老年外傷パスウェイの導入とせん妄発症率との関係について

Title
Association Between Implementation of a Geriatric Trauma Clinical Pathway and Changes in Rates of Delirium in Older Adults with Traumatic Injury

イントロダクション
背景
米国では高齢者の人口が急速に増加している。高齢者の外傷管理では連続した、包括的なアプローチが必要であると言われている。ケアの枠組みを再設計するにあたっては慢性合併症、医薬品、老年症候群、フレイルなど複数の要因を加味する必要がある。老年医学研究所が開発した高齢者のケアに関わる種々のプログラムはせん妄発生率、入院期間、合併症などを減少させ、ADLの拡大および自宅退院の可能性を高めることを示してきた。

本研究の目的
スタンフォード老年外傷パスウェイを作成することを目的とした。

仮設
パスウェイの導入によりせん妄と入院期間が改善される。

方法
スタディデザイン
本研究はベースライン期間とパスウェイ導入後期間のアウトカムを比較する単施設後ろ向きコホート研究である。2015年9月から2018年4月までを導入前のベースラインとし、2019年1月から2020年1月までを導入後の期間とした。なお2018年5月から2018年12月までの期間はパスウェイの開発期間であり、ウォッシュアウト期間として除外した。

パスウェイチームは以下の専門職から構成された;外傷チーム、老年医学、救急部、集中治療、看護部、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、言語病理学、ケースマネージャー、ソーシャルワーカー、薬剤部、栄養部、移行期ケア、品質管理、患者家族諮問委員会。救急部から退院までの患者の一連の流れに関してプロセスマッピングが行われた。
患者への介入はAge Friendly Health Systems Frameworkで用いられるMedication、Mentation、Mobility、what Mattersの4Mを基盤に行われた。老年医学専門医を中心として看護師、理学療法士、作業療法士は患者に対して機能評価、認知評価、うつ病スクリーニングの老年医学評価を行った。また看護師によるCAMテスト、理学療法士・作業療法士による動作能力評価と機能的ニーズの評価、ソーシャルワーカーによる社会的障壁の評価などが行われた。
老年医学的評価は48時間以内に行われるよう標準化された。これにはケア目標へのアプローチや認知機能、運動機能、社会障壁、ポリファーマシー、フレイルの評価などが含まれた。4Mの枠組みを用いて患者及び家族の要望をケア目標として記録・文書化され、ケアチームと共有された。
ワークフローは救急部への入院と同時に自動で起動され、ガイドラインおよびオーダーセットに従い患者ケアが提供された。退院後にフォローアップが必要と判断された患者に関しては移行期ケアチームへ引き継ぎが行われた。

統計・解析
主要評価項目はせん妄の発生で、副次評価項目は入院期間とした。せん妄の発生に関してはCAMスコアが陽性であった場合、または臨床医チームによりせん妄と診断された場合と定義した。
パスウェイの導入成功の指標となるプロセス指標(24時間以内の適切な鎮痛、24時間以内の早期離床、48時間以内のケア目標へのアプローチ)が同定・分析された。
非調整および調整分析を行った。連続変数は、データがパラメトリックの場合はt検定、ノンパラメトリックの場合はMann-Whitney検定で比較した。カテゴリーデータは、χ2検定、セル数が少ない場合はFischer exact検定で比較した。ロジスティック回帰分析および線形回帰分析は、患者特性、外傷、およびプロセス指標に関して行った。傷害の重症度は、軽症・中等症(Injury Severity Score [ISS] <15)と重症(ISS >15)とに二分化した。

結果
合計859名の患者が電子カルテ上で同定され、転送された患者、導入期およびwash-out期に入院した患者を除外した後、合計712人の患者が解析の対象となった。
患者はベースライン群442人[62.1%]、導入後群270人[37.9%]、平均[SD]年齢:81.4[9.1]歳、女性394人[55.3%]であった。外傷機転は両群間で同様であり、ベースライン群では247人(55.9%)、導入後群では162人(60.0%)が転倒を経験していた(P = 0.43)。ISSは両群で同様であった(軽度・中等度:ベースライン群261人[59.0%]、導入後群168人[62.2%]、P = 0.87)。
せん妄の有無は、ベースライン群に比べ導入後群で有意に低かった(導入後群18.5%[270人中50人] vs ベースライン群28.3%[442人中125人];P = 0.002)
軽傷・中程度の外傷を負った患者は、せん妄の発生率が顕著に減少した(ベースライン群 15.6% [69/442] vs. 導入後群 8.5% [23/270]; P = 0.001).患者特性で層別化すると、導入後のせん妄の減少は、女性患者(43%減少)、転倒患者(50%減少)およびISSが15未満の患者(45%減少)で観察された。なお非英語話者に関してはベースライン群6.3% vs. 導入後群3.3%; P = 0.001でありせん妄の有意な減少は観察されなかった。

Implication
本研究は高齢外傷患者を対象とし、多職種によるケアパスウェイを作成することにより、臨床転帰が大幅に改善することを報告した。ケアという曖昧さを含む介入に関して臨床予後の改善を定量的に評価した点が本研究の強みである。本研究ではせん妄という医療者中心の評価項目を設定しているが、患者ケアに重点をおいた研究であることを考えると患者・家族満足度など患者中心の評価項目とする方が妥当ではないかと考えた。また感度分析や統計学的因果推論による解析を行っていない点が本研究の限界と考えられる。例えば分割時系列デザインを用いることでより介入による因果を適切に評価できた可能性がある。

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文責 高橋盛仁・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科