糖尿病を伴わない過体重もしくは肥満の成人における週1回のセマグルチドの皮下投与と1日1回のリラグルチド投与の効果

Journal Title
Effect of Weekly Subcutaneous Semaglutide vs Daily Liraglutide on Body Weight in Adults With Overweight or Obesity Without Diabetes - Semaglutide Treatment Effect in People with Obesity(STEP)8 trial

論文の要約
背景:GLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬は2型糖尿病に対する治療薬であるが、そのうちセマグルチドとリラグルチドは体重減少効果が示されており、米国では肥満治療薬として承認されている。上記2剤を比較した第2相試験では、セマグルチド0.4mg/日(2.8mg/週相当)皮下注がリラグルチド3.0mg/日皮下注より有意に体重を減少させた。そこで本研究は、過体重もしくは肥満患者に対してセマグルチド週1回2.4mg皮下注と、リラグルチド1日1回3.0mg皮下注の体重減少効果および副作用について比較した。

方法:本試験は、米国の19施設で行われた第3相非盲検ランダム化比較試験である。対象は自己申告で減量に1回以上失敗し、肥満度指数(BMI) 30以上またはBMI 27以上+体重関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患)を1つ以上保有する非糖尿病成人で、セマグルチド2.4mgまたはプラセボを週1回皮下投与する群と、リラクルチド3.0mgまたはプラセボを1日1回皮下投与する群に3:1:3:1に無作為に割り付けられ68週間追跡調査が行われた。主要評価項目は投与後68週時点における体重のベースラインからの変化率とし、検証的副次評価項目は投与週までに10%、15%、20%以上の体重減少を達成したこととした。
主要評価項目、検証的副次評価項目の多重比較に対して、階層的ゲートキーピングアプローチを採用した。サンプルサイズは介入群間の体重変化率の差を5%減少とし、検証的副次評価項目である体重が10%以上、15%以上、20%以上減少する介入群間比が1.6、2.2、4.5と仮定し、両側α0.05とし、各介入群それぞれ126人とするとパワーは90%以上、プールされた対照群を使用することにより、セマグルチドとプラセボ間のパワーが90%以上、リラグルチドとプラセボ間のパワーが80%以上と見積もられた。

結果: 2019年9月から2021年5月までの期間で参加者387名に対して登録されたのは338名で、セマグルチド:126名、リラグルチド:127名、プラセボ85名に無作為に割り付けられた。68週目の推定平均変化量はセマグルチドで-15.8%、リラグルチドで-6.4%であった。体重減少はセマグルチドがリラグルチドに比べて有意に大きかった。10%以上、15%以上、20%以上の体重減少を達成した被験者の割合はセマグルチドでそれぞれ70.9%、55.6%、38.5%、リラグルチドでは25.6%、12.0%、6.0%であった。10%以上、15%以上、20%以上の体重減少を達成するオッズ比は、全てセマグルチドとリラグルチドの間で有意に大きかった。

Implication
肥満・過体重の非糖尿病成人において、セマグルチド週1回追加は、リラグルチド1日1回と比べ68週時の体重減少が有意に大きかった。この違いは薬効だけでなく、アドヒアランスも関連している可能性がある。体重減少の程度は患者のベースの体重によって異質性がみられた。
これまでの研究結果も踏まえると、本薬剤が体重を減少させる効果があり、糖尿病治療薬としての実績も踏まえ、安全性にも大きな問題がないといえる。しかし、あくまで研究結果は体重減少および副作用のみに焦点をあてた、いわゆるコスメティックなアウトカムが評価されている。肥満は代謝異常に関連し、成人病疾患のリスクと考えられているが、この薬剤がこれらのリスクを減少させるかは依然として不明である。今後は体重だけでなく、生活習慣病を含むアウトカムの改善の検証に期待したい。

post321.jpg

文責 三好翔輝・南三郎


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科