bovis BCG除く)による感染症を指し、ヒト型結核菌=Mycobacterium tuberculosisが主な原因菌である。

Mycobacterium tuberculosis complex に含まれる細菌は以下の通りである。

M. tuberculosis
M. bovis        
M. bovis BCG                
Mycobacterium africanum
Mycobacterium caprae
Mycobacterium microti
Mycobacterium canettii
Mycobacterium pinnipedii
Mycobacterium mungi
Mycobacterium orygis

これらは遺伝学的にも類似しているため16SrRNAによる同定やDNA-DNAハイブリダイゼーション法による同定も鑑別はできないとされていた。近年、ある菌種には存在する一方で、別の結核菌群には存在しない部分、RD(regions of difference)と呼ばれる部位の存在が明らかとなり、これを用いた結核菌群の鑑別方法が報告されている。
(日本臨床微生物学雑誌 Vol. 18 No. 3 2008. より)

【結核菌の特徴】
Mycobacteriaは主に好気性菌で芽胞を形成しない(M. marinumは芽胞形成あり)、非運動性の桿菌である。菌体は直線あるいはやや曲がっており0.2-0.6μm×1-10μmである。
(※ちなみに大腸菌は1×4μmほどなので、比較すると長さは同じだが細くみえる)
コロニーは象牙色であり辺縁は粗い。M. tuberculosis complexは偏性好気性菌で至適発育温度は37℃である。多量の脂質を含有した疎水性の細胞壁をもち、酸アルコール処理に対する抵抗性、すなわち抗酸性を示す。細胞壁で特に重要な脂質はミコール酸とよばれる結核菌特有の長鎖脂肪酸で、多糖層・ペプチドグリカンと共有結合して細胞壁骨格を形成するとともに,トレハロースやグルコースと結合した遊離型ミコール酸糖脂質として細胞壁表層に発現する。宿主免疫系との接点に存在するこれらのミコール酸糖脂質は菌の生育環境によりダイナミックに変容し、宿主自然免疫系からのエスケープを成立させる。
(https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=924607&AC=12939 より)

この脂質に富んだ特徴的な細胞壁のため通常の染料が入れず、グラム染色ではなくZ-N染色などの特殊な染色法が必要となる。M. tuberculosis complexの発育は遅く通常は培地にコロニーが形成されるまで最低7日はかかる。
ヒトに感染が成立する菌量をID50(50% infective dose)で表現されるがM. tuberculosisのID50は10個以下であり、わずかの菌量でも感染を成立させることができる。それゆえに結核菌の扱いはキャビネット内で慎重に行うべきでありBSL(Bio Safety Level)3に位置付けられる。

【疫学・歴史】
全世界ではHIV/AIDSに次いで単独感染でヒトを死に至らしめる微生物である。WHOの報告によると全世界人口の1/3(約24億人)が潜在性結核で、年間870万人が新規に結核を発症、140万人が死亡している。
結核菌感染の歴史は深く考古学的な証拠が多数確認されている。古くは9000年前のエジプトミイラの肺・胸膜・横隔膜・大腿骨から結核菌遺伝子が検出されている。日本における最古の結核症例は弥生時代の遺跡から出土した人骨で、脊椎カリエスによって曲がった脊柱が2例確認されている。
結核は歴史上、多くの若者の命を奪ってきた。特に若い女性の結核は同情を呼び、数多の結核文学とでもいうべき文学作品を生んでいるがその始まりが枕草子に見られる。肺結核は江戸時代には労咳(ろうがい)、労瘵(ろうさい)と呼ばれた。労咳は疲労により起こる咳をともなう衰弱を意味し、労瘵は疲れて擦り切れるという意味である。漢方医学でも消耗症と呼ばれ、すべて次第に衰弱してゆく症状を捉えている。また、結核は感染力が強く家庭内感染が多いため、労咳の家系・胸の病の血筋と呼ばれ社会的な差別が行われてきた。
結核が大流行する社会的背景として、都市への人口流入、非衛生的で過酷な労働が指摘されているが日本においてそれが起こったのは明治期である。明治〜大正〜昭和にかけて結核患者も増え1933年(昭和8年)の結核死亡者数は126703人で全死亡者数の10.6%に当たる。うち15 -34歳の結核死亡者数は80503人で全結核死亡者数の64%も若者が占めていた。
(モダンメディア55 巻 12 号 2009[人類と感染症との闘い] より)

【培養方法】
従来法

  • 固形培地
    -卵培地(Lowenstein-Jensenや小川培地)
    -寒天培地(Middle-brook 7H11)
  • 液体培地
    -Middlebrook 7H9、7H12

自動培養システム

  • BACTEC460 TB
  • BacT/ALERT MB
  • MGIT法(Mycobacteria Growth Indicator Tube)
  • ESP


抗酸菌培養には3種類の培地が用いられ、卵培地 (Lowenstein-Jensenや小川培地)、寒天培地(Middle-brook 7H11)、Liquid broth(Middlebrook 7H12)が挙げられる。卵培地として海外ではLowenstein-Jensen、日本では主に小川培地が用いられる。小川培地は卵とグルタミン酸を固めたものに緑色の色素(マラカイトグリーン:細菌の発育を抑制する目的)を加えている。緑色だが、成分は茶碗蒸しと似ている。
平板培地を用いると空気感染してしまうため、しっかりとキャップで締められるタイプの培地を用いる。培地表面が斜めになっているのは空気に触れる部分に結核菌が生えやすいためである。
当初は固形培地が結核菌の培養に用いられてきたが、培養に要する時間が3-8週間と長く、抗酸菌群を従来よりも短期(1-3週間)に検出できる方法として液体培地が開発された。
MGITはMycobacteria Growth Indicator Tubeの略称で液体培地を用いた自動培養システムである。チューブの底に変法Middle-brook7H9ブロスが入っておりCO2産生やO2消費を感知することで抗酸菌の発育を検出する。
一方で固形培地ではコロニーの形態評価や混合培養、菌量の定量化が可能であり、固形培地でしか発育できない抗酸菌もある。そのため抗酸菌培養には液体培地と固形培地の両方を用いる必要がある。
液体培地は6週間、固形培地は8週間培養して陰性報告を行う。
(Mandel Mycobacterium tuberculosisより一部改変)

【症状】
成人の肺結核は緩徐進行、慢性炎症、乾酪性肉芽腫、空洞形成が特徴的である。病巣が気管支に破裂すると多量の菌が他の肺領域に拡大し、咳によってエアロゾル化し、他の人に感染する。症状としては咳、体重減少、寝汗、軽度の発熱、呼吸困難、胸痛が挙げられる。肺以外にも感染は起こり得るが、リンパ節炎、胸膜炎、心膜炎、髄膜炎、皮膚、皮下膿瘍、骨、内臓など、その感染範囲は全身に及ぶ。治療薬は4剤併用が基本的なレジメンである。

写真1:蛍光染色 結核菌のDNAを染めています

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写真2:Ghost bacillus 結核菌はグラム染色で染まらないため、透明な桿菌として観察されます

post212_2.jpg亀田総合病院 感染症内科 山室 亮介

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育