小児市中肺炎に対する外来抗生剤治療の短期と標準コースの比較 無作為化臨床試験

Journal Title
Short-vs Standard-Course Outpatient Antibiotic Therapy for Community-Acquired Pneumonia in Children
The SCOUT-CAP Randomized Clinical Trial
JAMA Pediatric.2022;176:253-261 PMID:35040920

論文の要約
【背景】
小児の市中肺炎に対して通常抗生剤治療は10日間行われる。抗生剤の使用期間を短くすることは、副作用や耐性菌拡大を抑えることに繋がるとされている。これまでの研究で抗生剤投与期間がより短い治療法は10日間の治療に比べて優劣がないことが知られているが、いずれの研究も非劣性試験である。本研究では外来加療が可能な市中肺炎の小児患者における抗生剤5日間投与は10日間投与に比べて副作用減少に寄与するかどうかを検証した。

【方法】
本研究は米国8都市の外来診療施設や救急外来で行われた多施設二重盲検偽薬対照優越性ランダム化比較試験である。対象は年齢6〜71か月の早期改善が見込まれる非重症の市中肺炎と診断された健康な小児とした。直近24時間以内の38.3℃以上の発熱、2歳未満は50回/分・2歳以上は40回/分の頻呼吸、重度の咳嗽があった者は除外した。被験者はβラクタム系経口薬を5日間内服したのち、プラセボか同じ抗生剤のいずれかをさらに5日間内服した。主要評価項目は抗生剤リスク期間調整後の治療終了時反応(the response adjusted for durationofantibiotic risk;RADAR)であり、これらは被験者の治療反応・症状の消失・副作用を基に患者にとって望ましい転帰順にランキング(desirability of outcome ranking;DOOR)で示され、同じDOORであった場合は投与期間が短い方を上位とした。RADARを用いて5日間、10日間治療でどちらがより望ましいRADARが得られる確率を推定した。サブ解析として鼻咽頭拭い液を採取し、抗生剤耐性遺伝子の有無を調べた。サンプルサイズは、5日間の治療のDOORが10日間の治療の比べよい確立が60%と仮定し、両側α0.05、検出力90%、フォローロス10%ととし、400人とした。主要評価項目の欠損に関しては多重代入を行った。検定にはマン・ホイットニーのU検定を行った。

【結果】
2016/12/2〜2019/12/16の期間で380人が対象となり各患者群の特徴、投与内容に差はみられなかった。いずれの群においても治療反応が不十分な被験者は10%未満であった。5日間治療は10日間治療に比べてより望ましいRADARの結果をもたらす確率が69%(95% Cl,63~75)であった。サブ解析では耐性遺伝子の検出数は5日間群1.17(0.35~2.43)と10日間群1.33(0.46~11.08)に比べて少なかった。外来治療可能な小児市中肺炎において抗生剤5日間投与は10日間投与に比べて臨床効果や副作用は同等であり、抗生剤への曝露や耐性菌の出現を減らす可能性が示唆された。

Implication
本研究の強みとしては、新しいアウトカム指標(DOOR/RADAR)を用いて優越性試験を行った点が挙げられる。しかし、研究計画段階ではDOORの優越性を仮定した試験として開始されたようだが、報告された結果は、有意差がみられたRADARを主要評価項目として報告し、差がみられなかったDOORは副次評価項目へ変更されており、結果が粉飾された危険がある。軽症肺炎を対象としているため、DOORのランクは1,2がほとんどであり、もともとDOORで差を示すことは難しい。また、副作用と感染による症状の区別が難しいこと、市中肺炎が臨床診断で、ウイルス性肺炎を含め他疾患が混入している可能性がある。軽症肺炎を対象とするため多くの除外基準が設けられ、1国の研究であることから外的妥当性に問題がある。以上から本試験のみから短期間抗菌薬療法を推奨することは出来ないが、これまで発表されてきた非劣性試験の結果も踏まえると、軽症肺炎に対する抗菌薬治療期間は短縮されていくだろう。

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文責 柏木淳史 芥川晃也 南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科