人工呼吸器を使用している重症患者における、せん妄と短期的死亡率の関連

Journal Title
Association of Incident Delirium With Short-term Mortality in Adults With Critical Illness receiving Mechanical Ventilation

論文の要約
【背景】
せん妄は集中治療室(ICU)の人工呼吸器患者に80%まで起こるといわれている。せん妄は、院内死亡割合の増加・人工呼吸期間・長期認知機能障害に関連することが知られているが、短期死亡率との関連性はまだ一貫した結果が得られていない。
そこで、ICUにおいてせん妄の発生割合、せん妄の日数、昏睡の日数、入院後14日間でせん妄も昏睡も起きなかった日数(Delirium-Coma-Free Days:DCFDs)が、人工呼吸器患者の14日死亡及び入院期間に影響しているかどうかを検証した。

【方法】
2018年8月から2020年10月に台湾の大学附属病院の6つの内科ICUに入室した20歳以上で人工呼吸器を使用した重症患者対象に行われた単施設前向きコホート研究である。
せん妄の発生の有無とその日数、昏睡が起きた場合にはその日数、14日間でせん妄も昏睡も起きなかった日数(DCFDs)と、14日死亡・院内死亡および入院期間との関連を評価した。
せん妄および昏睡はRASS:Richmond Agitation-Sedation Scale及びCAM(Confusion Assessment Method)-ICUを用いて評価した。
14日死亡割合及び院内死亡はCox比例ハザード回帰分析を使用して各項目との関連性が評価され、入院期間は多変量線形回帰分析によって評価された。以下の事前に規定された5つ交絡因子(各症例の年齢、APACHEⅡ score、SOFA score、CDR score、CCI score、 人工呼吸器を使用した日数)を各モデルに投入した。

【結果】
被験者267人の14日死亡割合は18%(48人)、院内死亡割合は42.1%(112人)だった。
せん妄の発生は、14日死亡割合において調整ハザード比 1.37(95% CI 0.69-2.72)、 院内死亡割合において調整ハザード比 1.00(95% CI 0.64-1.55)と両者と関係を認めなかった。
せん妄の日数も 14日死亡割合において調整ハザード比 1.00(95% CI 0.91-1.10) 院内死亡割合 調整ハザード比 1.02(95% CI 0.97-1.07)と関連を認めなかった。昏睡の日数は 14日死亡割合において調整ハザード比 1.16(95% CI 1.10-1.22) 、院内死亡割合において調整ハザード比 1.10(95% CI 1.06-1.14)と上昇しており、短期・院内双方において死亡リスクの増加を示した。DCFDsは増加する毎に14日死亡割合は11%(調整ハザード比 0.89 95% CI 0.84-0.94)、院内死亡割合は7%(調整ハザード比 0.93 95% CI 0.90-0.97)と減少した。またせん妄の発生は入院期間の延長と関連していた。(回帰係数推定値=10.80 : 95% CI 0.53-21.08)。せん妄の日数、昏睡の日数、DCFDsは入院期間の延長との関連は認めなかった。

【Implication】
ICUで人工呼吸器を使用するような重症患者において、せん妄の短期予後への影響をみた点が新しい。結果的にせん妄の有無や日数は、短期死亡に対して影響を与えなかった。それぞれの結果の信頼区間の幅が広いことは、患者数が少ないこと、患者の異質性が高いこと、本研究のような対象患者に対して、せん妄が短期予後に影響を与える仮説自体に無理があることなどが考えられる。やはり重症患者には異質性が高く、短期予後の影響をみるには、せん妄と短期死亡が因果関係で説明しうるような対象を選択する必要があるだろう。そのためにはサブグループでの異質性をみるが、サンプル数が少なく、その対象を絞ることも難しい。

文責:長田千愛/南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科