偶発性低体温症患者に対する高酸素療法と死亡率上昇の関連:多施設前向き観察研究の事後解析

Journal title
Hyperoxia for accidental hypothermia and increased mortality: a post-hoc analysis of a multicenter prospective observational study
Crit Care. 2023 Apr 1;27(1):131.

背景
生理的範囲を超えた高酸素血症は、様々な疾患(外傷性脳挫傷、PCAS、心臓血管外科術後など)や敗血症や呼吸不全など重症患者において、死亡率上昇など不良な臨床アウトカムと関連することがわかっている。その生理学的な背景には、高酸素血症が脳血管収縮を起こし脳組織への酸素供給を低下させたり、肺において不必要な活性酸素を発生させ肺血管収縮や肺胞障害を起こす機序が示されている。
中枢温32℃以下の偶発性低体温症は、集学的治療が必要な重症病態である。低体温の状態では、組織の酸素需要が低下し、組織に過剰な酸素分子が出現する可能性がある。本研究は、偶発性低体温患者に対する高酸素療法が臨床アウトカムにどのような影響を生じるのかを検証した研究である。

方法
本研究は、2019年12月から2022年3月に日本の36施設で行われた、ICE-CRASH studyという多施設前向き観察研究のデータを使用した事後解析(post-hoc analysis)である。このICE-CRASH studyは、偶発性低体温に伴う循環動態不安定な患者に対して体外式膜型人工肺(ECMO)の有用性を検証した研究である。病院到着時の中枢温32度以下の偶発性低体温をきたした18歳以上の患者で、救急外来で動脈血のPaO2が得られている患者を研究に組み入れた。心停止後症候群に対する高酸素療法は有害であることが過去の研究からわかっているため、病院到着時に心停止に至っている患者は除外した。復温開始前のPaO2が300mmHg以上の患者を高酸素血症群、復温開始前のPaO2が300mmHg未満の患者を非高酸素血症群と割り付けた。
主要評価項目は、病院到着後28日以内の死亡割合とし、副次的評価項目は、退院時の良好な神経機能を有している割合、入院後28日時点でのICU free days、入院後28日時点でのHospital free days、入院後28日時点でのVentilator free days、低体温や復温に関連した有害事象の割合とした。
詳細なデータは、ICE-CRASH studyでの患者データを各病院のオンラインポータルシステムから入手した。ただし、復温方法の選択基準、復温前中後の詳細な循環動態の詳細はデータベースから収集できなかった。
両群の背景特性を均一化するために、過去の研究から共変量を推定し、傾向スコアを利用した逆確率重み付け(IPTW)を行った。傾向スコアの識別力は、c統計量で測定した。結果の検証のために3つの感度分析を行った。また、偶発的低体温症の臨床アウトカムに影響を与えるPaO2の閾値を特定するため、到着時のPaO2による28日死亡割合を推定する制限付き三次スプライン曲線を作成し、そこから2つの異なるカットオフ値を選択した上で高酸素血症を再定義し、逆確率重み付けを行った。

結果
最終的に65人が高酸素血症群、273人が非高酸素血症群に割り付けられた。調整後の年齢の中央値は、高酸素血症群で83歳、非高酸素血症群で82歳、約半数がADL自立している患者群となった。逆重み付けによる調整後、c統計量は0.699であった。主要評価項目である28日死亡割合は、高酸素血症群 vs 非高酸素血症群で、調整前39.1% vs 19.5% オッズ比(OR)2.65(95%信頼区間(CI) 1.47-4.78)、調整後34.0% vs 23.8% OR1.65(95%CI 1.14-2.38)と、高酸素血症群で有意に高い結果となった。副次的評価項目では、神経学的機能が良好な割合は、56.9% vs 63.5% OR0.76(95%CI 0.55-1.06)、ICU-free days(IQR)は、23日(0-26)vs 23日(2-26)、Hospital-free days (IQR)は、0日(0-11)vs 0日(0-16)、Ventilator-free days (IQR)は、28日(0-28)vs 28日(0-28)となった。三次スプライン曲線では、PaO2 60~250mmHg では、28日死亡リスクが低くなることが判明した。

Implication
本研究は、ICE-CRASH studyの事後解析である。強みとしては、IPTWを用いて両群の共変量が十分に調整されていること、いくつかの感度分析が行われ、結果の頑健性が示されている点である。一方、ECMOの研究であるが、復温中の詳細な酸素投与・循環動態のデータが欠損しているため、どの程度高酸素血症に暴露されたか不明な点や、組み入れられた患者数・アウトカム数(死亡)が少なく、効果量が過大評価されている可能性がある。以上から現時点では仮説の域を出ないが、高酸素血症が有害であることを示す生理学的な裏付けや、研究結果が示される流れのなかで、低体温症で検証を試みた価値は高く、さらなるサンプル数での検証やシステマティックレビューの結果を期待する。

文責:柴田泰佑/南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科