感染性壊死性膵炎に対する早期介入群と延期介入群の比較

Journal Title
Immidiate versus Postponed Intervention for Infected Necrotizing Pancreatitis
N Engl J Med 2021; 385:1372-1381 DOI: 10.1056/NEJMoa2100826

背景
急性膵炎の約20-30%で感染性壊死性膵炎に進行するとされている。その標準的治療としては段階的アプローチが主流で、国際的ガイドラインでは壊死が被包化する
まで抗菌薬加療を行うことを推奨している。しかし、近年、開腹ではなく、経皮的ド
レナージや内視鏡的ドレナージなどの低侵襲処置が可能となり、膵臓専門医への国際的調査では45%の医師が早期ドレナージを推奨し、米国消化器病学会でも早期ドレーナージを推奨している。しかし、その早期介入の有益性は不明である。そこで、感染性壊死性膵炎に対して即時ドレーナジ治療が優れるか検証した。

方法
2015年8月から 2019年10月までの期間で、Dutch Pancreatitis Study Group の協力を得たオランダの22施 設で行われた多施設共同無作為化優越試験である。無作為化の対象は急性膵炎発症後35日以内に経皮もしくは 内視鏡的ドレナージをうけ得る患者とし、感染性壊死性膵炎と診断され無作為化後24時間以内にドレナージ を行う即時ドレーナージ群と被包化するまでドレナージを延期する群に1:1に振り分け比較した。Primary end pointは無作為化から6ヶ月間に発生した合併症に関して Clavien-Dindo分類に基づいて出される Comprehensive Complication index score とした。Secondary end point は死亡割合や、Comprehensive Complication index score に含まれる主要な合併症、Clavien-Dindo 分類で GradeIII以上の合併症を引き起こした患者数、介入数、在院日数や総コストなどが含まれた。 サンプルサイズ計算は遅延群のComprehensive Complication index scoreを40±27SD、早期群のそれを25点と仮定し、α5%、β80%、2%のフォローロスを想定し、104人とした。解析はIntention-to-treatで行った。データ欠損はなく代入法を要しなかった。結果は相対リスク比と一致する信頼区間もしくは、平均差にブートストラップ法によりバイアスが補正された95%信頼区間で示された。

結果
登録された合計 104 名の患者を即時ドレナージ群(55 名)と延期ドレナージ群(49 名)に無作為に割り付けた。Comprehensive Complication Indexの平均スコアは、ドレナージ即時投与群で57点、ドレナージ延期群で58点であった(平均差:-1、95%信頼区間[CI]、-12〜10、P=0.90)。死亡割合、新規発症の臓器障害、出血、腹腔内臓器穿孔、腸管皮膚瘻、創部感染、膵内分泌外分泌機能、平均在院日数、ICU滞在期間、コストに関しても両群で有意な差はみられなかった。その他の結果としては、インターベンションの平均回数は、即時ドレナージ群で 4.4 回、延期ドレナージ群で2.6回であった(平均差、1.8;95%CI、0.6〜3.0)。またドレナージ延期群では、19人(39%)の患者が抗生物質による保存的治療のみでドレナージを必要としなかった。

Implication
本試験では、感染性壊死性膵炎の患者における合併症に関して、即時ドレナージ群の延期ドレナージ群に対する優越性は示されなかった。しかし、ドレナージ延期群では壊死に対する侵襲的介入数が少なく、延期群の 39%が 抗菌薬投与のみで治癒したことが明らかになった。Limitationに関しては、術後合併症評価ツールであるComprehensive Complication Index score 以外に検証された適切なツールがなく、全ての合併症を評価出来ているわけではない点、最近の主流は内視鏡的介入が主であるが、手術的介入も含んでいる点、実際には急性膵炎発症から 35日以降に壊死性感染性膵炎と診断された患者が多く、ランダム化の前に不適格と判断された患者が多かった点を著者らは挙げている。上記以外に内的妥当性に関しては、本試験のデザイン上、早期介入群では侵襲的処置がどんな状況でも行われるため、不利に働く可能性がある。主要アウトカムがサンプルサイズ設定で予定していた点数よりも両群ともに高く、βエラーの可能性がある。膵壊死を起こした部位により介入が困難な状況も想定され、結果には異質性が予想される。本試験は早期介入の利益を前向きに検証した重要な試験である。即時ドレナージの有益性は示されず、介入時期はこれまでどおり、待機的ドレナージを含め個別に判断していくほかない。

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文責 青木 沙弥佳/南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科