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ARDSとは重症患者で臨床上よく問題になる病態であり未だ高い死亡率とQOL低下の原因となる。ARDSの病態は、換気に預かる肺胞の減少であり、虚脱した肺胞の再膨張時の剪断力による障害、過膨張した肺胞の更なる拡張による障害等複雑な要素が絡み合っている。2010年にはARMA研究でlow tidal strategy(一回換気量6ml/kg、プラトー圧30cmH2O以下、SpO2 88%またはPaO2 55mmHg以上を目標とした酸素濃度設定、pH 7.3〜7.45を目標とした呼吸数設定)がARDS治療の主軸となったが、至適なPEEPについては定まっていない。ARDSで虚脱した肺胞の再膨張には60cmH2Oの圧が必要という報告もあり、一時的に気道内圧を高圧にして虚脱した肺胞を再開通させるリクルートメントが有効であると指摘されている。リクルートメント手技の有効性は、barotraumaを増やすことなく死亡率を減少させるというシステムレビューがあるも、バイアスが多く適切に吟味されたとは言い難い。
今回ARMA研究で提唱されたlow tidal strategyをコントロール群とし、リクルートメント手技を併用することで28日全死因死亡が改善するかを検討した。
9ヶ国120施設ICU 2011/11/17〜2017/04/25の期間に、気管挿管後72時間以内でmoderate〜severe ARDSと診断された成人患者を対象とした。
1:1割り付け 4 block randomization 55歳、P/F 100で層別化、power90%、αエラー0.05、HR 0.75で各群N=520と算出した。
Primary Outcomeは28日全死因死亡、Secondary outcomeはICU滞在期間、28日ventilator-free-day、7日以内のドレナージを必要とする気胸/barotrauma、ICU内/院内/6か月死亡とした。
コントロール群はARMA研究で提唱されたlow tidal strategyを継続し、介入群はルクルートメントのプロトコールに則り、吸気圧15cmH2Oの上にPEEPを最大で35cmH2Oかけ、徐々にPEEP 11cmH2Oまで下げたのちコンプライアンス測定を行い計算上の至適PEEP +2の圧を維持するように設定した。(プロトコールは図を参照)

2077名が該当し、最終的に501人が介入群、512人がコントロール群に割り当てられた。患者背景としては女性37.5%、平均(±SD)年齢50.9(±17.4)歳、敗血症または敗血症性ショックは19%、pulmonary ARDSが65%であった。
28日時点において、介入群で501例中277例(55.3%)、コントロール群で509例中251例(49.3%)が死亡した(HR:1.20、95%CI:1.01〜1.42、p=0.041)。介入群と比較してコントロール群では、6ヵ月死亡率の増加(65.3% vs.59.9%、HR:1.18、95%CI:1.01〜1.38、p=0.04)、人工呼吸器未使用期間平均日数の減少(5.3 vs.6.4、95%CI:-2.1〜-0.1、p=0.03)、ドレナージを要した気胸リスクの増加(3.2% vs.1.2%、95%CI:0.0%〜4.0%、p=0.03)、および圧外傷リスクの増加(5.6% vs.1.6%、95%CI:1.5%〜6.5%、p=0.001)が認められた。ICU在室期間、在院日数、ICU死亡率および院内死亡率は、両群で有意差は認められなかった。
この論文のStrengthは9ヶ国120施設のICUで実施されたRCTであり、汎用性は高いことである。マスキングが困難である分バイアスを可能な限り減らし、ハードアウトカムを設定した。
Weaknessとしては、2010年以降のARDS治療戦略はめざましく進歩しており、研究対象期間中もECMOや腹臥位療法が発展してきた時期と重複することから、予後改善の要因が定まらないことである。
リクルートメント手技による循環動態の増悪や気胸の合併が予後不良因子になる可能性があり、moderate〜severe ARDS症例には引き続きlow tidal strategyを支持する結果となった。

Effect of Lung Recruitment and Titrated Positive End-Expiratory Pressure (PEEP) vs Low PEEPon Mortality in Patients With Acute Respiratory Distress Syndrome: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2017 Oct10;318(14):1335-1345.
doi: 10.1001/jama.2017.14171. PMID: 28973363

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科