Listeria monocytogenes について

8月24日のMicrobiology Roundの勉強資料です。担当フェローが、まとめ資料を作成して、科内で共有しています。

【Listeria monocytogenes について】

1. 微生物学

生菌をウサギに接種し末梢血を調べると、単球増多(monocytosis)をきたす。本菌の名称はこの単球増多に由来するが、ヒトでは必ずしも単球増多はみられない

(1)一般的特徴
・通性嫌気性、非芽胞形成性の、短い、分岐しないグラム陽性桿菌
・好気培養より微好気培養(または炭酸ガス培養)の方が発育が良い
・カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性。ブドウ糖を分解し酸を産生するが、ガスは産生しない
・VPテスト陽性、インドールテスト陰性、馬尿酸加水分解陽性、CAMPテスト陽性
(2) 形態
・大きさ0.5〜2×0.4〜0.5μmのグラム陽性短桿菌
・芽胞はなく、莢膜もつくらない
・1-6本の周毛性鞭毛を有し、25℃で活発な運動性(→動画)
・臨床検体中では、グラム不定でジフテロイド(Coryne様)や球菌、双球菌に見える
・ジフテロイドやレンサ球菌、腸球菌と間違えられることも珍しくない
→無菌検体から"ジフテロイド"が検出されたら、L. monocytogenesを考えなければならない
(3) 培地での発育
・血液寒天培地上に迅速に発育し、不完全なβ溶血を示す
・至適発育温度は30-37℃であるが、4℃でもわずかながら発育する
・冷蔵後の温度(4〜10℃)でも他の細菌よりよく発育し、cold enrichmentと呼ばれる
・選択培地は(食物や便の)汚染菌から選択するために開発され、cold enrichmentに優れる
・血液非含有培地に発育すると、45°の角度で見ると光を透過(Henry's illumination) し、コロニーは青っぽい灰色に見える(他の菌は黄色っぽかったりオレンジっぽい)
・中性から微アルカリ性のpHで最もよく発育し、pH5.5以下だと死滅する
・BTBにも発育する
・GBSのコロニーと血液寒天培地上では似ている。GBSはBTBには発育しないのが違い
(4)分類
・リステリアには7菌種あり、
L. monocytogenes, L. seeligeri, L. welshimeri, L. innocua, L. ivanovii, L. grayi, L. marthii
・人での感染の原因となるのは殆ど唯一L. monocytogenes
・L. monocytogenesは、細胞上のO抗原と鞭毛のH抗原に基いて、少なくとも13の血清型がある
・疾患の殆どは4b, 1/2a, 1/2bによって起こるため、血清型分類は疫学的にはあまり有用でない
・ファージ型分類は臨床分離検体の60-80%で行うことができる
・パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)や核酸分類、多座制限酵素電気泳動などにより分類が試みられてきた

2. 疫学

(1)一般論
・人獣共通感染として重要、特に群れを作る動物
・自然中に広く存在し、特に土壌中や腐敗した野菜、水中、哺乳動物の便中の細菌叢に認める
・健常成人の約5%では、便中に存在。感染者の家族からは更に高率で発見と報告
(2)患者背景
・殆どの症例は、新生児、妊婦、60歳以上の人、細胞性免疫不全状態の人(背景疾患:血液悪性腫瘍、臓器/骨髄移植、AIDS、治療:ステロイド、抗TNF薬)
・周産期以外の感染の約70%は血液悪性腫瘍やAIDS、臓器移植レシピエントやステロイド
・治療中など基礎疾患のある人に認めるが、健康な人、特に60歳以上でも侵襲性感染を生じる
・L. monocytogenes以外が問題となる場合は以下
・L. grayiは心移植患者や幹細胞移植患者
・L. ivanoviiは腎移植患者や、免疫抑制剤使用中の移植患者
・移植患者では、CMV感染は、独立したリステリア症のリスクファクター
(3)感染経路
・ヒトへは、汚染された食品から、また妊婦から胎児/新生児への感染
・経胎盤的、経産道的、また乳母から水平感染や、ミネラルオイルを介しての感染例も
・皮膚の限局性感染は、流産した仔牛や感染した家禽への直接接触で起こる
・1983年コールスローサラダの大規模な食中毒(米国)以降、アウトブレイクが報告
・牛乳、ソフトチーズ、バター、パテ、調理済み豚肉製品、燻製の魚、ホットドッグ、惣菜のターキー、スプラウト、タコ/ナチョサラダ、カンタロープ(メロン)
・食品で最もリスクが高いものは、惣菜の肉、低温殺菌されていないチーズ
・多くの食品は汚染されており、生野菜や生乳、チーズ、肉(生でも冷凍でも、スーパーで手に入る加工された鶏肉でも牛肉でも、惣菜でも)からの発見率は15-70%にもなる
 →L. monocytogenesの経口摂取はよくあることと考えられている
・米国の推定患者数は、1996年には2228名、2003年には1803名。死者はそれぞれ462、378名で、感染率が最も高かったのは、1ヶ月未満の乳児と60歳以上の成人
・妊婦は全患者数の約30%、10-40歳での患者の60%を占める。
・周産期以外でのリステリア症は、殆ど全てが食品由来の感染
・米国で食中毒の1%未満と稀だが、致死率は19-28%と、Vibrio vulnificusの35-39%に次ぐ
・発熱を伴う胃腸炎でアウトブレイクが疑われた場合、検査室に知らせる必要がある
(4)日本では:3), 4)
・食中毒統計上、本菌が原因となった食中毒の事例は報告がない
・届け出対象疾患ではなく正確な統計はないが、年間83例、0.65人/100万人という推計もある

3.感染を起こす部位

(0)伝播様式
・母児での垂直感染や、稀に乳母からの水平感染を除き、ヒト-ヒト感染は報告されていない
・最も多いのは食品を介しての感染:粘膜へ侵入し、全身感染を生じる
・臨床で感染を生じるのに必要な菌量は良く分かっていないが、健常哺乳類での実験では10の9乗以上の菌量が必要なことが示唆
・制酸剤での胃のアルカリ化、胃潰瘍手術、加齢による胃酸欠乏などが感染を促進
・潜伏期は確立されてはいないが、過去の症例から11-90日(平均31日)とされる
・2名の妊婦の事例では、パーティーに出てからそれぞれ19,23日で発症の報告
・腸では、上皮細胞による能動性のエンドサイトーシスを通じて粘膜バリアを侵入し、血中に入ると他の場所に血行性に播種する
・とりわけ中枢神経系(CNS)と胎盤に指向性がある
・実験からは少なくとも3種類の方法でCNSに侵入する
 1)BBBの血管内皮細胞を通じて直接侵入
 2)"トロイの木馬"メカニズム;白血球に貪食され、それを通じて侵入
 3)咀嚼の際に粘膜のマクロファージに貪食され、神経の軸索を逆行性に侵入
  →この機序は脳幹脳炎の発症に重要
・細胞内寄生菌であり、細胞内に侵入し、増殖し易いメカニズムがある

  • LPXTG:表面蛋白 粘膜表面に接着しやすくなる
  • internalin:E-カドヘリンと相互作用し、貪食を誘導する
  • listeriolysin O:細孔形成性の毒素で、T細胞受容体の反応性をなくす
    →ホスホリパーゼとともに、食胞から逃れ、細胞内殺菌されないようにする
    →細胞質内に存在し、約1時間で分裂して増殖
    →宿主細胞のアクチンを重合させ、細胞表面に移動
    →filopodという突起を形成、他の細胞から取り込まれやすくする
  • Act A:アクチンを重合させたり細胞-細胞間の伝播に用いる重要な病原因子

・この特筆すべきライフサイクルによって、抗体や補体、好中球に接することなく細胞間を移動することができる
・鉄も、L. monocytogenesにとっての病原因子となる
 :シデロフォアによってトランスフェリンから鉄を得て、in vitroでは増殖を促進
 →鉄過剰状態は易感染性となり、鉄補充をすると死亡率が上昇する報告がある
・ヘモクロマトーシスでリステリア症の散発例や、輸血関連鉄過剰でのアウトブレイク
(1)妊婦での感染
・妊娠中は軽度の細胞性免疫不全であり、リステリア菌血症発症リスクは17-100倍とも
・通常の免疫防御機構が到達できない胎盤で増殖
・理由はよくわからないが、中枢神経感染は他のリスクがなければ極めて稀
・筋痛や関節痛、頭痛、背部痛を伴う急性の発熱ではリステリア菌血症を考える
・通常妊娠第3三半期に起こる(恐らく細胞性免疫が26-30週で急に低下するため)
・ヒトでは周産期感染の22%が流産や新生児死亡となる。早産や流産もよくある
・菌血症は治療しない場合でも大概は自然に良くなってしまうが、羊膜炎となった場合、
 自然/治療的に流産となるまでは発熱が持続する
・妊娠中にリステリア症となったうち、(生存した)2/3の児に新生児リステリア症を発症
 →早期に診断して抗菌薬治療をすることが、児が感染なく出生するのに大切
・ヒトではリステリア症が習慣性流産の原因となるという確定的な証拠はない
(2)新生児での感染
・妊娠したサルのモデルでは、L. monocytogenesの経口摂取により、死産となり、その胎児や胎盤中に菌が認められた
・胎児が子宮内感染すると、数時間以内に播種性のリステリア症(敗血性乳児肉芽腫症;全身、特に肝や脾に微小膿瘍や肉芽腫を形成)を発症し、流産となったり、感染数時間で死亡する
 →胎便をグラム染色すると多量の菌体が見える
・更によく見られる新生児の感染症は、GBS感染症のような、以下の病型をとる
 1)早発型敗血症:未熟性と関連し、恐らく胎内感染
 2)遅発型髄膜炎:生後2週間ほどで発症し、満期産児にも起こる。経産道や院内感染も
・化膿性結膜炎や播種性丘疹も、早発型感染で認めることがあるが、他の細菌感染と区別困難
(3)菌血症
・新生児期より後では、明らかな感染巣を伴わない菌血症が、最もよく認める病型
・症状は他の菌による菌血症のときと似ている
・通常発熱と筋痛を伴い、前駆症状として下痢と嘔吐を認めることがある
・免疫不全者の方が、発熱時に血液培養採取されることが多いので、健常人の一過性菌血症は見逃されているかも知れない
(4)中枢神経感染
・細菌性髄膜炎の原因となることの多いS. pneumoniaeやN. meningitidis、H. influenzaeは、脳炎や脳膿瘍といった脳実質感染を起こすことは殆どない
・対して、L. monocytogenesは髄膜とともに、脳自体、特に脳幹に指向性
・髄膜炎を生じている多くの患者は、実際には髄膜脳炎を起こしている
1)髄膜炎
・1990年のCDCからの報告では、L. monocytogenesはH. influenzae、S. pneumoniae、N. meningitidis、GBSについで5番目に多い髄膜炎の原因で、致死率は22%と最も高い
・1995年、Hibワクチン導入から5年後では、H. influenzaeよりもL. monocytegenesの方が多くなっている
・2003-2007年のサーベイランスで、細菌性髄膜炎中L. monocytegenesの割合は3.4%
・世界的に見ると、新生児髄膜炎の3大起園菌の一つであり、50歳以上の髄膜炎では、S. pneumoniaeに次いで2番目の原因であり、免疫不全患者での細菌性髄膜の原因では最多
・monocytogenesの名前があるが、67%では髄液細胞は好中球優位
・MGHのケースシリーズでは、最も多かった素因は悪性腫瘍(24%)で、次いで移植(21%)、アルコール依存/肝疾患(13%)、免疫抑制/ステロイド使用(11%)、糖尿病(8%)、HIV/AIDS(7%)。36%は、特にリスクを有さなかった 5)
2)脳炎
・稀であるが、脳膿瘍形成する前には、限局性に皮質の脳実質感染があるかもしれない
・髄液培養は約半数で陽性となる。血液培養も同様
・症例報告によると、L. monocytogenesの脳炎は、ヘルペス脳炎と似るかも知れない
3)脳幹脳炎
・変わった脳炎の病型として、脳幹を侵す脳炎があり、ヒツジのcircling diseaseと似ている
・他のリステリア感染と違い、健常成人に発症する
・2相性の経過:発熱、頭痛、嘔気嘔吐が4日程前駆症状として続き、その後に左右非対称の脳神経障害、小脳症状、片麻痺や片側の感覚障害を生じる
・40%では呼吸不全を生じる
・項部硬直は約半数に認め、髄液所見の軽度異常が見られ、培養は約1/3で陽性となる
・約2/3の患者では菌血症も伴う
・CTよりもMRIの方が、脳幹脳炎を証明するのに優れる
・致死率が高く、生存しても重篤な後遺症を認めることが多い
4)脳膿瘍
・中枢神経感染の約10%に、肉眼的膿瘍を伴う
・菌血症はほぼ全例で認め、菌の証明される髄膜炎は25-40%で合併する:他の細菌性脳膿瘍とは異なる特徴
・殆どのケースでは、リステリア症のリスクのある人に起こる
・皮質下膿瘍:視床や橋、延髄に膿瘍を認めることが多い:他の細菌性脳膿瘍では珍しい部位
・致死率が高く、生存者は通常重篤な後遺症を伴う
5)脊髄の感染
・稀であるが、脊髄の感染も報告されている
・殆どの症例は、リステリア髄膜炎/髄膜脳炎の治療中に、対麻痺を発症して診断される
・急性細菌性髄膜炎や、病因のよくわからない脊髄症状を認めたときには、
 L. monocytogenes感染を考慮すべき
(5)心内膜炎
・心内膜炎は、成人のリステリア症の7.5%を占める
・Viridansの心内膜炎のリスクのある人に発症し、自然弁/人工弁とも侵す
・敗血症性塞栓など合併症率が高く、致死率も50%ほど
・菌血症それ自体でなく、リステリアによる心内膜炎は、癌などの消化管の異常を
 示唆するかも知れない
・小児の症例は稀
(6)限局性感染
・稀に直接播種による結膜炎、皮膚感染、リンパ節炎
・菌血症によって生じる肝炎、肝膿瘍、胆嚢炎、腹膜炎、脾膿瘍、胸膜炎、関節炎、骨髄炎、壊死性筋膜炎、心外膜炎、心筋炎、動脈炎、眼内炎
・これらで、リステリアに特徴的なものはない
・関節炎は通常免疫不全者の人工関節に起こり、治癒のためには人工関節抜去を要する。
(7)発熱性胃腸炎
・リステリア菌血症や中枢神経感染の患者の多くは、先行する消化器症状(下痢、嘔気嘔吐、多くは発熱を伴った)を認める
・大量に細菌を経口摂取してから典型的には24時間(6時間から10日の幅がある)で発症し、1-3日(1-7日の幅)続き、発症率はかなり高い(52-100%)
・よく見られる症状は発熱、水曜下痢、嘔気、頭痛、関節痛や筋肉痛
・原因食物は、チョコレートミルク、コーン・ツナサラダ、燻製の鱒、惣菜肉
・食中毒のアウトブレイクの際に、ルーチンの培養で原因を特定できない場合、Listeriaを考える
(8)合併症
・DIC、ARDS、急性腎不全を伴う脳幹脳炎、血球貪食症候群

3.診断

・上記の状況では強く疑われる
・無菌検体(髄液、血液、関節液など)からのL. monocytogenesの検出により診断
・脳実質や特に脳幹の病変を証明するには、CTよりもMRIが良い

4. 抗菌薬治療

・リステリア症の抗菌薬選択、治療期間を明確にするための比較試験はない
・推奨は、in vitroの感受性試験や動物モデル、少数の臨床経験(症例報告)に基づいている(1)抗菌薬選択
・髄膜炎で髄液グラム染色から起炎菌が不明の場合に、50歳以上の成人では、初期治療はアンピシリンかSTを含むべき。特に肺炎や中耳炎、副鼻腔炎や心内膜炎などL. monocytogenes以外の菌が起こすような感染巣を伴わない場合

  • アンピシリン 2g 4時間毎 がよく用いられる
  • ペニシリン400万単位 4時間毎 と比較して優れるかはよくわからない
  • ペニシリン系はL. monocytogenesに対して静菌的にはたらくとされているが、実際には、髄液中で得られる濃度で、遅れて(48時間)殺菌的に作用する
  • イミペネム、バンコマイシンでも同様の効果があることがわかっている

・ゲンタマイシン:in vitroと動物モデルでのシナジー効果に基づき、殆どの専門家は、高度にT細胞性免疫が低下した患者での菌血症や、髄膜炎や心内膜炎では全例、併用を推奨(GM 5mg/kg/day)
・ペニシリンが使用できない場合、ST合剤 TMP/SMX 5/25mg/kg 8時間毎:データは限られているが、殺菌的に作用し、アウトカムはABPC+GMと同等とされる。重症なリステリア髄膜脳炎では、ST+ABPCがABPC+GMと比較して治療失敗率が低く、神経学的後遺症が少なかったという報告
・背景に基礎疾患や治療などがなければ、妊婦では殆ど中枢神経感染を発症しない
・ペニシリンアレルギーの妊婦(ST合剤も禁忌)では、マクロライドやバンコマイシン
・中枢神経や髄液異常がなくとも、そのCNSへの親和性の高さから、全ての治療で髄膜炎用量が用いられるべき
・セファロスポリンは使用できない
・エリスロマイシンやテトラサイクリンは、信頼して使用できず、避けるべき
・クリンダマイシンの耐性率は95%以上との報告がある
・いくつかのキノロンはin vitroでは活性が有るが、臨床経験はごくわずか
・シプロフロキサシンでは治療中に髄膜炎を発症した報告がある
・バンコマイシンは、ペニシリンアレルギー患者では代替となる報告があるが、これも治療中に髄膜炎を発症した報告がある
・ダプトマイシンはin vitroでは活性があるが、臨床経験がない
・リネゾリドも、in vitroで良好な活性があるが、臨床経験が限られる
・リファンピシンはin vitroでとても活性があり、貪食細胞内にも到達することが知られるが、アンピシリンに加えた場合に、アンピシリン単剤と治療効果が変わらなかった動物モデル
・イミペネム、メロペネムはリステリア症に使用されてきて効果があったが、けいれん閾値を下げるために、注意が必要である
・マウスモデルでは、イミペネムは、アンピシリンほど効果がなかった
・メロペネムでは治療失敗が報告されている
(2)治療期間
・2週間未満の治療では、再燃や治療失敗が報告され、髄膜炎では3週間の治療が推奨される
・髄膜炎のない、菌血症のみでは、2週間の治療でよい
・脳幹脳炎や脳膿瘍の場合には、MRIでフォローしながら少なくとも6週間
・心内膜炎は4-6週間治療
・リステリア胃腸炎では、抗菌薬治療の効果を示したデータはない(自然軽快するため)
(3)耐性
・臨床的に有意な抗菌薬耐性は報告されていない
・腸球菌から、L. monocytogenesに耐性が伝播した報告があり、監視が必要
・テトラサイクリンやキノロン耐性が出現し、ペニシリンのMICのわずかな上昇が報告
(4)その他
・鉄は病原因子となり、また鉄過剰はリステリア症のリスクとなるため、
 鉄欠乏患者でも、治療終了までは鉄補充を控えた方が賢明

5.予防

・高リスクの人はソフトチーズを食べない。惣菜(調理されたサラダ、肉、チーズ)を避ける。
・食べる場合には、しっかりと調理し、汚染を避け、調理済みで傷みやすい食品は短期間のみ冷蔵保存する
・ヒト-ヒト感染は母子感染以外には起こらないため、患者の隔離は必要ない
・ワクチンはない
・移植患者やAIDS患者では、PCP予防のST合剤で、効果的に予防できる
・無症候性保菌者の除菌は、侵襲性感染を予防するのに有用かどうかは分かっていない
・高リスクの人が、摂食によりアウトブレイクに関連したことが知られており、そのような人は経口アンピシリンやST合剤を数日内服するのも妥当かも知れない

【参考文献】
1) 微生物学/臨床微生物学 第3版, 医歯薬出版株式会社, 2010
2) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, Eighth Edition, Chapter 208, 2383-2390
3)日本におけるリステリア感染症の状況  
4)リステリアによる食中毒について 食品安全委員会 http://www.fsc.go.jp/sonota/listeria.pdf
5)Medicine. 77, 1998: 313-336. : 776名のケースシリーズ
6)Clin Infect Dis. 43, 2006: 1233-1238. :リステリア髄膜炎初の前向き研究

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育