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N Engl J Med. 2017 Nov 30;377(22):2133-2144. Epub 2017 Nov 12.
Restrictive or Liberal Red-Cell Transfusion for Cardiac Surgery.
Mazer CD. PMID:29130845
doi: 10.1056/NEJMoa1711818

心臓手術を受ける予定の患者において,赤血球輸血を制限的に行う戦略に,非制限的に行う戦略と比較してどのような影響があるかは明らかにされていない。本論文は多施設共同非盲検非劣性試験において、EuroSCORE I が 6 以上、つまり心臓手術後の死亡リスクが中等度以上で、心臓手術を受ける予定の成人患者 5,243 例を,赤血球輸血の閾値を制限する群(麻酔導入時より,ヘモグロビン濃度 7.5 g/dL 未満で輸血する、以下輸血制限群)と制限しない群(手術室または集中治療室ではヘモグロビン濃度 9.5 g/dL 未満,ICU 以外の病棟では 8.5 g/dL 未満で輸血する、以下輸血非制限群)に無作為に割り付けた。退院または術後 28 日のいずれか早い時点までに発生した全死因死亡,心筋梗塞,脳卒中,透析を必要とする新規腎不全をPrimary Outcomeとした。赤血球輸血,その他の臨床転帰などをSecondary Outcomeとした。

Primary Outcomeは,輸血制限群では 11.4%に発生したのに対し,輸血非制限群では 12.5%に発生した(絶対リスク差 -1.11 パーセントポイント,95%CI -2.93〜0.72,オッズ比 0.90,95%CI 0.76〜1.07,非劣性の P<0.001)。死亡率は輸血制限群 3.0%,輸血非制限群 3.6%であった(オッズ比 0.85,95% CI 0.62〜1.16)。赤血球輸血は,輸血制限群では 52.3%に行われたのに対し、輸血非制限群では 72.6%に行われた(オッズ比 0.41,95% CI 0.37〜0.47)。その他のSecondary Outcomeに群間で有意差は認められなかった。また、Primary Outcomeのサブグループ解析において、75歳以上では輸血制限群のほうが低リスクなことがわかった。

本論文の結論としては、心臓手術後の死亡リスクが中等度〜高度の,人工心肺使用の心臓手術を受ける患者において,赤血球輸血を制限する戦略は,全死因死亡,心筋梗塞,脳卒中,透析を必要とする新規腎不全から成る複合転帰に関して,非制限的戦略に対して非劣性を示し,輸血量がより少なかった。

本論文のStrengthとしてはサンプル数の担保された他国多施設共同RCTであり、Lost to follow upもない点がある。一方でLimitationとして、盲検化ができていないこと、低リスク患者が含まれていないこと、さらなる輸血制限の安全性やメリットについては明らかでないことが挙げられる。また、循環動態不安定時はプロトコルを一時的に離脱することが認められており、輸血制限群は14.3%、輸血非制限群は11.7%と、輸血制限群でより多くなっていた。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科