軽度外傷性脳損傷患者におけるCTの必要性を評価する際のグリアおよび神経細胞血中バイオマーカーと臨床予測ルールとの比較

Journal Title
Evaluation of Glial and Neuronal Blood Biomarkers Compared With Clinical Decision Rules in Assessing the Need for Computed Tomography in Patients With Mild Traumatic Brain Injury JAMA Netw Open. 2022 Mar 1;5(3):e221302. PMID: 35285924.

【目的】
軽症外傷性脳損傷(Mild traumatic brain injury;MTBI)において、頭蓋内病変の評価に頭部CTは有用である。しかし、放射線被曝や医療費増大の問題があり、頭部CTの使用を減らす努力がなされている。 これまでCanadian CT Head Rule (CCHR)、New Orleans Criteria (NOC)、National Emergency X-Radiography Utilization Study II(NEXUS II)などの臨床予測ルールが開発され、MTBIにおける頭部CTの利用が20-30%削減されたとされる。
2018年に神経細胞血中バイオマーカー[グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ユビキチンC末端水分解酵素1型(UCH-L1)]は、受傷12時間以内のMTBIにおける頭部CTの必要性を評価するのに有用であると、FDAによって認可された。本研究は、これらFDAに認可された神経細胞血中バイオマーカーと上記臨床予測ルール(CCHR、NOC、NEXUS II)の診断精度を比較した。

【方法】
アメリカのレベル1外傷施設の単施設前向きコホート研究であり、2010年3月16 日から2014年3月5日の期間でデータ収集をおこなった。組入基準は、受傷から4時間以内、GCS 13~15点の鈍的頭部外傷患者とし、18歳未満、失神や発作など先行するイベントのある外傷、中枢神経疾患のある患者は除外された。主要評価項目は、頭部CTで検出可能な外傷性頭蓋内病変の存在とした。研究対象者は、研究チームが詳細に評価をおこない組入を決定した。頭部CT施行、臨床予測ルールの適応は、初療治療医の判断で行われた。血液サンプルは受傷4時間以内に採取された。バイオマーカーと臨床予測ルールはロジスティック回帰分析を用いて比較された。Receiver Operating Curve(ROC)曲線を作成し、Area Under ROC(AUROC)を計算することで性能を評価した。サンプルサイズ計算は先行研究に基づいて行われた。両側Z検定(有意水準p<0.05)を利用し、頭部CTで陽性と判定されるひとが22人、陰性と判定されるひとが220人、バイオマーカーのAUROC 0.80、臨床判断ルールのAUROC 0.65と仮定すると、検出力が80%が得られるとした。

【結果】
MTBIが疑われた2274人から697人が選択基準を満たし、320人が不参加を表明し、377人が登録された。そのうち349人が頭部CTを施行され、CTにて頭蓋内病変を認めたのは23人だった。CCHRは感度100%, 特異度33%、NOCは感度100%、特異度16%、NEXUS IIは感度83%, 特異度52%だった。GFAP 67 pg/mL、UCH-L1 189 pg/mLをカットオフ値を設定すると感度100%、特異度25%、GFAP 30pg/mL, UCH-L1 327pg/mLと設定すると感度91%、特異度20%だった。また、バイオマーカーの定量的評価によるAUROCでは、GFAP単独で0.83、CCHRとの併用で0.88、NOCとの併用で0.85、NEXUS IIとの併用で0.83となり、UCH-L1単独では0.72、CCHRとの併用では0.79、NOCとの併用では0.77、NEXUS IIとの併用では0.77という結果になった。

【結論】
CCHR、NOC、GFAP+UCH-L1は、どれも同じ程度に感度が高い結果となった。GFAP-UCH-L1定量的検査を併用することによって臨床判断ルールの性能を向上させた。ただ、GFAPはUCH-L1によらず、それ単独で臨床判断ルールと併用した方が精度が高くなった。CCHRとGFAPの併用が、最も診断精度が高い結果となった。

Implication
本研究はMTIBIにおける臨床予測ルールとFDAに認可をうけた神経バイオマーカーの診断精度を比較した初めて前向きコホート研究である。CCHRは感度特異度ともに高く、不要な頭部CTを削減できる力があった。CCHRとバイオマーカーを組み合わせることで、診断精度が高くなったと報告されているが、ROCカーブでは、感度の高い領域(右上)では特異度の改善はみられず、感度の低い領域(左下)で特異度が高い傾向にあるため、精度全体としての改善がみられたとしても、除外のためのルールの精度は変わっていない。厳格なeligibilityチェックのため多くの患者が除外され、辞退者も多く、単施設研究であることを踏まえると選択バイアスが懸念される。また、28人は頭部CTが施行されておらず、その後の経過は不明である。以上から現時点の臨床現場においては、臨床予測ルールでも十分に評価は可能と考えられる。

post328.jpg文責:柴田泰佑/南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科